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第22話
あんなにきれいに浴衣を着つけたのに、彼の型抜きはすぐにぼろぼろになっていた。ちびっこの中に高校生の僕らが混じっているのはとてもおかしな状況だったが、彼は夢中で何個もチャレンジしていた。
そのあとにかき氷を食べて舌の色の変化を見せ合ったり、射的で当てたチューインガムを膨らましたり、お互いに笑いあった。ひとしきり屋台を回ると、彼は神社の裏手から林を下り、開けた見晴らし台に降りた。近くには小さな湖があり、たまに、ぽちゃんと水音がした。僕らの他に人はいなく、先ほどの喧騒が遠くの方でぼんやり聞こえた。
「こんな穴場をよく知ってるね」
最後に買ったりんご飴を舐めながら伝えると彼は、すっかり少年染みた顔で同じくりんご飴をがりがりかじりながら答える。
「昔、見つけた秘密の場所だ」
言葉をかけようとしたときに、どんと地を揺らすような大きな音が響いた。そして、振り返った僕らの目の前に見事な大輪を咲かせた。
「本当だ…すごいっ、こんな貸し切り会場、初めて!」
はらはらと火花が散り終わる前に、また大輪がばちばちと花開き、弾ける。わあ、と声が漏れる。こんな立派な花火を、たった二人きりで見るのは初めての経験だった。昔、小さい頃に両親が近所の花火大会に連れて行ってくれたが、それは、十分程度花火が打ちあがるものだった。こんなに大きな花火や、連続して鳴り響く爆音は初めてで、ずっとどきどきと心臓が踊っている。少し間があり、また大きな音を立て、火花が上がる。
「見て!今度は、模様だよっ」
ハートや木星の形をした花火があがり、指をさしながら佳純に振り向く。どき、と心臓が止まり、目を見張る。彼は、じっと僕を見つめていた。彼の美しい顔を様々な色味が光照らし、はっきりとした目鼻立ちを強調するようにより濃い影をつくる。息をのみ、指さしていた手をぶらりと下げる。さっきまで高揚させてきた花火に振り向くことが出来ない。瞳が僕をとらえて離さず、吐息が漏れてしまうほどの熱い瞳に心の中を見透かされている気になってくる。
「か、すみ…」
震える唇から彼を呼ぶ声があふれた。花火のタイミングに合わせて、遠くの方で歓声が上がっている。また大きな地鳴りのような音がすると、彼の顔をより明るく花火が照らす。
「七海…」
彼の冷たい手のひらが、僕の身体の熱を溶かすようにゆっくりと垂らした手を包み込む。指を掬われ、優しく関節をくすぐるように撫でられる。ふ、と溜め息があふれると、彼は唇を震わせながらもう一度名前を囁く。爆音の中でも、彼の声は僕の耳にちゃんと届く。
「七海」
「…佳純、ぼ、く…」
僕…と言うが、その続きの言葉が出てこない。夜風に紛れて、火薬のにおいが漂う。ぱちぱちと弾ける音がする。
「ぼく…、佳純…」
「七海、俺…」
バンッと強い音がして、最後の大輪が弾けた。はらはらと小さな輝きが儚げに闇に溶けていく最後を僕は見ることは出来なかった。なぜなら、目の前で、佳純が目を細めながら、意を決して言葉をつむごうとしたのだ。火薬の匂いが光同様、夜に混じりあい姿を感じなくなった時に、彼は何も弾けない夜空に振り返り、帰ろう、とつぶやいた。
彼の言葉を聴けなかったことも、僕が言葉を伝えられなかったことも、どちらも苦しかった。それを慰めてくるように、彼は優しく手を握りこみ、僕の手を引っ張った。頭の先から爪先まで、どくどくと血が巡り、浮遊感に足元が覚束ない気がする。口からは絶えず吐息が漏れ、手元と彼の首筋を交互に見やると、どうしようもない気持ちが心の中を渦巻いて濁る。
「佳純…」
口の中で彼の名前を飲み込むようにつぶやくと、手を握りなおされた。長い脚で先をぐんぐん歩く彼のもとに、小走りでついていく。早く、彼に、抱きしめてほしい。外気温に溶けた、ぬるいりんご飴をがり、と噛みつき、甘い飴をちゅ、と吸い付いた。
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