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Episode1:青天の霹靂
①
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鉛色の雲間から、澄んだ陽光がこぼれ落ちる。
雨露をまとってきらめく、ベランダの葉々。向かいに聳えるビルの窓ガラスは青空を映し出し、道行く子どもたちのはしゃぎ声を反響させる。
土曜日の朝。長い梅雨の、短く貴重な晴れ間。
バイト先へと赴く身支度を整えながら、瑛茉は部屋の片隅に声を投げかけた。
「OK Novaria. What's the weather like today?」
『It's sunny today.』
瑛茉の質問に、音声アシスタントがすかさず答えた。どうやら、今日は傘の出番はなさそうだ。
背中まで伸びた胡桃色の髪を、手櫛でひとつに束ねる。軽くメイクを施すために鏡と向き合えば、大きな榛色の双眸と目が合った。
大学進学を機に来日したのは、今から二年前。二十歳を迎える年の、三月のことだった。
亡くなった母の故郷である日本。自分の生まれ故郷でもある日本。
父をひとりアメリカに残してくることに抵抗はあったけれど、日本に焦がれ、憧れ続けた自分の背中を押してくれたのは、ほかでもない父だった。
雨上がりの空気を、すんっと肺いっぱいに吸い込む。
持ち物を確認して、窓を施錠して。
「いってきます」
チェストの上。
家族三人で撮った最後の写真に微笑みかけると、鍵をかけて部屋をあとにした。
共用廊下を、青空がついてくる。
三階から、階段を利用して、一階のエントランスへ。途中、慌しい様子の住人数人とすれ違うたび、挨拶とともに労いの言葉をかけ合った。
たどり着いたエントランスでも、忙しなく動く住人を見かけた。部屋から次々と家財道具を運び出している最中だった。
その原因とも言うべき一枚の張り紙を横目に、瑛茉は青空の下へと繰り出した。
〝改築工事に伴う一時退去のお願い〟
雨露をまとってきらめく、ベランダの葉々。向かいに聳えるビルの窓ガラスは青空を映し出し、道行く子どもたちのはしゃぎ声を反響させる。
土曜日の朝。長い梅雨の、短く貴重な晴れ間。
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「OK Novaria. What's the weather like today?」
『It's sunny today.』
瑛茉の質問に、音声アシスタントがすかさず答えた。どうやら、今日は傘の出番はなさそうだ。
背中まで伸びた胡桃色の髪を、手櫛でひとつに束ねる。軽くメイクを施すために鏡と向き合えば、大きな榛色の双眸と目が合った。
大学進学を機に来日したのは、今から二年前。二十歳を迎える年の、三月のことだった。
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父をひとりアメリカに残してくることに抵抗はあったけれど、日本に焦がれ、憧れ続けた自分の背中を押してくれたのは、ほかでもない父だった。
雨上がりの空気を、すんっと肺いっぱいに吸い込む。
持ち物を確認して、窓を施錠して。
「いってきます」
チェストの上。
家族三人で撮った最後の写真に微笑みかけると、鍵をかけて部屋をあとにした。
共用廊下を、青空がついてくる。
三階から、階段を利用して、一階のエントランスへ。途中、慌しい様子の住人数人とすれ違うたび、挨拶とともに労いの言葉をかけ合った。
たどり着いたエントランスでも、忙しなく動く住人を見かけた。部屋から次々と家財道具を運び出している最中だった。
その原因とも言うべき一枚の張り紙を横目に、瑛茉は青空の下へと繰り出した。
〝改築工事に伴う一時退去のお願い〟
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