1 / 4
歩行式電塔
しおりを挟む果てについて考えるのを諦めるほど、長く長く伸びた道は、夕陽に照らされて辺り一面古写真のような景色になっていた。
いつぞやの時とは違い、道もきちんと把握している。
確かな情報を手に入れたのだから、心にもガソリンにも余裕があるし、今は対向車もいない。
追われているという、一つの問題を除けばただの穏やかなドライブであった。
長い坂を越えたところ、レガは前方にユラユラと揺れる巨大なものを見つけた。
「アルバ、見て、電塔が歩いてる。」
そう言われて彼女は、興味深げに後部座席から身を乗り出した。
「本当だ。こんな明るい時に見れるなんてツいてるね。」
そう言いながら、一旦周りを見渡す。
「…近くで見てみよう。」
流石に「あの人」が上空から来ることなんて無いだろうに、
念入りに上も確認しているのを見てレガは気づかれないように少しだけ笑った。
ある程度まで近づいたところで道の脇に車を停めた。
間近で見る電塔はかなり大きく、
6本の腕と長い胴を左右に揺らしてゆっくりと道なりに進んでいる。
「電線を抜かれてるから、これ全部処分場行きか…。自分の足で墓場まで歩かされるなんて…一体どんな気持ちなんだろう。」
「気持ちも何もないよ。それに、どちらかというと再生かな…。この車だって、安かったからきっとこれの鉄で出来てる。」
アルバはそう言いながら、真っ赤な車体を軽く叩いた。
コンと可愛らしい音が鳴る。
巨大な電塔は揺れるたびに全身の鉄骨を軋ませ、大きな低い音を立てながら一歩、また一歩と足を進めていった。
グヮアン…
グヮアン…
「懐かしいなこの音、子供の頃怖くて眠れなかった。」
電塔の行進は一般的には真夜中に行われる。
電線をつけたまま、総長と呼ばれる技師が数基の塔を操作して指定の場所に移動させるのだ。
この歩行式電塔の軋み音は、人々が寝静まった夜に不気味に辺りに鳴り響き、この音にトラウマを植え付けられる子供は決して少なくない。
レガは夕陽の明かりに少しだけ顔をしかめながら、懐かしむように電塔を見上げているアルバを見た。
「子供の時って…、今も子供じゃないか…」
「はは、本当はもう大人なんだけどね。」
その言葉に思わず苦笑していると。
アルバの背後にほんの小さな黒い影が見えた気がした。
「…もう行こう。」
促すように、レガは彼女の背中を押す。
「え、もう?」
「うん…「あの人」が来たみたいだ。」
アルバはそれを聞いて少し悲しそうな表情をした。
「行こう。」
もう一度レガは彼女の背中を押して、
2人は車に戻った。
「墓場まで歩かされてるのは、俺の方かもしれないな…。」
ドアミラー越しに映る小さなシルエットを注意深く見つめていた彼女には、
エンジン音と共に吐き出されたレガの言葉は聞こえていないようだった。
0
あなたにおすすめの小説
片思い台本作品集(二人用声劇台本)
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
今まで投稿した事のある一人用の声劇台本を二人用に書き直してみました。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。タイトル変更も禁止です。
※こちらの作品は男女入れ替えNGとなりますのでご注意ください。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
👨一人用声劇台本「寝落ち通話」
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
彼女のツイートを心配になった彼氏は彼女に電話をする。
続編「遊園地デート」もあり。
ジャンル:恋愛
所要時間:5分以内
男性一人用の声劇台本になります。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
