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Episode4:それぞれのベクトル
①
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カリカリと、ペン先が紙の上を走っていく。
梅雨明けの夕日が差し込む小部屋。その片隅に、黙々と作業する瑛茉の姿があった。
机上に広げた教科書や資料集に目を落とし、次々と重要な語句を拾っていく。途切れることなく続く思考の軌跡。記憶や理解を促すための、自分にとって最も効果的な方法。
春学期末試験真っ只中の、七月下旬。瑛茉は、バイトの休憩時間を利用して、試験勉強に勤しんでいた。
試験期間中はいつも、この事務室を勉強部屋として提供してもらっている。以前、月尾から「試験期間中は無理してシフト入れなくてもいいよ」と気遣ってもらったこともあったが、一日中こもって勉強をするのは性に合わないため、今回もシフトを入れてもらった。
「瑛茉ちゃん、おつかれ。これ食べな」
そろそろ集中力が切れる頃合いだろうと、見計らった月尾が軽食を持ってやってきた。案の定、瑛茉の持っていたペンは、机上に転がっている。
「すみません、店長。……わあっ!」
そうして差し出された大好物に、瑛茉の顔がぱっと花やいだ。
「厚焼き卵サンド。いつも美味しいって食べてくれるから、調子に乗って今日も作ってみた」
「ありがとうございます!」
白い食パンに挟まれた、黄金色の卵。ふわふわでぷるぷるのそれからは、ほんのり湯気が立ちのぼっている。
手を合わせて、ぱくりとひとくち。出汁とバター、マヨネーズの優しい味と、ちょっぴり鼻に抜けるマスタードのバランスが絶妙だ。
「試験勉強続ける? このままここにいてもいいし、上がってもいいよ」
「いえ、大丈夫です。戻ります。休憩も、サンドも、ありがとうございました」
大好物の厚焼き卵サンドを完食すると、瑛茉は勉強道具一式を片づけた。胡桃色の髪を結び直し、立ち上がる。
自分で課したノルマは達成できた。就寝前に再度確認すれば、おそらく大丈夫だ。
「試験期間、今週いっぱいだったよね?」
「はい。あと三日です」
「そっか。……無理しなくていいからね。時間欲しくなったら、いつでも言って」
学生の本分は勉強——月尾がいつも言っている言葉だ。
瑛茉自身もそれはじゅうぶんに理解しているため、学業をおろそかにすることはない。とはいえ、試験を口実にバイトを休むのは、なんだか憚られた。
自分に与えられたことは、可能なかぎりすべてこなす。
日本の大学に進学したいというわがままを父が叶えてくれたとき、瑛茉は自分にそう誓った。
梅雨明けの夕日が差し込む小部屋。その片隅に、黙々と作業する瑛茉の姿があった。
机上に広げた教科書や資料集に目を落とし、次々と重要な語句を拾っていく。途切れることなく続く思考の軌跡。記憶や理解を促すための、自分にとって最も効果的な方法。
春学期末試験真っ只中の、七月下旬。瑛茉は、バイトの休憩時間を利用して、試験勉強に勤しんでいた。
試験期間中はいつも、この事務室を勉強部屋として提供してもらっている。以前、月尾から「試験期間中は無理してシフト入れなくてもいいよ」と気遣ってもらったこともあったが、一日中こもって勉強をするのは性に合わないため、今回もシフトを入れてもらった。
「瑛茉ちゃん、おつかれ。これ食べな」
そろそろ集中力が切れる頃合いだろうと、見計らった月尾が軽食を持ってやってきた。案の定、瑛茉の持っていたペンは、机上に転がっている。
「すみません、店長。……わあっ!」
そうして差し出された大好物に、瑛茉の顔がぱっと花やいだ。
「厚焼き卵サンド。いつも美味しいって食べてくれるから、調子に乗って今日も作ってみた」
「ありがとうございます!」
白い食パンに挟まれた、黄金色の卵。ふわふわでぷるぷるのそれからは、ほんのり湯気が立ちのぼっている。
手を合わせて、ぱくりとひとくち。出汁とバター、マヨネーズの優しい味と、ちょっぴり鼻に抜けるマスタードのバランスが絶妙だ。
「試験勉強続ける? このままここにいてもいいし、上がってもいいよ」
「いえ、大丈夫です。戻ります。休憩も、サンドも、ありがとうございました」
大好物の厚焼き卵サンドを完食すると、瑛茉は勉強道具一式を片づけた。胡桃色の髪を結び直し、立ち上がる。
自分で課したノルマは達成できた。就寝前に再度確認すれば、おそらく大丈夫だ。
「試験期間、今週いっぱいだったよね?」
「はい。あと三日です」
「そっか。……無理しなくていいからね。時間欲しくなったら、いつでも言って」
学生の本分は勉強——月尾がいつも言っている言葉だ。
瑛茉自身もそれはじゅうぶんに理解しているため、学業をおろそかにすることはない。とはいえ、試験を口実にバイトを休むのは、なんだか憚られた。
自分に与えられたことは、可能なかぎりすべてこなす。
日本の大学に進学したいというわがままを父が叶えてくれたとき、瑛茉は自分にそう誓った。
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