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第2章 フェルミ通商条約機構の一員として
第10話 手荒い歓迎
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プレアデスは赤い月のフェルミ加盟に伴う星間交流の式典のため、ムーハ星系の惑星ムーハ2号球に来ていた。
この星はムーハ人が作り出した人工惑星だ。
◇
「惑星を作り出すとは恐れ入ったな」
サトシが素直に感心する。
「この2号球は私たちの技術の結晶です。宇宙空間に重力場を作り出し核を形成、その周囲を厚さ百キロメートルの植物層が覆っています。私たちの文明一万周年を記念して作り出されたものなんですよ」
そう語るのはムーハ人のガイド、ミヒロだ。
「一万年の歴史かそれはすごい。詳しく聞きたいものじゃのう」
アルデは興味深々だ。
「ムーハは宇宙最古の文明と言われておりまして、私たちは皆、その歴史に恥じぬ人物となれと教育されています」
「意識高いなぁ……」
西野が皮肉でなく言った。
「ミヒロさんは赤くないんですね」
また吉川だ。全く失礼という言葉の意味が理解できていない。
「ムーハの男性は全身に赤い色素が現れますが、女性は比較的色素が薄いのですよ。性的特徴を表す部分には色素が現れますけどね」
そういってミヒロは胸元をチラ見せした。
なるほど、乳房はまるで柿のような色味をしている。
「こら、何見てんの」
ユカがサトシをこづく。
「こちらが、本日の会場となっております」
ミヒロはサトシたちを聖堂に案内した。
とにかく巨大だ。
内部には小川が流れている。壁面は巨大な一枚板でできているようだった。
「ユカさん! 危ない!」
ミヒロが悲鳴をあげる。
「え? 何?」
次の瞬間、巨大な塊がユカの頭上に降ってきた。
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
咄嗟にサトシはユカに体当たりしてその塊を避ける。
「おぅ、悪いなぁ」
上空から声が聞こえる。
サトシたちが上を見上げると、そこには巨人が立っていた。
塊と認識したのは、その巨人の足だった。
「ななな……な……」
吉川は言葉にならない声を出している。
「大丈夫、フォクバン人です。巨大ですが心穏やかな人たちですよ」
◇
「ふぁぁぁ、しかし退屈なもんじゃな、式典というのは」
式典の内容は延々と各文明の代表がスピーチをし、最後にフェルミの繁栄を祈るというものだった。
「まぁ、式典なんてどこもにたようなものだよアルデ」
赤い月を代表してスピーチしたのはソウコウだ。
卒のない内容でうまくまとまっていた。
やはり、勇者だけあって大人数の前でのスピーチにもボロがでない。
この会で判ったことがある。
今回の式典はフェルミに赤い月が加盟したことの祝いの席だったが、すべての加盟星に歓迎したわけではなかった。
スピーチ内でフェルミへの新規加盟文明が増えることで秩序やパワーバランスが狂うことを危惧する内容を述べた星もあった。
エンディアも赤い月の加盟に反対する星のひとつだ。
◇
プレアデスのメンバーが聖堂を出ようとしたそのとき、後ろから呼び止める者があった。
エンディアの大使、ゴッツだ。
名前の通り全身がゴツゴツしており、頑丈そうな外見をしている。
「ソウコウとやら、俺たちエンディアはお前らを認めない」
ゴッツは喧嘩腰でソウコウに迫った。
「お前も戦士なら俺と戦え! それとも腰抜けの赤い月はエンディアの配下文明となるか?」
無茶苦茶なことを言う。
ソウコウは呆れてこう言った。
「赤い月はフェルミと争うつもりはない。つまり、あんたと戦う理由もない」
