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Episode9:夏の終わりに
⑩
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瑛茉と祖母が用意した軽食を取りながら、五人で食卓を囲む。
豆腐サラダや浅漬け、おにぎりといった和風メニューに、オリヴァーは「美味しい」と「懐かしい」を繰り返した。娘の作ったものを食べるのは三年ぶり。義母の作ったものを食べるのは、実に十七年ぶりだった。
「I still think Japanese food is the best. It's simple and healthy.(やっぱり和食はいいね。素朴で健康的だ)」
「Your daughter told me that you enjoy Japanese food.(日本食が好きだとお聞きしましたが)」
「Yeah, I do.(そう、大好きなんだ)……アッ! 日本語デ大丈夫。娘ミタイニ話ス上手クナイ、ケド、聞クハ almost 100%」
オリヴァーの話す日本語は、たどたどしくもあたたかかった。あまり英語に馴染みのない義父母に配慮したのだろう。実際に島で生活していたということもあり、標準語からこの地方の方言に至るまで、リスニングはほぼ完璧だ。
「Anyway(それにしても)……ビックリシマシタ。娘ガオ世話ニナッテルガ、クジョー副社長ナンテ」
「あっ、ご、ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません。同居の件も、もっと早く私のほうからご連絡するべきで——」
「Oh, don't be so stiff!(ああ、そんなふうにかしこまらないで!) トテモ感謝シマス。娘ガ困ル、デモ、私ハ助ケル、スグニデキナイカラ」
オリヴァーの言葉には、瑛茉への深い愛情と崇弥への感謝が、つぶさに込められていた。
父親として、娘の幸せを願うのは当然のことだろう。しかし、正直、娘から事情を聞いて複雑な気持ちになったのも事実だった。
同居していること。同居相手が、あの九条光学の副社長であること。交際していること。
九条社長と会ったことも聞いた。西園寺の令嬢のことも。
つらい思いをして帰島したにちがいない。けれども、けっして人懐こいとは言えない娘が……自己表現の苦手な娘が、これほどまでに心を許していることが、彼を信用するに足る何よりの証左だとオリヴァーは判断した。
噂に違わぬ誠実さ。ますます興味が湧いた。
「崇弥さんに会いたかったのは、わたしがお世話になってるから?」
「That's part of it, but I wanted to talk to him anyway. I just found out later that he was taking care of you.(もちろんそれもあるけど、お前が世話になっているのを知る前から、彼とは話がしたいと思っていたんだ)」
「仕事の?」
「Yes. デモ、今、休ンデル聞キマシタ」
「……はい。わざわざご連絡いただいたのに、大変申し訳なく……。ただ、ご用件をお伺いしても、私では御社のご期待に沿えないかもしれません」
「……Are you being removed from the management team?(……経営から外される?)」
「私の口からは、なんとも……」
「原因ハ娘デスカ?」
「それは違います。すべて私ひとりで決めたことです。今回のことで、瑛茉さんにはたくさん迷惑をかけましたが、彼女に責任はいっさいありません」
たゆみない眼差し。
迷いなどない、覚悟を決めたそれが、炯々と光を放つ。
このとき、オリヴァーは確信した。
「Even if they let you go,(もしも会社が君を処分したとしても)……私タチハ、アナタヲ諦メマセン」
「……え?」
自信に満ちた笑みで、高らかにこう宣言する。まさに大胆不敵。
全世界でトップシェアを誇る検索エンジン運営会社〝Novaria〟。世界最高峰の経営者のその双眸は、はっきりと、未来を見据えていた。
< to be continued…… >
豆腐サラダや浅漬け、おにぎりといった和風メニューに、オリヴァーは「美味しい」と「懐かしい」を繰り返した。娘の作ったものを食べるのは三年ぶり。義母の作ったものを食べるのは、実に十七年ぶりだった。
「I still think Japanese food is the best. It's simple and healthy.(やっぱり和食はいいね。素朴で健康的だ)」
「Your daughter told me that you enjoy Japanese food.(日本食が好きだとお聞きしましたが)」
「Yeah, I do.(そう、大好きなんだ)……アッ! 日本語デ大丈夫。娘ミタイニ話ス上手クナイ、ケド、聞クハ almost 100%」
オリヴァーの話す日本語は、たどたどしくもあたたかかった。あまり英語に馴染みのない義父母に配慮したのだろう。実際に島で生活していたということもあり、標準語からこの地方の方言に至るまで、リスニングはほぼ完璧だ。
「Anyway(それにしても)……ビックリシマシタ。娘ガオ世話ニナッテルガ、クジョー副社長ナンテ」
「あっ、ご、ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません。同居の件も、もっと早く私のほうからご連絡するべきで——」
「Oh, don't be so stiff!(ああ、そんなふうにかしこまらないで!) トテモ感謝シマス。娘ガ困ル、デモ、私ハ助ケル、スグニデキナイカラ」
オリヴァーの言葉には、瑛茉への深い愛情と崇弥への感謝が、つぶさに込められていた。
父親として、娘の幸せを願うのは当然のことだろう。しかし、正直、娘から事情を聞いて複雑な気持ちになったのも事実だった。
同居していること。同居相手が、あの九条光学の副社長であること。交際していること。
九条社長と会ったことも聞いた。西園寺の令嬢のことも。
つらい思いをして帰島したにちがいない。けれども、けっして人懐こいとは言えない娘が……自己表現の苦手な娘が、これほどまでに心を許していることが、彼を信用するに足る何よりの証左だとオリヴァーは判断した。
噂に違わぬ誠実さ。ますます興味が湧いた。
「崇弥さんに会いたかったのは、わたしがお世話になってるから?」
「That's part of it, but I wanted to talk to him anyway. I just found out later that he was taking care of you.(もちろんそれもあるけど、お前が世話になっているのを知る前から、彼とは話がしたいと思っていたんだ)」
「仕事の?」
「Yes. デモ、今、休ンデル聞キマシタ」
「……はい。わざわざご連絡いただいたのに、大変申し訳なく……。ただ、ご用件をお伺いしても、私では御社のご期待に沿えないかもしれません」
「……Are you being removed from the management team?(……経営から外される?)」
「私の口からは、なんとも……」
「原因ハ娘デスカ?」
「それは違います。すべて私ひとりで決めたことです。今回のことで、瑛茉さんにはたくさん迷惑をかけましたが、彼女に責任はいっさいありません」
たゆみない眼差し。
迷いなどない、覚悟を決めたそれが、炯々と光を放つ。
このとき、オリヴァーは確信した。
「Even if they let you go,(もしも会社が君を処分したとしても)……私タチハ、アナタヲ諦メマセン」
「……え?」
自信に満ちた笑みで、高らかにこう宣言する。まさに大胆不敵。
全世界でトップシェアを誇る検索エンジン運営会社〝Novaria〟。世界最高峰の経営者のその双眸は、はっきりと、未来を見据えていた。
< to be continued…… >
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