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Episode1:青天の霹靂
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瑛茉がバイト先に到着する頃には、記憶の中の故郷と同じ、高く突き抜けるような夏空が広がっていた。
和モダンカフェ〝月見茶房〟。
大学からほど近い路地裏に位置するここは、白と茶を基調とした和風インテリアが印象的な、知る人ぞ知る名店である。
「しかしまあ梅雨明けみたいな空だね」
しみじみとした口調で、店主の月尾悠がこう言った。
セミロングの癖毛をハーフアップにし、長い前髪から蠱惑的な猫目を覗かせる。
脱サラし、ここに店を構えて三年になるという彼は、つい先日三十二歳を迎えたばかりの若き店主だ。
「今日は一日いいお天気みたいですね」
慣れた手つきでテーブルセッティングを施しながら、瑛茉が応える。
大学一年の夏から始めたここでのバイトも、もうすぐ二年。最初は月尾の甘味に魅せられた客のひとりだったが、彼の妻が育児に専念したいということで、彼女の代わりに急遽雇われることとなった。
開店時間の八時半まで、およそ半時間。今日は土曜日ということもあり、モーニングの予約も多数入っている。
「どう、瑛茉ちゃん。退去先決まりそう?」
懸念事項とも呼べる目下の最重要課題について、月尾が心配そうな面持ちで問いかけた。瑛茉にその事実を告げられてからずっと、月尾は気にかけていたのだ。
「いえ、まだ……大家さんがいくつか推薦してくれて、候補はあるんですけど……なかなか」
「うち来てもいいんだよ? 大学も近いし、奥さんも『大歓迎!』って目きらきらさせてるし」
こんな提案をしてしまうくらいに。
「い、いえ! それはあまりに申し訳なさすぎるので……!」
両手を体の前に突き出し、手のひらと頭をぶんぶん振る。こういう咄嗟のジェスチャーは、すっかり日本人のそれである。
管理会社から改築工事を知らされたのは、ちょうど一週間前のこと。
退去までの期限はひと月で、退去期間は三ヶ月。工事が完了する九月の下旬まで、マンションに住めなくなってしまった。
アメリカにいる父には、その日のうちに連絡した。十六時間もの時差のせいですぐに会話ができないのはもどかしいけれど、それでも顔を見ながらやりとりできる現代のツールには感謝しかない。
良くも悪くも〝アメリカン〟な父からは、『急いで決めてもろくなことがない。エマにとってのベストを考えよう』と言われたきり。父は父でいろいろと考えてくれてはいるようだが、いまだ結論に至っていないというのが実情だ。
「退去までまだもう少し時間があるので、近いうちにまた父と相談してみます」
「そっか。何か困ったこととか相談したいことがあれば、遠慮せずに言って」
月尾の優渥な言葉に、瑛茉は胸が熱くなるのを感じた。
月尾夫妻といい、彼といい、自分はつくづく人に恵まれている。
「ありがとうございます。……心強いです」
不安がなかったわけではない。今だって不安だ。けれど、日本に来たことを後悔したことは一度もない。
この人たちと出会えて本当によかった。
日本に来て、本当によかった。
和モダンカフェ〝月見茶房〟。
大学からほど近い路地裏に位置するここは、白と茶を基調とした和風インテリアが印象的な、知る人ぞ知る名店である。
「しかしまあ梅雨明けみたいな空だね」
しみじみとした口調で、店主の月尾悠がこう言った。
セミロングの癖毛をハーフアップにし、長い前髪から蠱惑的な猫目を覗かせる。
脱サラし、ここに店を構えて三年になるという彼は、つい先日三十二歳を迎えたばかりの若き店主だ。
「今日は一日いいお天気みたいですね」
慣れた手つきでテーブルセッティングを施しながら、瑛茉が応える。
大学一年の夏から始めたここでのバイトも、もうすぐ二年。最初は月尾の甘味に魅せられた客のひとりだったが、彼の妻が育児に専念したいということで、彼女の代わりに急遽雇われることとなった。
開店時間の八時半まで、およそ半時間。今日は土曜日ということもあり、モーニングの予約も多数入っている。
「どう、瑛茉ちゃん。退去先決まりそう?」
懸念事項とも呼べる目下の最重要課題について、月尾が心配そうな面持ちで問いかけた。瑛茉にその事実を告げられてからずっと、月尾は気にかけていたのだ。
「いえ、まだ……大家さんがいくつか推薦してくれて、候補はあるんですけど……なかなか」
「うち来てもいいんだよ? 大学も近いし、奥さんも『大歓迎!』って目きらきらさせてるし」
こんな提案をしてしまうくらいに。
「い、いえ! それはあまりに申し訳なさすぎるので……!」
両手を体の前に突き出し、手のひらと頭をぶんぶん振る。こういう咄嗟のジェスチャーは、すっかり日本人のそれである。
管理会社から改築工事を知らされたのは、ちょうど一週間前のこと。
退去までの期限はひと月で、退去期間は三ヶ月。工事が完了する九月の下旬まで、マンションに住めなくなってしまった。
アメリカにいる父には、その日のうちに連絡した。十六時間もの時差のせいですぐに会話ができないのはもどかしいけれど、それでも顔を見ながらやりとりできる現代のツールには感謝しかない。
良くも悪くも〝アメリカン〟な父からは、『急いで決めてもろくなことがない。エマにとってのベストを考えよう』と言われたきり。父は父でいろいろと考えてくれてはいるようだが、いまだ結論に至っていないというのが実情だ。
「退去までまだもう少し時間があるので、近いうちにまた父と相談してみます」
「そっか。何か困ったこととか相談したいことがあれば、遠慮せずに言って」
月尾の優渥な言葉に、瑛茉は胸が熱くなるのを感じた。
月尾夫妻といい、彼といい、自分はつくづく人に恵まれている。
「ありがとうございます。……心強いです」
不安がなかったわけではない。今だって不安だ。けれど、日本に来たことを後悔したことは一度もない。
この人たちと出会えて本当によかった。
日本に来て、本当によかった。
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