魔法宇宙戦艦プレアデス!

灰猫ベル

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第2章 フェルミ通商条約機構の一員として

第12話 第659基地攻防戦(前編)

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 前線にある第659宇宙基地からの連絡が途絶えた。
 ジェミによる攻撃を受けた可能性が高い。

 プレアデスは生存者の救助と基地の奪還のため、第659宇宙基地へと急いでいる。

 なお、今回の任務から情報士官としてムーハ人女性のウサが同行している。
 ウサは最近ムーハ星の学校を卒業したばかりで、学校ではミリタリーインテリジェンスを専攻していた。





「ウサ、基地の破損状況をどう見る?」
 ソウコウが尋ねる。

「そうですね……破損の程度は軽微です。その事から生存者がいる可能性は高いと想定されます。ですが、気になるのは敵がこの程度の攻撃で手を止めた理由です」


「サーシャ、生命反応はあるか?」

「……生命反応……あります。何人かわかりませんが生きてるようです」

「艦長、この基地は戦略上重要な拠点です。もしかしたら敵が占領済みかも……」

「わかった。アイラ、調査に行ってくれ。念のためマァルも同行だ」

 プレアデスは基地に停泊。
 マァル、アイラと数名の回復系魔導士が基地の調査に向かった。





「マァル様、こちらには生存者は見つかりませんでした」

「ウム、我の方も死体ばかりだった」

 基地内の第3階層まで探索をしたマァルたちだったが、生存者は見つからなかった。


「もう少し先を探しましょうか」

 アイラが基地の奥に進むために第4階層の隔壁を開いたその時、爆発音が聞こえた。
 艦との連絡通路の方向だ。

「今の音はっ!?」

 急激に基地内の気圧が下がる。
 強い風が後方に向かって流れた。

「……ムゥッ、罠か。してやられたな」

 アイラは転送の護符を胸元から取り出そうとしたが、それはできなかった。
 手首から先が吹き飛んでいたのだ。
 うまく取り出せなかった護符が風に舞い、後方に吹き飛ばされて行く。

 ほとばしる血液、すぐさま魔導士が回復魔法で治療に取りかかろうとする……が、魔導士たちの頭部はまるで風船のように破裂した。

「くそっ! 物陰からの狙撃かっ!」

 アイラは隔壁内部に体を滑り込ませ、扉をロックした。
 急ぎ物陰に身を潜める。

「アイラ、貴様はここで休め。敵は我が始末する」

「しかし!」

「邪魔だと言っている。ここは我一人で十分だ」

 事実、アイラは出血がひどく回復を急がねばならない状況だった。
 アイラはマァルの言う通りにした。

 艦との連絡通路は破壊された上、転送魔法は使えない。
 そして見えない敵からの狙撃。
 状況は悪い。





「今の音は? 何が起こった?」

 爆発の衝撃で船体が大きく揺れる。

「基地と艦の連絡通路が爆破されたようじゃな。プレアデスも連絡通路付近の外壁に被害が出ておる」

 アルデが被害状況を報告する。

 艦内は騒然としている。
 連絡通路のあったブロックには大きな穴が開き、周囲のすべてのものを吐き出している。

 アルデは手元のスイッチを操作し、耐圧隔壁を下ろして対象ブロックの切り離しにかかった。


 サーシャがなにかに気づく。

「ソウコウ様!! 水平2時、垂直10時の方向に敵艦を感知! 敵主砲こちらに向いています!」

「アルデ、望遠モニタ起動だ」

「承知した」

 敵影が作戦室の大窓に映し出される。
 ウサは携帯端末を操作し敵を分析する。

「あれは重巡洋艦、強力な主砲と艦載機搭載能力を持ったジェミの攻撃艦です。紋章から『カテゴリ3』の軍であると思われます」

 ジェミには文明ごとに『カテゴリ』という格付けが存在する。

 新参の文明はカテゴリ3、地位は低く主に前線で戦う。ジェミの方針決定には関われず、受けた指示の通りに動く兵だ。
 カテゴリ2はカテゴリ3に指示を与え、またジェミの方針決定に関わる。
 ジェミ発足当時からの中心メンバーはカテゴリ1と呼ばれ同盟全体の方針策定権をもつ。
 
 今回の敵はカテゴリ3。つまり末端クラスの文明だ。


「ちっ……待ち伏せされていたと言うことか……! サーシャ防御だ! 西野と吉川は敵艦を落とせ!」

「了解しました。光防御魔法シャインガード展開!」

 光の壁が敵艦の方向に向けて張られはじめる。
 同時にカタパルトが唸りをあげる。

「6号機アステロペ、吉川行きます!」
「7号機メロペ、西野出ます!」

 カタパルトが唸り二機は敵艦めがけ飛び立つとともに、光の壁が展開完了した。





 一方、基地内ではマァルが姿の見えない敵と戦っていた。

「物陰から飛び道具で攻撃とは。悪くない」

 視界の端が一瞬光り、銃弾が飛んでくる。
 マァルはそれを大鎌で受け止めるが、数発が体に命中した。

「マァル様!」

「面白い、ならばこちらも身を隠すまでよ」

 マァルは大鎌を振りかぶり投げつけた。
 激しく回転する大鎌が照明を破壊し、マァルの手元に戻る。
 周囲は暗闇に包まれた。


 全身黒ずくめのマァルは闇に溶け込む。

 敵は銃を乱射しはじめた。
 しかし手応えはなく、マァルに自分の居場所を伝えるだけだった。
 敵の首筋に冷たい感触が伝わる。

「悪くはない……だが、あまりにも非力だ」

 敵は暗闇のなかで全員首を切り落とされた。
 全員を同じ方法で殺害したのはマァルの遊びだろう。





 アイラの傷は概ね回復した。
 まだ痛みは残るが、元通り手が修復されている。

「マァル様も治療を……」

「不要だ。この痛みも殺し合いの醍醐味だからな。……しかし、どのように艦に戻ったものか」

 マァルとアイラはプレアデス本艦の事を心配した。
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