陰日向から愛を馳せるだけで

麻田

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第49.5話 ――再会の発情1

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「すぐ戻る」

 僕を心配するエリオンを優しく諭したローレンは、横になった僕にそう囁いて、額に優しくキスをした。
 ぐずるエリオンを慰める言葉を尽くしながら、手を握って部屋を出ていく。

 ヴェランシアの花を見下ろしながら、再びプロポーズを受け、初めてお互いがすれ違っていたことを認識、愛を確かめた。
 三年も離れていた心底恋焦がれる番が、ようやく巡り会えてキスをしたのであれば、発情期が来るのも当たり前のことだ。
 僕の異変に、僕よりも先に気づいたのは、頼もしい番だった。
 顔色と香りですぐに気づいた彼は、来ていたコートを脱いで僕を包み、横抱きに抱えて、山道を易々と走り抜いた。その間、探し求めていた番の甘い香りに包まれながら、溢れる熱をどうすればいいのかわからずに、酩酊としていくばかりだった。

(早く…)

 エリオンが家を出ていく引き戸の音がすると、最後の理性が焦げ付いていく。昂りを示す場所が苦しくて、厚手で脱ぎにくいズボンを力の入らない手でなんとか脱ぐ。その動作の間に、彼のコートが離れていったことに気づき、急いで抱き寄せる。襟元に鼻先を埋めて息を吸いこむと、うっとりとうなじから痺れていく。頭が靄がかって、もう、そのことしか考えられなくなる。
 足首にズボンが纏わりついたまま、彼のコートを抱きしめて、苦しげに蜜を零す肉棒をさする。くちゅ、くちゅ、と濡れた音がたつ。
 けれど、これだけでは、足りない。
 わかっている。この数年、たった一人で、時節気まぐれに訪れる発情期を乗り越えてきた。ぼやけた視界の中に映るのは、孤独に苛まれた僕が籠る、小さな物入の扉だった。季節ものや仕事に使うものを入れた部屋は、毛布を数枚入れたらいっぱいになってしまう狭さだ。そこで息子に気づかれないように、声を殺して、一人で慰めた。
 その日々が全身に蘇り、急速に孤独感が僕を苛み、涙が零れる。

(どこ…? はやく…)

 僕のアルファは、どこに行ってしまったの…?
 必死に腕の中にあるコートを抱きしめて、鼻を埋める。すう、と息を吸えば、すぐそこにいるようで安心するのに身体の奥底からぱちぱち、と熱が爆ぜていく。それなのに応えてくれる熱がなくて、孤独の奈落へと落とされていくようだった。

(ローレン…、ローレン様…)

 は、と小さく息をつく。彼を求めて、熱に支配された身体は、腰が揺らめいて、彼の上等なコートに先端が擦りつく。ねばついた液体をこすりつけるような、
はしたない仕草に羞恥が募るのに、辞められない。まるで、マーキングをするような動物的な自分に嫌気が差す。

(どうして、傍にいてくれないの…?)

 寂しさに顔に皺がよって、涙がぼろぼろと流れてコートを濡らしていく。自分のにおいがつくと、彼の甘い香りが薄れるから嫌なのに。汚すことが止められない。

「や…ぁ、い、やなの、に…」

 かくかく、と腰がぎこちなく動いてウール地にぬちゅぬちゅと先端が何度も往復する。苦しい。寂しい。つらい。悲しい。それなのに、身体は真逆に熱ばかりがこみ上げる。僕はそれに夢中で、周りの物音に気付かなかった。
 いきなりコートが腕の中からすり抜けてどこかへ行ってしまった。目を見張り、行く先を確認しようとしたら、もっと濃密な薔薇の香りにぐらりと視界が揺れた。かつん、と歯に衝撃が走り、痛みに肩がすくむが、その後すぐに、唇がぬちゅりと濡れて、息をつめると、口内にとろとろと甘い熱がやってくる。

「ぅ、あ…ん、んぅ…、んう」

 はら、と膜を張った雫が流れていくと、夜へと染まる黄昏時の青の瞳があった。長い銀色の睫毛が伏せられると、頬をくすぐる。ひく、と喉が鳴る。それすらも吸い込んで、ものにされてしまうかのような、すべてを奪い尽くすキスだった。
 ようやく訪れた愛しい番を離さないように、首に腕を回して、必死に抱き寄せる。大きな手のひらが確かめるように、僕の身体の上を撫でまわる。セーターをかぎ分けて、シャツのボタンを性急に外していく。かさついた手のひらが脇腹を撫でると、鼻から声が漏れてしまう。強く舌を吸われて、びりびりと爪先まで快楽が回っていく。舌先が、彼の発達した八重歯をかすめると、背筋がぞっと恍惚に冷える。
 身体は薄くなったのに、柔いままの胸元を包み、揉まれるとその先端が、じゅん、と疼く。それに気づいたのかたまたまなのか、そのしこりを手のひらが押しつぶすように宛がわれて、内腿がびく、と大げさなまでに震える。

