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第49話.咖喱

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昼飯前の、良く晴れたある日。
今日も朝から喇叭(ラッパ)の鳴るのに任せて起きて、訓練して、ようやく一息ついたところだ。
しっかり小石の取り除かれた体操場で、立ったまま休憩していると、三輪二等卒が目の前にやってきた。おい言ってみろ、と声をかけてやる。

「東北鎮台第十一特設聯隊第一大隊第三中隊第二小隊であります!」
「ウン」

三輪二等卒の得意気な声に短く返事を返した。ちなみに彼はこのフレーズを覚えるのに二週間かかった。万事に物覚えが悪いというわけではなさそうだが、とにかく所属は覚えようとしなかった。

「よく覚えたな」
「へへっ、まぁ」

労ってやると、横から国見二等卒が顔をのぞかせた。

「三輪二等卒は、今日昼飯にライスカレーって言うのが食えるらしいんで張り切ってるんですよ」
「うるせえ!」
「そうか今日はカレーか……」

カレー。
そういえば前世では良く食べていたが、こちらに来てからはさっぱりだったな。目線を斜め上に、ゆるりと流れる薄い雲を目玉が追いかける。
古い出来事を思い出す時に、空を見るのは何故だろうな。

「教官殿は食した経験がおありですか?」
「ああ。いや、ないな」
「なんでも雑居地で採れる西洋野菜がピッタリだって言うので、炊事班長殿が張り切っておりました」

朝から妙にそわそわしている者が多かったのはそのせいか。

「そうか。楽しみだな」
「もう飯時に喧嘩するなよ」
「「はい」」


件のカレーは美味かった。食欲をそそる香りが鼻腔をくすぐる。皆こぞって舐めるように食べてしまったので、おわんがピカピカである。

「これは美味い!陸軍に入ってから飯が上等なので口が肥えてきたが、それでもこりゃ一番だな!」
「母ちゃんにも食わせてやりたかったなあ」

泣かせることを言っているやつもいる。
誰も彼もが、満足に食えるような裕福な家の出ではない。むしろそうでない場合の方が多いのかもしれない。
いつの時代も飯が食えるので従軍するというのは、志望動機として良くあることだ。

食後の一休みをしているところに三輪が帰って来た。今日は彼が配膳当番である。

「なぁ食缶返しに行ったら、鬼の炊事班長に褒められたよ。そんで、いつもこれくらい綺麗に食えってよ」
「あの飯炊き軍曹が褒めるのは中々ないな。俺ぁ飯粒が残ってるってんで、こんなしゃもじでビンタされた事があるぞ」
「……あるわ。料理は美味いが、頭が不味いんだよアイツ。俺より短気だぜ」
「お前は良い勝負だよ」
「なんだと!」

兵達がガヤガヤと昼休みを満喫している。若い男達が一箇所に集められて、上品な話なんぞする訳がない。
およそ愚痴大会か、博打か女の話である。
その時、廊下からぬっと顔を出した男が声をかけてきた。

「おい、穂高!中隊長室に集合だ!」
「吾妻?なんだ騒々しい」

あの同期の吾妻だ。同じ三中隊に配属したのだが、あまり顔を合わせることはない。久しぶりに話すのだが挨拶も何もない、急いでいるようすが伺える。

「おう、ついに来たらしい!」
「そうか。今行く」

そう言って立ち上がった。
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