【完結】夕凪のピボット

那月 結音

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Episode5:花火の下で

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「今……なん、て……」
「好きです。九条さんが。……返事、遅くなってしまって、ごめんなさい」
 瞠目し、息を詰まらせながら、なんとか言葉を発した崇弥。
 そんな彼に、再度瑛茉が告白する。
「あれから、自分の気持ち、ずっと考えてて……今日、やっと、答えが出ました」
 徐々にしぼむ声音。ここへ来て、突如込み上げてきた緊張に視線を落としそうになるも、瑛茉はそれをどうにか堪えた。
 以前、月尾が言っていた。崇弥は、自分のことを、ひとりの〝女性〟として心から大事に思っていると。
 さっきも、これまでも、ずっとそう。いつだって、崇弥は自分のことを大事にしてくれた。こんな自分のことを、一番に考えてくれていた。
 不安が消えたわけじゃない。でも、自分も大事にしたいと思ったのだ。
 この人の気持ちを。この人と過ごす時間を。
 この人の、笑顔を。
「……ただ、答えを出す決め手になったのが……その……『あの人と一緒にいてほしくない』っていう、ネガティブな感情というのが、なんというか、あまり頂けないとは思うんですけど……」
「……」
「……九条さん?」
 不意に。
 それまで結んでいた視線を、すっと崇弥にほどかれてしまった。両手で顔を覆い、心なしか肩を震わせている。
 初めて見る彼の様子に、瑛茉は自分の顔が青ざめていくのを感じた。
 ひょっとして、何か言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか。間違った日本語を、使ってしまったのだろうか。
 どうしよう。
 どうしよう。
 怖い——。
「ごめ……ちょっと待って……。嬉し過ぎて、たぶん俺すごい情けない顔してる……」
 瑛茉の大きな瞳が、ぱちくりとまばたいた。
 予想外の崇弥の反応に、一瞬思考が停止してしまった。が、思い違いだったということに安堵し、胸のざわつきは瞬時におさまった。
 ややあって。
「……ほんとに俺でいいの?」
 恥ずかしさと嬉しさを内包した双眸で、崇弥が問う。
 これまでの遠慮のなさはいったいどこへ行ったのか。つい可笑しくなって相好を崩すも、瑛茉は大きく肯いた。
「It has to be you. (あなたじゃなきゃダメなんです)」
 ぱっと。
 瑛茉の視界から、弾けるように光が消えた。
 背中が痛い。痺れたみたいに。
 自分のものとは違う体温。鼻翼をくすぐる甘やかな香り。
 彼に抱きしめられたと気づいたときには、目の前に彼の顔があった。
 もう何度も見た。夜空を思わせる、神秘的な、彼の黒いオニキス。
 その中で揺れ動く自分を見ていると、まるで水に沈んでいるかのような錯覚をおぼえた。
「好きだ、瑛茉ちゃん……ほんとに……っ——」
「わたしもです。くじょ——、……さん」
 顔が、鼻先が、自然と近づく。
 呼吸が止まる。
 吐息がひとつになる。
 初めて交わした口づけは、まるで凪いだ海のように、穏やかで、優しかった。


 < to be continued…… >
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