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ep.10-2
しおりを挟む「さく…さくぅ…」
大きな枕を抱きしめて、匂いを嗅ぎながら身体をうずくまるように丸める。柔らかく軽い毛布の中で、腰が揺らめく。勃ちあがった先端に彼の匂いのする枕の端が、こすりつけられる。もちろん、そんなものでは身体はよくはならなくて、涙が溢れる。うつぶせになって、顔を枕にうずめて、必死に彼のフェロモンを探す。
ふんわりと淡く香り、僕の神経を焦がす。そして、二人で毎夜、熱く交わっているシーツに先端を擦り付けた。
「んうっ…あ、ぁ…」
ずり、ずり、と先端がファブリックを押し上げる。とろ、と会陰を愛液が流れ落ちる感覚がして、震える指で後孔に触れると、熱く、ぐちゅり、と濡れていた。
「さくぅ…」
彼が恋しくて、自分の指を誘われるがままに挿入する。簡単に二本も入ってしまい、入口付近をにゅくにゅくと抜き差しする。けれど、それでは足りなくて、彼の名前を何度も呼んで、涙を流しながら、腰をゆらめかすしかなかった。
「さく、さくぅ…っ、たりな…たりないぃ…、ん、んう…」
指をもう少し奥に入れても、いつも彼が甘やかしてくれるポイントには届かなくて、ただかき混ぜては、愛液が、ぱた、とシーツに染み入るだけだった。ぎゅう、と彼を思い出してナカが絞られるが、何もない空虚な場所を思い知らされて、さめざめと涙が出る。
「な、で、さくいないの…っ」
「聖?」
彼の声が聞こえて、一瞬で身体がじわりと熱を上げた。足音がして、すぐそこに彼がいるのがわかる。毛布から小さく顔を出して、彼の顔を確認する。滲んだ視界越しでも、目の前に彼がいるのがわかると、また後ろが濡れてしまう。ぐしゅ、と鼻をすすって、顔に皺をつくる。彼は、頬を赤らめて、コートを脱ぎ落した。それから、吐息をつき、頬をゆるませながら僕に手を差し伸ばした。それを避けるように首をすくめた。
「やだ…さく、…ぃや…」
「聖…?」
僕に拒絶の言葉を吐かれて、目を見開き、眉間に皺を寄せた彼が、急いで床に膝をついて、僕の顔を傍で覗き込んだ。そ、と頭を撫でてくる手は心地よくて、鼻から声が漏れて額を擦り寄せてしまう。僕の反応に胸を撫でおろしたのか、ふ、と小さく彼が笑った。
「何が嫌なんだ?」
「僕のこと、おいて、いく、から…きらい…」
内腿を摺り寄せながら、涙をぼろり、とこぼした。彼の指先がぴくり、と固まる。それから、顔が近づいてきて、キスだ、と瞼を降ろして、待つが、額がこつん、とぶつかるのだった。
「嫌いだなんて、言うな…」
今度は彼が額を摺り合わせてきて、きつく瞼を降ろしていた。僕のたわごとに彼が傷ついてしまったのだ、とわかると、胸がきゅう、と締め付けられる。
「どこも、いかないで…」
やだ…、と彼の首に腕を回して抱き着く。濃密な彼の甘い匂いが鼻腔を埋めて、ぞわ、と背中がざわめいた。顔を離し、彼の親指が頬を撫でた。誘われるように潤んだ瞳を上げると、彼の焦れた瞳が僕を一心に見つめていた。
「嘘だよ…」
僕も彼の整った顔立ちを確かめるように細い指先で触れる。僕の好きなようにさせてくれる彼の頬は、熱かった。
「さく、大好き…世界で一番、好き…」
どこにも、行かないで…。
彼の唇に、自分のそれを合わせる。かさついたそれを、舐めると、僕はベッドに押し倒れされて、彼が乗り上げてきた。厚手のニットのカーディガンを脱ぎ落すと、わ、と彼の甘い香りが溢れ出てきて、びりびりと首裏がざわめく。涙と唾液が溢れ、顔を伝う。
「あ…あ、ぅ…、あ…」
「聖…好きだ…、好きだ」
彼のフェロモンに呼応するかのように、腹奥がぎゅう、と強く絞られる。今までにない身体の感覚に、絶頂を迎えたときのような陶酔感が身体をひしめきあっていた。
開いた口から細い息をなんとか出し入れして、身体に酸素を取り込みたいのに、彼が湿った唇でそれを遮るように口づけを繰り返す。力なくベッドに腕がぱたり、と落ちると、長い指が腕を辿り、手のひらをくすぐって指を絡めてくる。震える指先で握り返すと、強くベッドに押し付けるように返される。
