1 / 39
Prologue
アダマントを求めて
しおりを挟む
古より、この世界では、ヒトと竜人が併存してきた。
足りないものを互いに填補し合い、共栄してきた二つの種族は、各地で巨大な文明を築き上げ、国家を形成していった。
彼らは信じてやまなかった。この関係が、未来永劫続くのだと。
だが、いつしかこの均衡は崩れ去り、竜人は、力と知恵でヒトを凌駕するようになった。
おのずと確立された優越関係。
のちに数千年もの間――とある大国の皇帝が、再び二種の共栄を提唱するに至るまで――この関係は継続することとなる。
◆ ◆ ◆
ディアナにとって、父親の命令は絶対だった。
幼い頃から習い事は数知れず、外で自由に遊び回る時間など与えられなかった。付き合う友人は制限され、言葉と体罰による厳しい躾はときに度を越した。
そんな父親から宣告された、最後の命令。
「フレイム家へ嫁げ」
十八歳を迎えたばかりの、ある晴れた春の日のことだった。
ただただ威圧的に言い放たれた言葉。抑揚など一切なかった。そのときの父親の声音と、隣でほくそ笑んでいた継母の表情を、彼女は生涯忘れることはないだろう。
両親を前に、彼女は一度だけ頷いた。喜ぶことも悲しむこともしなかった。
なるべく感情は抑える過酷な環境の中で、自然と備わってしまった自分を守る術だ。
ディアナが生まれたのは、旧家グランテ家。ヒトの中でもある程度社会的な地位を有するこの家は、代々男が家督を継ぎ、現当主である彼女の父親の跡は、異母弟が取ることになっている。まだ九歳と幼いが、彼にはディアナ以上に自由が認められていない。可哀想だとも思うが、彼女にはどうすることもできないのだ。もしかすると、弟と話す機会など、今後ほとんどないかもしれない。
自分はこの家を出ていく身。
いつかは出ていかなければならないと覚悟はしていた。けれど、まさかこんなに早く出ていく羽目になろうとは。
おそらく、大半は継母の差し金だろう。先方から持ちかけられた縁談に、いち早く食いついたのは継母だ。なかば、体のいい厄介払いといったところか。
シルクのように滑らかな金色のロングヘアー。星空のように輝く蒼眼。そして、きめ細やかな白い素肌。
まるで絵画のごとく麗しいディアナの容姿は、十三年前に亡くなった前妻そっくりだった。年々美しく成長する彼女を見て、たいそう忌々しく思ったことだろう。
はっきり言って、この家に未練など微塵もないが、嫁ぐことに対して抵抗がないわけではなかった。むしろ心臓は、不安と恐怖で塗りつぶされていた。
彼女が嫁ぐのは、名門フレイム侯爵家。
皇帝陛下はじめ、この国の貴族はすべてが竜人で、彼らが政治を司っている。
すなわち、彼女の夫となる人物は――竜人だ。
足りないものを互いに填補し合い、共栄してきた二つの種族は、各地で巨大な文明を築き上げ、国家を形成していった。
彼らは信じてやまなかった。この関係が、未来永劫続くのだと。
だが、いつしかこの均衡は崩れ去り、竜人は、力と知恵でヒトを凌駕するようになった。
おのずと確立された優越関係。
のちに数千年もの間――とある大国の皇帝が、再び二種の共栄を提唱するに至るまで――この関係は継続することとなる。
◆ ◆ ◆
ディアナにとって、父親の命令は絶対だった。
幼い頃から習い事は数知れず、外で自由に遊び回る時間など与えられなかった。付き合う友人は制限され、言葉と体罰による厳しい躾はときに度を越した。
そんな父親から宣告された、最後の命令。
「フレイム家へ嫁げ」
十八歳を迎えたばかりの、ある晴れた春の日のことだった。
ただただ威圧的に言い放たれた言葉。抑揚など一切なかった。そのときの父親の声音と、隣でほくそ笑んでいた継母の表情を、彼女は生涯忘れることはないだろう。
両親を前に、彼女は一度だけ頷いた。喜ぶことも悲しむこともしなかった。
なるべく感情は抑える過酷な環境の中で、自然と備わってしまった自分を守る術だ。
ディアナが生まれたのは、旧家グランテ家。ヒトの中でもある程度社会的な地位を有するこの家は、代々男が家督を継ぎ、現当主である彼女の父親の跡は、異母弟が取ることになっている。まだ九歳と幼いが、彼にはディアナ以上に自由が認められていない。可哀想だとも思うが、彼女にはどうすることもできないのだ。もしかすると、弟と話す機会など、今後ほとんどないかもしれない。
自分はこの家を出ていく身。
いつかは出ていかなければならないと覚悟はしていた。けれど、まさかこんなに早く出ていく羽目になろうとは。
おそらく、大半は継母の差し金だろう。先方から持ちかけられた縁談に、いち早く食いついたのは継母だ。なかば、体のいい厄介払いといったところか。
シルクのように滑らかな金色のロングヘアー。星空のように輝く蒼眼。そして、きめ細やかな白い素肌。
まるで絵画のごとく麗しいディアナの容姿は、十三年前に亡くなった前妻そっくりだった。年々美しく成長する彼女を見て、たいそう忌々しく思ったことだろう。
はっきり言って、この家に未練など微塵もないが、嫁ぐことに対して抵抗がないわけではなかった。むしろ心臓は、不安と恐怖で塗りつぶされていた。
彼女が嫁ぐのは、名門フレイム侯爵家。
皇帝陛下はじめ、この国の貴族はすべてが竜人で、彼らが政治を司っている。
すなわち、彼女の夫となる人物は――竜人だ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる