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第2章 フェルミ通商条約機構の一員として
第11話 プレアデスの休日
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プレアデスは式典のためにムーハ2号球に停泊する数日間、動力を停止している。
普段、艦を動かしているベリアルとサーシャにとっては久々の休暇だ。
◇
『魔王の炉』と呼ばれるプレアデスの炉心は、文字通り魔王ベリアルの膨大な魔力を原動力としている。
その強大な魔力は高純度な魔法石数万個分に相当する。
それだけの炉心を維持するには腕のいい鍛冶による定期的なメンテナンスが不可欠だ。
「まったく……もうちょっと丁寧に魔力を出せないもんかねぇ……」
プレアデス専属鍛冶長のバルトは溜め息をついた。
赤い月の植民星ヌージィガの魔界出身であるこのノーム(妖精)は、魔界きっての鍛冶職人だ。先代魔王が愛用した甲冑もこのバルトの工房で作られたものだ。
ベリアルは彼を厚く信頼しており、今回の旅に呼び寄せた。
「悪ぃ悪ぃ、どーも加減するってのは苦手でよォ、ついつい全力でいっちまうんだよな、コレが」
ベリアルは笑いながら言い訳をする。
魔界で数千万の民を従えるベリアルだが、バルトには頭が上がらない。
大柄で青い肌、尖った耳に燃えるような赤い瞳、豊かな白髪を持つベリアルは5年前に先代魔王の死去にともない魔王となった。いわば新人魔王だ。
新人とはいえ長命の種族であり、人間の年齢で言うところの約300歳にあたる。
若々しい見た目とはうらはらに多くの知識を持っている。
「ちょっと出掛けてくるからさ、あとはヨロシク!」
そう言うとベリアルは街へと繰り出した。
◇
ベリアルが炉を離れたので、サーシャは一時の休みをとることが出来る。
ガラスの容器が持ち上がり、サーシャが中から出てきた。
倒れそうになるサーシャをアイラが支える。
何日も休むことなく膨大な魔力の制御をしていたのだ、無理もない。
サーシャの全身には小さな魔結晶が付着し、キラキラと光って見える。
ベリアルの強大な魔力を制御できるのは、サーシャだけだ。
バルトの調整装置をもってしても、並の魔導士ではその魔力を受ければ無事ではすまない。
彼女の天才的な魔力コントロールと、魔改造によって得た強靭な肉体が、強大な魔力を繊細な魔法に変換する事を可能としていた。
アイラはサーシャを自室へと連れていき、体に付いた魔結晶をシャワーで洗い流す。
なすがままに洗われるサーシャ。
豊満なサーシャの体にアイラは息を飲む。
シャワーのあと、サーシャは薄絹を羽織った。
久々に纏う布に安心する。
「少しベッドを借りますね」
サーシャはそういってベッドで横になった。
◇
ベリアルは街を散策する。
魔王の一族は代々知的好奇心が旺盛だ。
彼も例外ではなく、芸術、建築、文化などに深い造詣を持つ。
「へぇ、面白ぇじゃねぇか」
ムーハ2号球の建築は特殊だ。
大地を形成する植物層を削り、作られている。
そのため建物の表面は木目調で、継ぎ目はない。
カッパドキア(※トルコに実在する洞窟の町)の樹木バージョンと言えば良いだろうか。
「お、酒場か。入ってみるか」
酒場ではソウコウとエンディア人のゴッツが盛り上がっている。
「おぅ、ソウコウ!俺も混ぜてくれよ!」
「おぉ、これはまた勇敢そうな男だ」
ゴッツはベリアルを気に入ったようだ。
◇
サーシャの横にはサトシがいた。
サトシは黙ってサーシャの髪を優しく撫でる。
「サトシ様、どうして……」
問いかけるサーシャの唇にサトシの指が触れる。
その指は首筋をなぞり、背中を這い、腰を抱き寄せる。
唇と唇が触れる。
濃密な時間が流れ、次第に甘い吐息がこぼれる。
やがてサトシの指はサーシャの茂みに至り、
サーシャはそれを拒むことなく受け入れた。
そこでサーシャは目を覚ました。
隣ではアイラが眠っている。
サーシャは自嘲的に笑った。
◇
「まったく、お前ら炉に来ねぇんだもんよ。寂しいよ、俺は」
ベリアルが愚痴る。
「お前たち、こんなに武勇に長じる男を機関部に閉じ止めているのか。エンディアならば、こんな男は必ず戦場に立つぞ!」
ゴッツとベリアルは意気投合したようだ。
「アルデ、これは近いうちにプレアデスを改修しないといけないな」
冗談めかしてサトシは言ったが、ゴッツの指摘はもっともだ。
ベリアルの戦闘における自己完結能力は非常に高い。
サトシは作戦室こそベリアルにふさわしい場所だと思った。
「次の停泊地までの間、研究するかのう。その際はまた手伝ってくれサトシ」
アルデは意味深な目配せをした。
「あぁ、もちろんだよアルデ」
サトシが応じる。
その視線のやり取りをユカは見逃さなかった。
「店員さんおかわり!大きいコップで!」
ユカの前に特大のムーハエール(※ムーハ星の大衆酒)が置かれる。
ユカはそれを一気に飲み干した。
「「……ユカさん、すげぇ……」」
西野と吉川はその気迫に怯えた。
◇
数日間の休暇を経て、プレアデスは出港の日を迎えた。
「ゴッツ、またどこかで会おう」
ソウコウとゴッツが握手をする。
プレアデスは空に飛び立つ。
なお酒場の翌日、サトシがユカに詰められたのは言うまでもない。
普段、艦を動かしているベリアルとサーシャにとっては久々の休暇だ。
◇
『魔王の炉』と呼ばれるプレアデスの炉心は、文字通り魔王ベリアルの膨大な魔力を原動力としている。
その強大な魔力は高純度な魔法石数万個分に相当する。
それだけの炉心を維持するには腕のいい鍛冶による定期的なメンテナンスが不可欠だ。
「まったく……もうちょっと丁寧に魔力を出せないもんかねぇ……」
プレアデス専属鍛冶長のバルトは溜め息をついた。
赤い月の植民星ヌージィガの魔界出身であるこのノーム(妖精)は、魔界きっての鍛冶職人だ。先代魔王が愛用した甲冑もこのバルトの工房で作られたものだ。
ベリアルは彼を厚く信頼しており、今回の旅に呼び寄せた。
「悪ぃ悪ぃ、どーも加減するってのは苦手でよォ、ついつい全力でいっちまうんだよな、コレが」
ベリアルは笑いながら言い訳をする。
魔界で数千万の民を従えるベリアルだが、バルトには頭が上がらない。
大柄で青い肌、尖った耳に燃えるような赤い瞳、豊かな白髪を持つベリアルは5年前に先代魔王の死去にともない魔王となった。いわば新人魔王だ。
新人とはいえ長命の種族であり、人間の年齢で言うところの約300歳にあたる。
若々しい見た目とはうらはらに多くの知識を持っている。
「ちょっと出掛けてくるからさ、あとはヨロシク!」
そう言うとベリアルは街へと繰り出した。
◇
ベリアルが炉を離れたので、サーシャは一時の休みをとることが出来る。
ガラスの容器が持ち上がり、サーシャが中から出てきた。
倒れそうになるサーシャをアイラが支える。
何日も休むことなく膨大な魔力の制御をしていたのだ、無理もない。
サーシャの全身には小さな魔結晶が付着し、キラキラと光って見える。
ベリアルの強大な魔力を制御できるのは、サーシャだけだ。
バルトの調整装置をもってしても、並の魔導士ではその魔力を受ければ無事ではすまない。
彼女の天才的な魔力コントロールと、魔改造によって得た強靭な肉体が、強大な魔力を繊細な魔法に変換する事を可能としていた。
アイラはサーシャを自室へと連れていき、体に付いた魔結晶をシャワーで洗い流す。
なすがままに洗われるサーシャ。
豊満なサーシャの体にアイラは息を飲む。
シャワーのあと、サーシャは薄絹を羽織った。
久々に纏う布に安心する。
「少しベッドを借りますね」
サーシャはそういってベッドで横になった。
◇
ベリアルは街を散策する。
魔王の一族は代々知的好奇心が旺盛だ。
彼も例外ではなく、芸術、建築、文化などに深い造詣を持つ。
「へぇ、面白ぇじゃねぇか」
ムーハ2号球の建築は特殊だ。
大地を形成する植物層を削り、作られている。
そのため建物の表面は木目調で、継ぎ目はない。
カッパドキア(※トルコに実在する洞窟の町)の樹木バージョンと言えば良いだろうか。
「お、酒場か。入ってみるか」
酒場ではソウコウとエンディア人のゴッツが盛り上がっている。
「おぅ、ソウコウ!俺も混ぜてくれよ!」
「おぉ、これはまた勇敢そうな男だ」
ゴッツはベリアルを気に入ったようだ。
◇
サーシャの横にはサトシがいた。
サトシは黙ってサーシャの髪を優しく撫でる。
「サトシ様、どうして……」
問いかけるサーシャの唇にサトシの指が触れる。
その指は首筋をなぞり、背中を這い、腰を抱き寄せる。
唇と唇が触れる。
濃密な時間が流れ、次第に甘い吐息がこぼれる。
やがてサトシの指はサーシャの茂みに至り、
サーシャはそれを拒むことなく受け入れた。
そこでサーシャは目を覚ました。
隣ではアイラが眠っている。
サーシャは自嘲的に笑った。
◇
「まったく、お前ら炉に来ねぇんだもんよ。寂しいよ、俺は」
ベリアルが愚痴る。
「お前たち、こんなに武勇に長じる男を機関部に閉じ止めているのか。エンディアならば、こんな男は必ず戦場に立つぞ!」
ゴッツとベリアルは意気投合したようだ。
「アルデ、これは近いうちにプレアデスを改修しないといけないな」
冗談めかしてサトシは言ったが、ゴッツの指摘はもっともだ。
ベリアルの戦闘における自己完結能力は非常に高い。
サトシは作戦室こそベリアルにふさわしい場所だと思った。
「次の停泊地までの間、研究するかのう。その際はまた手伝ってくれサトシ」
アルデは意味深な目配せをした。
「あぁ、もちろんだよアルデ」
サトシが応じる。
その視線のやり取りをユカは見逃さなかった。
「店員さんおかわり!大きいコップで!」
ユカの前に特大のムーハエール(※ムーハ星の大衆酒)が置かれる。
ユカはそれを一気に飲み干した。
「「……ユカさん、すげぇ……」」
西野と吉川はその気迫に怯えた。
◇
数日間の休暇を経て、プレアデスは出港の日を迎えた。
「ゴッツ、またどこかで会おう」
ソウコウとゴッツが握手をする。
プレアデスは空に飛び立つ。
なお酒場の翌日、サトシがユカに詰められたのは言うまでもない。
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