「ああ…、ダメだ、セリ…」
「ん、ぁ…、なに…?」

 お互いの余裕のない口づけでべっとりと口周りが濡れた僕たちは、唇を触れ合わせながら言葉を発する。吐息が混じって、それですらも胸がつかえる。
 重い瞼を持ち上げると、奥底でぐつぐつと何かを煮えたぎらせているかのような深い青は、眦を赤くしている。汗がぽた、と垂れてくる。そこの皮膚から、火傷かのようにじわじわと辺りに刺激が広がる。

「ずっと、キスをしていたいが…、すぐに、一つになりたい…」

 低くかすれた声は、世界で僕にしか聞こえない声量なのに、あまりにも神経を焦がし、僕をさらに苦しめる。セリ、と大切そうに名前を囁かれて、耳元にリップ音が響くと脳内を素手でぐちゃぐちゃにかき混ぜられているみたいだった。だから、必死に彼を抱き寄せて、うなずく。

「ぼく、も…」

(…早く、ほしい)

 ずり、と彼の身体に股間を擦りあててしまうと、勝手に腰が動いてしまう。止めることはできない。

「はや、く、…はやく、ぅ…」

 ぽっかりと空いたナカに、ずっしりとした彼のアルファで満たしてほしい。その熱さを、この身体は三年の間も忘れることは出来なかった。
 鈍い音が聞こえる。彼が奥歯を噛み締めた音だと気づく前に、僕の細腕から簡単に彼は逃げ出してしまった。なんで、と瞠目して彼を捕まえようとするが、その前に、素肌の太腿を担ぎ上げられた。分厚いセーターが邪魔をして、彼の様子がうかがえない。

「ひゃ、ああっ!」

 もたつく腕でなんとかセーターとシャツを頭から抜き去った時に、とんでもない衝撃が下半身から直接脳に伝わってくる。
 かぽ、と彼の美しい唇の中に、僕のはしたなく勃ちあがっていたそれが収められていて、ぬっとりと甘い蜜に包まれているのに、ざらりと彼の魅惑の舌で頭を舐められると、それだけで達してしまった。びゅう、と彼の口内に吐き出してしまったそれは、簡単に彼がこくり、と飲み落とす。背徳的な出来事と、初めて行われた粘膜に包まれる直接的な快楽に目の前が真っ白になって、背中が何度もしなる。最後の一滴まで、彼が、ぢゅ、と吸い尽くしてしまい、暴かれてしまうことへの当惑に乱れてしまう。

「ぅ…、っ、…ぁ、ん…あ…、っ、あ!」

 長い間、僕を支配する悦楽のさざ波がだんだんと収まってきたと同時に、意識が戻ってくると、今度は、ぬちゅり、と後孔が暴かれる。腰まで愛液が伝ってくるのに気づく。くたり、とした僕の先端に、彼の桃色の唇が、ちゅ、とキスをする。それから、僕のことをまっすぐに見つめながら、その下にある双丘に舌を這わせて、敏感な薄い皮膚に淡く吸い付きながら、彼の長い指が収まっている後孔の淵へと舌で撫でる。

「あ、だめ…! そん、な…、きた、な…ああっ!」

 くちゅう、と彼の指と共に硬くさせた舌先が入ってくる。広がった淵を唇で吸い付いて緩めるように愛でながら、ナカの弱い部分をすぐに指先が当ててしまう。何もかも、覚えているのだと、彼が僕のたった一人の番なのだと示されているようだった。

「あ、あぅ、あ、あっ…っ、んあ」

 ナカでくるりと指が回って、もう一本増える。背中側のナカを優しくくすぐるように撫でられると、それだけでは足りなくて、身体をシーツの上で何度もひねってしまう。彼の甘い技にあっという間に硬度を戻して涙する屹立越しに、彼と目が合う。す、と蕩けた瞳を細めた彼は、長い舌を胎内に挿入し、弱い部分をざりり、と舐めた。味わったことのない感覚に、背筋が震えて、シーツを蹴る。彼は器用に、唇で入口を何度も吸い付いて甘やかしながら、ナカを遠慮なくいじめてくる。汗ばんだ僕の内腿に、彼の銀の髪糸が幾重にも貼り付いてくすぐったい。

「も、だめ、ぇ…! で、ちゃ、でちゃう、からぁ…っ!」

 だめ、ともう一度叫んだ時には、彼が意地悪く、二本の指でしこりを摘まみ上げて、敏感になったそこを硬くした舌先で弾力を楽しむかのように執拗に何度も舐めた。それから、じゅる、とわざと大きな音を立てて僕の湯水のごとく湧き出る愛液を啜って鼓膜すらも支配する。ぱん、と何かが弾ける音がして、高い声をあげて、僕の意識は曖昧になった。



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