「なるほど! 腰抜けと言うことだな! では貴様らは今日からエンディアの配下文明だ! 『逃走は権利の放棄である』フェルミ法に則り、赤い月は我が配下としてくれるわ!」
ソウコウが足を止める。
「おい、ソウコウ、あんなやつに関わるな」
「……いや、ここは『けじめ』をつけなきゃな」
ソウコウは振り返りゴッツに言った。
「あんたのその言葉、受けて立つよ」
◇
「なんであんな言葉に反応したんだ」
サトシは呆れている。
「俺が舐められるのは別に構わない。だが、文明自体が舐められるなら話は別だ。これは国の威信をかけた喧嘩だぜ」
辺りは思ったほど慌ててはいなかった。
どうやら、エンディアは新規加盟の文明がある度にこのやり取りを繰り返しているようだ。
聖堂の外にある広場でソウコウとゴッツが互いに剣を持って向かい合う。
「これでまた我が配下の文明が増えるわ」
ゴッツが顔をひきつらせて笑う。
「一瞬で終わらせてやるよ」
審判はムーハ人の議長、ニオータが務めることとなった。
「はじめ!」
ゴッツが剣を大振りで繰り出す。
大振りながらも、スピードが早いため隙が全くない。
「どうだ! 手も足も出んだろう! 『魔法』とやらを使うか? 小僧」
「……あんた相手に魔法は必要ない」
そう言うとソウコウは剣を一突きした。
次の瞬間、ゴッツの剣の刃が縦方向に割ける。
ソウコウはさらに横凪ぎに剣を振る。
薄くなったゴッツの剣は柄の部分と刃の部分に両断された。
呆気にとられるゴッツ。
一瞬の静寂のあと、観客は大いに沸いた。
「まだやるかい?」
ソウコウは微笑んだが、その目は笑っていなかった。
「……俺の敗けだ」
ゴッツは立ち上がって叫ぶ。
「見たか! 今ここに赤い月のソウコウは本物の戦士であることが証明された! 我らエンディアは赤い月を真の戦士の民族と認める! 今後、赤い月への暴言はエンディアへの暴言と心得よ!」
観客はさらに沸き立つ。
「ソウコウ! 俺はお前が気に入った! 今宵は互いの武勇を肴に酌み交わそうぞ!」
「望むところだ」
ソウコウは応える。
その目は笑っていた。
この星はムーハ人が作り出した人工惑星だ。
◇
「惑星を作り出すとは恐れ入ったな」
サトシが素直に感心する。
「この2号球は私たちの技術の結晶です。宇宙空間に重力場を作り出し核を形成、その周囲を厚さ百キロメートルの植物層が覆っています。私たちの文明一万周年を記念して作り出されたものなんですよ」
そう語るのはムーハ人のガイド、ミヒロだ。
「一万年の歴史かそれはすごい。詳しく聞きたいものじゃのう」
アルデは興味深々だ。
「ムーハは宇宙最古の文明と言われておりまして、私たちは皆、その歴史に恥じぬ人物となれと教育されています」
「意識高いなぁ……」
西野が皮肉でなく言った。
「ミヒロさんは赤くないんですね」
また吉川だ。全く失礼という言葉の意味が理解できていない。
「ムーハの男性は全身に赤い色素が現れますが、女性は比較的色素が薄いのですよ。性的特徴を表す部分には色素が現れますけどね」
そういってミヒロは胸元をチラ見せした。
なるほど、乳房はまるで柿のような色味をしている。
「こら、何見てんの」
ユカがサトシをこづく。
「こちらが、本日の会場となっております」
ミヒロはサトシたちを聖堂に案内した。
とにかく巨大だ。
内部には小川が流れている。壁面は巨大な一枚板でできているようだった。
「ユカさん! 危ない!」
ミヒロが悲鳴をあげる。
「え? 何?」
次の瞬間、巨大な塊がユカの頭上に降ってきた。
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
咄嗟にサトシはユカに体当たりしてその塊を避ける。
「おぅ、悪いなぁ」
上空から声が聞こえる。
サトシたちが上を見上げると、そこには巨人が立っていた。
