お飾り王妃は愛されたい

神崎葵

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七話

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 厨房では何人ものシェフが忙しなく動いている。朝食の準備はもう終盤なようだけど、昼食の仕込みを行っているようだ。

「王妃様……! ではなく、ええと……」

 ひょっこりと顔を見せた私に、その中でも一番年若い青年が目を丸くしていた。
 どう呼べば悩んでいるのだろう。きょろきょろと動く目は、私の隣に立つ侍女に助けを求めているようだ。

「リンエルより参りました、シェリフと申します。今後ともお世話になりますので、よろしくお願いいたします」
「いえ、こちらこそ、こんなところまで足を運んでいただき、ありがとうございます」

 淑女の礼をもって挨拶すると、青年もコック帽を外し頭を下げた。それからうかがうように「シェリフ様、とお呼びすればよろしいでしょうか?」と聞かれたので、頷いて返す。
 オーギュストに嫁いでいない私の立場は、リンエルからの貴賓という扱いになっているのだろう。彼らにとってはいつかは王妃になる相手でも、今はそうではない。
 かといって、殿下と呼ぶのも違う。私はリンエルの王女ではあっても、ライナストンの王女ではないから。

 それから一人一人に挨拶して回った。
 貴族出身の者がシェフになることは珍しい。次男、三男などが身を立てるために就くのはたいてい騎士で、シェフを志す者は多くはないからだ。
 何故なら、騎士には一代限りとはいえ騎士爵が与えられるが、シェフにはそれがないからだ。

 王族の口に入るものを作れるのは名誉ではあるが、逆に言えばそれだけでしかない。

 だから、厨房にいる者の大半はどこかしらかで修業し、貴族からの紹介状を得た平民出身が多い。
 貴族との縁を持つ者ばかりだが、他国とはいえ王族と接した機会がある者はそういないのだろう。慣れない事態にとまどっている者が多い。
 ちらちらと侍女を見る者が多いのは、それに起因しているのだろう。言葉遣いが大丈夫か、礼儀を逸していないのか不安でならないのだと思う。

「そうかしこまらないでください。私はただ、あなた方に感謝を伝えたかったのです」
「感謝、ですか……?」
「はい。リンエルは災害による飢餓に襲われたことがあります。ライナストンからの支援により大事にはいたりませんでしたが、その経験から食べることの大切さを忘れられないのです。ですので……こうして私たちが食べるものを作ってくださるあなた方に感謝の意を伝えたくてまいりました」

 ありがとうございますと言ってから、厨房全体を見回す。

「……お時間を取らせてしまいましたね。どうぞこれからもよろしくお願いいたします」

 私の対応のために作業を中断している彼らに再度頭を下げてから、厨房を出た。
 隣で控えている侍女がなんとも言えない顔をしているのは、王族がやすやすと頭を下げるべきではないと思っているからだろうか。

 だけど私はまだライナストンの王妃ではない。ただの小国の姫君に過ぎない。
 だから、下げる頭はいくらでも持ち合わせている。
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