【完結】夕凪のピボット

那月 結音

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Episode4:それぞれのベクトル

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「そういや、今月ほとんどあいつ見てねーな」
 閉店後。店内の清掃をしながら、ぽつりと月尾が呟いた。壁に掛けてあるカレンダーを眺め、「もう七月終わんじゃん」と、ため息交じりにこぼす。
 瑛茉の肩が、ぴくっと震えた。
 月尾の言う「あいつ」とは、言わずもがな崇弥のことだ。月見茶房ここへは、月の初めに一度顔を出したきり来店していない。
 ただ、彼の来店がぱたりとやんだとしても、それはけっして珍しいことではない。仕事の都合でひと月以上顔を出さないなんてことも、ざらにある。
 彼の顔を見ていない。
 実は、家でも。
 あの日以来——崇弥に告白されたあの日以来、瑛茉は彼の顔をほとんど見ていない。とはいえ、互いに避けているわけではない。単純に、彼の在宅時間が短いだけだ。
 事実、顔を合わせれば会話はしているし、時間が合えば一緒にご飯も食べている。
 気まずくなどない。いつもどおりなのだ。
 驚くほどに。
「……言いづらかったら、いいんだけどさ」
「?」
 しかし、月尾は何かに気づいているようだった。
「瑛茉ちゃん、あいつとなんかあった?」
「!」
 否、具体的に気づいていた。
 感情を豊かに表現することがあまり得意ではないことに加え、母国語ではない日本語でのコミュニケーションが少なからず障壁となり、瑛茉は自分のことをあまり語らない。
 そのことを、月尾は理解している。ゆえに、先日から様子が気になりつつも見守っていたのだが、ついに今日は口に出してしまった。
 瞠目し、固まる瑛茉。そんな瑛茉のほうをあえて見ることなく、月尾が続ける。
「いや、ごめん。この訊き方は良くないね。俺にも責任あるから。……ひょっとして、あいつ、自分の気持ち瑛茉ちゃんに伝えた?」
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