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Episode10:はじまりの場所
④
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街の灯りと、移ろう空。
人工物と自然の織り成すグラデーションは、さながら画布に広がるパレットのように芸術的だった。
夕焼けが夜の帳を連れてくる頃。
九条光学本社の屋上には、ふたつの影が並んでいた。
「I just reported to the CEO that the contract has been successfully concluded. …… Thank you so much. When I told him your words just now, he was very moved and said, "I was right about him." (今しがた、CEOに契約が無事に成立したことを報告した。……本当にありがとう。さっきの君の言葉を彼に伝えたら、とても感激していたよ。『自分の目に狂いはなかった』って)」
オリヴァーは、視線を眼下から隣に立つ崇弥へと向けると、優しく微笑んだ。
自身の右手を、そっと差し出す。そこには、単なるビジネスパートナーとしてではなく、娘との未来を祝福するという願いが込められていた。
手のひらが重なる。ぬくもりが伝わる。
九条として、これ以上ない規模の取引がまとまったことについては、心の底から安堵している。だが、崇弥の胸中では、いまだ複雑な感情が交錯していた。
「反対なさらないのですか? 私と瑛茉さんのこと」
オリヴァーにとって、瑛茉は大切なひとり娘だ。彼が瑛茉をどれほど愛しているか、この数日そばで見てきて痛いくらいに伝わった。
崇弥との交際を認めるということ——それはすなわち、卒業後も日本に残る可能性が高くなるということ。
オリヴァーの気持ちは嬉しい。とても。けれど、素直に喜んでいいものかと、崇弥は内心葛藤していた。
これに対し、オリヴァーは一瞬目を丸くするも、はにかむような笑顔でこう言った。
「 I have absolutely no reason to object. And then Emma said, "I've found someone who's like Mom to you, Dad". Once she said that, there's nothing more I can say.(反対する理由がなにひとつないよ。それに、瑛茉が言ってたんだ。『お父さんにとってのお母さんみたいな人を見つけた』って。これを言われてしまったら、もう何も言えないだろう?)」
瑛茉は、すでに自分の将来を決めていた。彼女の母——自分の妻と、同じように。
陽子が自分と結婚する際、義父母はいっさい反対しなかった。頑固に育ててしまったゆえ、一度決めたらけっして曲げないのだと、明るく笑って認めてくれた。
年を重ねるごとに実感する。
瑛茉は、陽子にそっくりだ。
「……ソモソモ、私反対スル、アナタ諦メマスカ?」
茶目っ気たっぷりにオリヴァーがこう問えば、
「それは無理です」
即答した崇弥は、眉を下げて笑った。
冷たい風が、ふたりのスーツをなびかせる。その後ろに伸びる、ふたつの細長い影。
と、そこへ、もうひとつ影が重なった。
人工物と自然の織り成すグラデーションは、さながら画布に広がるパレットのように芸術的だった。
夕焼けが夜の帳を連れてくる頃。
九条光学本社の屋上には、ふたつの影が並んでいた。
「I just reported to the CEO that the contract has been successfully concluded. …… Thank you so much. When I told him your words just now, he was very moved and said, "I was right about him." (今しがた、CEOに契約が無事に成立したことを報告した。……本当にありがとう。さっきの君の言葉を彼に伝えたら、とても感激していたよ。『自分の目に狂いはなかった』って)」
オリヴァーは、視線を眼下から隣に立つ崇弥へと向けると、優しく微笑んだ。
自身の右手を、そっと差し出す。そこには、単なるビジネスパートナーとしてではなく、娘との未来を祝福するという願いが込められていた。
手のひらが重なる。ぬくもりが伝わる。
九条として、これ以上ない規模の取引がまとまったことについては、心の底から安堵している。だが、崇弥の胸中では、いまだ複雑な感情が交錯していた。
「反対なさらないのですか? 私と瑛茉さんのこと」
オリヴァーにとって、瑛茉は大切なひとり娘だ。彼が瑛茉をどれほど愛しているか、この数日そばで見てきて痛いくらいに伝わった。
崇弥との交際を認めるということ——それはすなわち、卒業後も日本に残る可能性が高くなるということ。
オリヴァーの気持ちは嬉しい。とても。けれど、素直に喜んでいいものかと、崇弥は内心葛藤していた。
これに対し、オリヴァーは一瞬目を丸くするも、はにかむような笑顔でこう言った。
「 I have absolutely no reason to object. And then Emma said, "I've found someone who's like Mom to you, Dad". Once she said that, there's nothing more I can say.(反対する理由がなにひとつないよ。それに、瑛茉が言ってたんだ。『お父さんにとってのお母さんみたいな人を見つけた』って。これを言われてしまったら、もう何も言えないだろう?)」
瑛茉は、すでに自分の将来を決めていた。彼女の母——自分の妻と、同じように。
陽子が自分と結婚する際、義父母はいっさい反対しなかった。頑固に育ててしまったゆえ、一度決めたらけっして曲げないのだと、明るく笑って認めてくれた。
年を重ねるごとに実感する。
瑛茉は、陽子にそっくりだ。
「……ソモソモ、私反対スル、アナタ諦メマスカ?」
茶目っ気たっぷりにオリヴァーがこう問えば、
「それは無理です」
即答した崇弥は、眉を下げて笑った。
冷たい風が、ふたりのスーツをなびかせる。その後ろに伸びる、ふたつの細長い影。
と、そこへ、もうひとつ影が重なった。
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