【完結】夕凪のピボット

那月 結音

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Episode10:はじまりの場所

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 オリヴァーのこの言葉が、室内の空気を一変させた。漂う緊張感。重役たちの視線が、一気に崇弥へと集中する。
 崇弥は、寸分も表情を崩さなかった。ひとことも発することなく、瞳の奥に宿る光を、ただ静かに明滅させる。
 休職中かつ処分保留の身。本来ならば、自分はこの場に相応しくない。派手な親子ゲンカも、その理由も、重役たちは知っている。オリヴァーが崇弥にとってプライベートな関係者であることも、すでに知られているはずだ。
 あえて触れなかった。誰も。
 しかし、ここに来て、ひとりの重役が代表して重い口を開いた。
「失礼ながらミスターアーロン。それは公私混同ではありませんか?」
 それは、皮肉でも的外れでもない、至極真っ当な指摘だった。
 オリヴァーにとって崇弥は娘の交際相手。この事実は揺るがない。たとえ、ふたりが交際するよりも前に、このプロジェクトが始動していたとしても。
 とはいえ、この指摘はもちろん想定済みである。
「For several years now, our CEO has been expressing a keen interest in your company's products, particularly your EVP. He values your EVP more than I do. My visit to Japan is solely at his behest. If you cannot accept our terms, we will withdraw this offer. That's all.(数年前から、我が社のCEOは、貴社の製品、とりわけ副社長に興味を示していました。私以上にCEOが彼のことを評価している。今回私が来日したのは、CEOの一意向に過ぎません。もしも条件が飲めないならこの申し入れを取り下げる。それだけです)」
 淡々と、平々と、疑問に答える。
 オリヴァー個人としても、崇弥の頭脳や経営手腕、さらにはその人柄を高く評価している。けれども、あくまで崇弥を推しているのは、最高責任者であるCEOなのだと強調した。
 さすがとしか言いようのない巧みな交渉術。室内に、よりいっそう緊張が走る。
 九条としては、これ以上ない申し出だ。匡士郎が推し進めていた西園寺との繋がりよりも、はるかに魅力的な。
 重役たちからすれば、崇弥と姫華の結婚など、はっきり言ってどうでもよかった。ふたりの結婚が会社にどう影響するかは不明だが、こうなった以上、崇弥の不在は会社にとって明らかに大きな損失である。
 重役たちの意思が傾き、定まりつつある中。
 ひとりの若い重役が、崇弥に質問を投げかけた。
「副社長はどのようなお考えで?」
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