もう片方の冷たい手のひらが、僕のさらけ出された太腿を撫でて、ぐじゅり、と滑った狭間に指を挿入させた。
「とろとろだな…」
「や、ぁ…あ…、さく…ぅっ」
欲に焦れた瞳が至近距離で僕を射抜きながら、腹の入口を複数の指がばらばらと広げていく。これから起きることに身体も心も期待でいっぱいで、思考が溶かされていく。
身体がオメガになりきるために、僕たちは一か月の禁欲生活を余儀なくされていた。
それまでは、毎日、複数回交わっていた僕たちにとって、それは予想をはるかに上回るほど苦しい毎日だった。大好きな彼がすぐそこにいて、魅惑的な肉体が触れられる場所にあるのに、僕たちは交わることを禁止されていた。キスは毎日した。交われない分、唇で愛し合った。それでもだめな時は、お互いを撫でたり舐めたりして慰め合うときもあった。そうすればするほど、僕のナカはうずいて涙が止まらなかった。
(ようやく…)
意識しなくて、主張する奥から止めどなく愛液が分泌されているのが自分でもわかった。シーツを濡らすほど後孔から溢れていて、恥ずかしいのにそれを気にする余裕もなく、僕は彼が欲しくてたまらなかった。
涙が止まらなくて、彼が愛おしくて、首を伸ばして唇に吸い付く。聖、と僕の名前をつぶやいた彼の唇に舌を差し込んで、柔い粘膜をなぞる。
「んぅ…、さく、ぁ…ん」
ベッドに縫い付けられた指で彼の骨ばった男らしい指を撫でる。これと同じものがナカにあるのかと思うと、じゅわ、とくずれてしまう。空いている手で彼の背中に手を回すと、分厚い身体がのしかかってきて、ベッドに押し付けられる。口内も同様に、彼の舌が僕の弱い場所を尖らせ硬くした状態で何度も強く撫でて、僕の舌を絡めとる。唾液がたっぷりと口から溢れて顎を伝う。かさ、と音が聞こえて、その音のもとへ手を伸ばす。
予想通りに、彼の手が、ベッドサイドに伸びていた。唇をつけたまま、息を整える。すぐそこにある情欲に深く燃える青い瞳に焦がされながら、とろりとした頭で言葉を募る。
「やだ…」
彼の指がつまんでいたアルミ箔に包まれた小さく薄いものを引っ張る。彼は眉間に皺を寄せて、荒い息を吐いた。
「聖」
慰めるような戒めるような、自分自身に言い聞かせるような硬い声質で彼は僕の名前を呼んだ。けれど、僕は小さく首を横に振る。
「やだ…も、ずっと我慢したから…そのままで、したい…」
「だ、めだ…っ、聖の身体に、負荷が、かかる…」
顔に皺を寄せて、息を詰まらせながら、彼は低くうなる。瞳を細めて鋭くさせる。けれど、僕は怖くなかった。目の前の端正で美しい顔は、僕への欲に顔をしかめていることがわかっているから。その頬を細い指で包むと、眉をぴくりと跳ねさせて、さらに深く息をつく。
「やだ…、僕、がんばったから…さくの、ほしい…」
お願い、と涙を一粒、こめかみに滑らせてから、僕は彼にそ、と口づけをする。長い睫毛を持ち上げると、潤んできらめく宝石がそこにはあって、吸い込まれるように見つめながら、小さく、好き、と囁いた。
「僕、さくが好き…大好き…」
だから、今日だけは、何にも邪魔されたくない…。
お願い、ともう一度囁くと、彼が大きく僕の唇を同じそれで覆った。ぐちゅぐちゅ、と厚い舌が、唾液をたくさん纏わせ、僕の中に流し込みながら、何度も首の角度を変えて縦横無尽に荒れ狂う。
「聖…、好きだ…俺の方が、好きだ…」
「ん、あ、ぅ…んうっ、ん、んんっ、ぁ…ん~っ、ん」
キスの合間に彼が、俺の方が好きだ、と言い切ってくる。僕の方が、好きに決まってる。そう反論したいのに、彼は自分が言い終わると、すぐに舌を差し込んで、僕を喋れなくさせてしまう。にじむ瞳で訴えかけるのに、彼は長い睫毛を降ろしていて、ひとつも応えてくれない。
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