塊と認識したのは、その巨人の足だった。
「ななな……な……」
吉川は言葉にならない声を出している。
「大丈夫、フォクバン人です。巨大ですが心穏やかな人たちですよ」
◇
「ふぁぁぁ、しかし退屈なもんじゃな、式典というのは」
式典の内容は延々と各文明の代表がスピーチをし、最後にフェルミの繁栄を祈るというものだった。
「まぁ、式典なんてどこもにたようなものだよアルデ」
赤い月を代表してスピーチしたのはソウコウだ。
卒のない内容でうまくまとまっていた。
やはり、勇者だけあって大人数の前でのスピーチにもボロがでない。
この会で判ったことがある。
今回の式典はフェルミに赤い月が加盟したことの祝いの席だったが、すべての加盟星に歓迎したわけではなかった。
スピーチ内でフェルミへの新規加盟文明が増えることで秩序やパワーバランスが狂うことを危惧する内容を述べた星もあった。
エンディアも赤い月の加盟に反対する星のひとつだ。
◇
プレアデスのメンバーが聖堂を出ようとしたそのとき、後ろから呼び止める者があった。
エンディアの大使、ゴッツだ。
名前の通り全身がゴツゴツしており、頑丈そうな外見をしている。
「ソウコウとやら、俺たちエンディアはお前らを認めない」
ゴッツは喧嘩腰でソウコウに迫った。
「お前も戦士なら俺と戦え! それとも腰抜けの赤い月はエンディアの配下文明となるか?」
無茶苦茶なことを言う。
ソウコウは呆れてこう言った。
「赤い月はフェルミと争うつもりはない。つまり、あんたと戦う理由もない」
「なるほど! 腰抜けと言うことだな! では貴様らは今日からエンディアの配下文明だ! 『逃走は権利の放棄である』フェルミ法に則り、赤い月は我が配下としてくれるわ!」
ソウコウが足を止める。
「おい、ソウコウ、あんなやつに関わるな」
「……いや、ここは『けじめ』をつけなきゃな」
ソウコウは振り返りゴッツに言った。
「あんたのその言葉、受けて立つよ」
◇
「なんであんな言葉に反応したんだ」
サトシは呆れている。
「俺が舐められるのは別に構わない。だが、文明自体が舐められるなら話は別だ。これは国の威信をかけた喧嘩だぜ」
辺りは思ったほど慌ててはいなかった。
どうやら、エンディアは新規加盟の文明がある度にこのやり取りを繰り返しているようだ。
聖堂の外にある広場でソウコウとゴッツが互いに剣を持って向かい合う。
「これでまた我が配下の文明が増えるわ」
ゴッツが顔をひきつらせて笑う。
「一瞬で終わらせてやるよ」
審判はムーハ人の議長、ニオータが務めることとなった。
「はじめ!」
ゴッツが剣を大振りで繰り出す。
大振りながらも、スピードが早いため隙が全くない。
「どうだ! 手も足も出んだろう! 『魔法』とやらを使うか? 小僧」
「……あんた相手に魔法は必要ない」
そう言うとソウコウは剣を一突きした。
次の瞬間、ゴッツの剣の刃が縦方向に割ける。
ソウコウはさらに横凪ぎに剣を振る。
薄くなったゴッツの剣は柄の部分と刃の部分に両断された。
呆気にとられるゴッツ。
一瞬の静寂のあと、観客は大いに沸いた。
「まだやるかい?」
ソウコウは微笑んだが、その目は笑っていなかった。
「……俺の敗けだ」
ゴッツは立ち上がって叫ぶ。
「見たか! 今ここに赤い月のソウコウは本物の戦士であることが証明された! 我らエンディアは赤い月を真の戦士の民族と認める! 今後、赤い月への暴言はエンディアへの暴言と心得よ!」
観客はさらに沸き立つ。
「ソウコウ! 俺はお前が気に入った! 今宵は互いの武勇を肴に酌み交わそうぞ!」
「望むところだ」
ソウコウは応える。
その目は笑っていた。
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