温もりカフェで夢を見る

あや

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25.カフェルグナという場所

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(…なんだここ?)

 黒騎士団団長とランド君に連れられて丘を登った第一印象はそれだった。






 調査を切りのいいところで終わらせ、約束通り、黒騎士団長と、私に付き合ってくれるのかランド君とベースキャンプを出てロゼニアの街に向かった。

 王都に比べると本当に小さな町だと思ったが、魔獣もほぼこれまで出なかった地域ということで朗らかな人柄が多いということはわかった。すれ違えば歩くあいさつをし、子供なんかは騎士服が珍しいのか遠巻きで見てきたり、声をかけてきたりした。

 初夏。日がさしている今日はじっとりと汗が出るぐらいに暑い。
 騎士服、脱ぎたい。

 黒騎士団長もランド君もどういうわけか顔色すら変えていない。最低限の訓練には出ているものの、自分の領分は魔法研究。どんな鍛錬を積めばそんな涼しい顔をしていられるのだろう?いや、そんな訓練したくないけど。

 町の魔道具屋に入ると、初老の店主が挨拶してきた。
 自己紹介を終えて店内を物色する。色々と店主が説明をしてくれているがほとんど知っている事だった。黒騎士団長とランド君は真剣に聞いている。黒騎士団長の方はわからないが、ランド君もこの手の道具についてはよく知っているはずだ。

 話を聞いているのは単に人柄だろう。私にはできない。

 いくつか品物を物色する。

 裏から見てみたり、叩いてみたり、鑑定魔法を使ってみたりする。

 流石に落とそうをすると、ランド君が慌てて飛んできた。料金払えばいいじゃん。

 鑑定の結果は至極当然ものもだった。

 魔石を中心にその魔石を使用して動力を作る機構が青白く光になって見えた。その動力は使われている商品の要になる部分と繋がっていて、作用するようになっている。魔石が小さいものはその動力を最大限使う為に機構の作りが小さく、大きな魔石の時は、時と場合によるが魔力を盛大に使える単純な機構、または大きく魔力変換できるように複雑な機構が組まれている。

「他に商品は?」
「いくつかストックはありますが、目新しいものは特にありません。」
「そっか。ありがとう。」

 店主はさっき落とそうとしたからか、少し緊張しているように見えた。ランド君に怒られるからもうしないのに。
 黒騎士団長はあまりこういうものを真剣にみたことがないのか、いろんな商品をじっとみているようだった。

 確か、黒騎士団団長は魔力は常人並にしかなかったはず。

 それでも自分の体の基礎能力を限界まであげ、自然に能力強化を少しの魔力で補って強さを確立しているらしい。

 さらに強化しているときは必ず副団長と参謀がいる。 
 彼らがその分、魔法も使用できるのでフォローをしているらしい。

 あの三人の強さはそういう協力し合うことで最大限できているらしい。一人一人も強いらしいが。

 が。目の前にいる目つきの悪い大男はちょっと目を輝かせながら店主に色々質問している。こういうのをみてしまうと、狂犬じみた戦いの噂をよく聞く黒騎士団団長も、普通の男なのだな、と思ってしまう。

「ここには私の求めているものはなさそうでした。」
「そうですか。」

 ランド君にそういうと、店を見せてもらった店主に礼を言い、店を出た。
 この街にはもう一つ同じような魔道具店があったが、そこの規模は一番最初に見たものに比べてさらに小さいようだった。一応確認はしたけれど、やはり最初と変わらなかった。違うのは少し若いオーナーだったので新しいものもあるかと思ってみてみたのだが、特に目立つものはなく、最新型でも王都よりは少し遅れていたし、作りも平凡だった。

 何かヒントがあるかと思ったのにな。

「子供みたいにいじけないでください。何を探してるのか知りませんけど。」
「ランド君気がついてないの?」
「何がですか?」
「ヒント、ランチパックのお鍋とお皿。」
「それはどういう…」
「あ、見えましたよ。あそこです。」

 町から街道沿いを歩きながらランド君と喋っていると黒騎士団長が話に割って入ってきた。

 遠くに一件の古い民家のようなものが見える。煉瓦造りで、ドアは明るめのオーク材だ。その手前には小さくカフェボードが置いてあるのが見える。外にもテーブルがいくつか置いてあり、その敷地を背の低い樹木が囲っていた。

「モッペルがあの店を見つけたんですよ。」
「相変わらず鼻が効くんですね。」

 黒騎士団長の説明にランド君が苦笑している。確かにあそこの副団長は食べ物には目がなさそうだ。

 近づいていくと不思議な感覚を感じた。


 魔法…違うな。妖精…精霊…これも違うな。

 
 空気が凛と澄んでいた。初夏の暑さは感じるものの、不快感は幾分か減った気がする。
 高原だからそんなことを感じるのかとも思ったが、それも些細なことだろう。

 でも、不自然なほどに魔素を感じない。ほとんどない。町と同じだ。

 世界の中にはこういう場所はいくつかある。聖域というやつだ。

 魔素を多く含む土地の一つだが、魔獣の多い地域とは別に、こういう妖精や精霊が多い場所のことを指している。魔素が多いということ以外、その違いはまだよくわかっていないが、自分の感じた所感で言えば魔獣の多い地域は澱んでいる。妖精や精霊の多い地域は澄んでいる。

 少しおかしいのは魔素が溢れているというわけではないということ。山の調査地域の方がそういう要請や精霊の条件には合致している。

「考えすぎ…かな?」

 そんな小さな独り言は周りの二人にも届かなかった。

 

 

 
「いらっしゃいませ!」

 店に入るとカランッという乾いたベルの音が鳴った。それに合わせて元気のいい女性が挨拶をしてくる。奥にはもう一人大きな女性が作業をしていた。女性だけか…女性は少し苦手だ。

「は…初めまして。第二騎士団所属、調査部長のフーリア・コーネルです。」

 そう自己紹介するとランド君もそれに合わせて自己紹介をしていた。その女性店員は一度キョトンとした後、明るく笑顔になり

「初めまして。ここのオーナーをしているエレノア・ウィルソンです。こちらこそ調査終了までよろしくお願いいたします。」

 と、綺麗なカーテシーを披露した。けどその後に後ろにいる女性を見るとウィンクをしている。一般人で初っ端からカーテシーはしない、とすれば後ろの人から教わったのだろうか。

「お初にお目にかかります。ここで働いていますアマディオ・ドルファーノです。」

 こちらも綺麗な礼をみせるが…アマディオ…男性??男性???

 ……。ちょっと混乱した。 

 店内を見渡してみるが、やはり空気は澄んでいるように思えるのだが、肌に感じる魔素量は少ないように思える。テーブルに着くまでの間にいろんなものに触れてみるが、魔道具っぽいものは先ほど店で見たような日常遣いのものしかないように思えた。

 カウンターの中も覗き込みたかったが、その前にテーブルについてしまった。

 テーブルの横の窓際には綺麗でこじんまりしたランプが置かれていた。これも魔道具だろうか?普通のランプだろうか?

手で表面をなぞってみる。 

中で蝋を燃やすタイプのものだろうか。開いてみると、蝋代はあったが中は綺麗なものだった。飾りかもしれない。

 そのタイミングで先程の女性がメニューを持ってきてくれた。あまりお腹は空いてない…。と思ったのだが、もしかしたらここにある食器にも何か秘密があるかもと思って少なめの方のランチプレートを頼んだ。

 料理ができるまでの間、また周りを確認する。なんの変哲もない、古びれた、でもいい店だな、とは思う。逆に、そんななんの変哲もないところだけにあの違和感が浮き彫りになる気がした。

(うーん。足掛かりになるものは…。)

 そう思ってふとカウンターの方に向いた時エレノアと名乗ったオーナーが少し斜め上の方を見て微笑んだ。

 多分、一瞬のことだったと思う。彼女はそのあとは何事もなかったように料理を盛り付けていたし。そちらをまたみることもない。

 
 何をみてたの?妖精?

 
 一緒に来ていた二人はそんなことに気づく様子もなく今日の町での話や、もうすぐ来るであろう入れ替えメンバーの話をしている。…他の二人に確認することもできない。

 気になるけど凝視できなくて、何度かチラチラとカウンターの方を伺っていたら、頼んでいたメニューが届いた。
 まずはスープの入った皿をゆっくりこぼれないように持ち上げてみる。

 普通にあったかいな。

 側面、表面、触ったり眺めたり鑑定をしてみても機構みたいなものは現れないし、きっと普通の皿なのだろう。
 ではプレートは?

 巷でよくある木製のプレートだった。こちらも手触りを確認したり、裏面を見たりしてみるがなんともないごく一般的なプレートだ。
 街でのことをエレノアさんにランド君が喋っていたのできっちり反論しておいた。研究熱心なだけだ。

「うーん、普通のお皿だなぁ。そして普通のプレート…。」

 諦めてスープを口に含むと、ほんのりとコーンの甘さが広がった。ミルクの風味も申し分ない。

「んー。美味しいです。」

 なんか面倒くさくなってきたな。というかもう聞いた方が早いんではないだろうか。そもそも目の前のエレノア嬢はこないだの調理器具を使っていたわけだし。なんか気になることもあったし。ということで聞いてみよう。


「で、エレノアさん。騎士団のランチ用に使っている鍋と食器。どこで手に入れたの?」

 

 私は一瞬間が空いたのを見逃さない。何も見逃さないようにじっと見つめた。

「えっと、あの赤い鍋ですか?」
「そうあれ。後、銀食器。」
「どこですかね…すみません。この店を継いだ頃にはここにありました。きっと祖母のコレクションなんです。」

 目が泳いでる。嘘は苦手なタイプなのかな。
 左下に向いてるから、自分と対話してるのだろうか。言い訳を考えてる?
 こんなところで心理学を思い出すとか思わなかったな。

「祖母?エレノアさんのおばあさんはどちらに?」
「もう何年も前に亡くなっております。」
「そうなんだ。教えてくれてありがとう。」

 エレノアさんはそういうと笑顔を向けてごゆっくり、と言ってカウンターの方に去って言ってしまった。

 食事をしながらも、相手を見てみる。なんだか居心地が悪そうだった。

 
 何か言えないことがある?隠し事?

 
 今回の魔素の調査とは別の、単なる興味だった。原因がわかれば多分それで解決するとは思うんだけど、こうも隠された感じを感じ取ってしまうとさらに気になってしまう。騎士団であることを振りかざして高圧的な態度になることはできるけど、それは一緒にいる二人が許さないだろう。ただただ“ちょっと気になる”ことがちょっとずつ降り積もっていく。

 妖精でもいて、何か隠蔽とかしてるのかな?

 食事をしながら魔法の探査をかけてみる。横のランドが何かを感じ取ったのかこちらを見たが気にしない。クロワッサンをかじりながらも意識の中で集中していく。けれど店の中、ひいては周りにも妖精はいなさそうだった。

 あと考えられることは…

 と思っていたらバチッとエレノアさんと目があった。思いっきり顔をそらされる。
 …こちらの探知に気づいた?

 探知は魔力を使用して使う魔法だが、その量は攻撃魔法とかに比べると少ない。探知している時に的に気づかれてもいけないし。魔法に特化した人間だと、身にかかる薄い魔法に気づくことはできるが一般市民は気がつくこともない。
 魔力が大きいのかと思ったりもしたが、ここにいる第二騎士団のランド以外は一般的だ。

 
 じゃあどうやって気がついた?

 
 色々食事しながら考えたことで、一つ思い出したこともある。
 ただ、魔法を使う自分にとってはちょっとお伽話のような話だ。そういうのを好む子供でもない。ただ、想像する分には問題がするりと解けてしまうのだ。

 あれが魔道具ではないのだとしたら?
 魔導具以外の希少品だとしたら?

 自分が見たことのあるものは王族の保持しているものだけだ。
 古びた用具は今現在でも使用可能。
 古代から続くものだとすれば、それは国に押収品されかねない。

 ただ、今騎士団で使用しているものは新品のように見える。
 なのでどこかで掘り起こして発掘したものでもないだろう。

 
 これらのことを考えてはいるが、結局は仮説だ。
 検証はできない。確証もない。
 そもそもそれは御伽噺になっているような今ではない文明なのだから。

 
 考えても出ない答えに頭がカロリーを消費しているのか、目の前の食事をあっという間に平らげた。と言ってもランド君も黒騎士団長も食べ終わって食後のコーヒーをしていた。

 とてもいいタイミングでアマディオさんがコーヒーを持ってきてくれた。エレノアさんがきたら別の質問もできたんだけどな。そのためなら女性とだって頑張ってお話しするのに。

 

 そのあとは食事を終えてそのまま帰ることになった。ランド君がまた来る、と言っていたので私も便乗することにする。また来たら何かわかるかもしれない。もしくは話して質問できるかもしれない。そう思うと楽しくなってきた。

「また、色々見せてください。ふふ。」
「い、色々?」
「フーリアそろそろやめろ馬鹿。」

 色々知りたいだけなのにゲンコツを落とすことはないと思うんだ、ランド君。気になったことを探求したいだけなのに。

 そんな私の気持ちを知ってかしらずか、ランド君に引きずられる形でルグナを後にした。
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