魔法宇宙戦艦プレアデス!

灰猫ベル

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第2章 フェルミ通商条約機構の一員として

第32話 裏切り者

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 無敵と言われていたカテゴリ1をプレアデスが敗ったというニュースは瞬く間に銀河を駆け巡った。

 フェルミ通商条約機構の各文明は大いに沸き立ち、ジェミ軍事同盟では先行きの不安から同盟離脱を検討する文明も現れ始めた。





 ジェミ軍事同盟、10人委員会ーー。
 カテゴリ1の代表が集まる最高会議である。
 9人のカテゴリ1が集結している。

「今日ここに皆を召集したのは赤い月の件について対応を決めるためだ」

 中央の人物が厳かに言った。

「アルゴンがやられたようだな……」

「ククク……奴は我ら10人委員会の中でも最弱……」

「フェルミごときに負けるとはカテゴリ1の面汚しよ……」

「フム。言いたいことは全て言われてしまったな」


「しかし……今まで敗れたことのない我らカテゴリ1を倒す者がいるとは……」

「赤い月……『魔法』……これ程のものとは」

「アルゴンが倒されたこと自体は良いとして、同盟内部が騒がしくなっているのは気に入らんな」

「同盟の安定のためにもこの状況、何とかせねばならぬ」

「しかし、『彼ら』との盟約はどうする?」

「『彼ら』とて赤い月を食らいたいのだ。魔法の使い手のみ残し、赤い月の政府は打倒する。これでよかろう」

「そうだな。そうすれば魔法は我等の物、そして脅威は倒す。両立可能だ」


「では誰が事に当たるかだが……」

 一瞬の沈黙。互いを探り合う面々。
 沈黙を破ったのは全身傷だらけの男だった。

「俺が行こう」

「ティターンか……よかろう」




 西野はベリアルを訪ねプレアデスの動力炉「魔王の炉」に来ていた。

「おぅ、珍しい奴が来たじゃねぇか」

 べリアルは炉の中から嬉しそうな顔で西野に手を挙げる。

「ベリアルさん、相談があるんですけど……」

 西野は吉川の蘇生に関して、べリアルに相談した。

「ほーん、なるほどな。吉川を生き返らせたいと」

「できますか?」

「吉川の体の一部でも持ってるか?」

「はい。これだけですけど……」

 そういうと西野は紙に包んだ吉川の遺骨を取り出した。
 どこかの指の骨だろうか、小さな骨だ。

「ほぅ、骨か……。そんだけありゃ出来ねぇこともねぇよ」

「本当ですか?」

 西野が明るい顔を見せる。
 まさかこんなに簡単に「できる」という回答を得ることができるとは思ってもみなかった。

「人体組成と命魔法の合わせ技ならできるぜ」

 西野の顔が曇る。

「命魔法……魔法石に実装されてない魔法だ……」

 べリアルが続ける。

「人間側の古代魔法だから魔族の俺ァ概要しか知らねぇけど、確か出来るはずだぜ。次に母星に戻るタイミングで『青い月』を訪ねてみるといい。『青い月』の連中は今でも古代魔法を伝えてるはずだ」

「はい、分かりました。ありがとうございます!」

 吉川が生き返る可能性がある。西野は高揚した。





 フェルミ通商条約機構。その議長の間では一人の斥候が議長ニオータに報告をしていた。

「……内部調査の状況はどうだ?ジェミと通じている者の見当はついたか」

「はい」

「して、その者は?」

 斥候が議長に耳打ちする。

「ふむ……それは少々厄介なことだな……」

 そう言うと議長は片手をこめかみに当て、遠くを見た。

「……仕方ない。プレアデスにはもうひと働きしてもらわねばな……」





 プレアデス。
 通信士官のユウナが、秘密の信号を受信する。

「艦長、内緒の連絡が来たんだけどどうする?」

「内緒の連絡……? 艦長室で聞こう」

 そういうとソウコウはユウナを連れ、艦長室へ移動した。



 ユウナの視点が虚ろになる。「マインドトランス」の応用で、他者同士の意識共有状態を開設する。

『ソウコウ、聞こえるか?』

 ソウコウの意識の中に直接ニオータ議長の声が聞こえる。

『ええ、聞こえますよ。ニオータ議長』

『魔法の流出の件、非常に深刻なことになってしまった……』

『と、仰いますと?』

『この事件、裏でジェミと繋がっているのはロスワ人のタルフと、ギガン人のテマロックを中心とした勢力だ』

『タルフ副議長にテマロック副議長ですか……』

『彼らはジェミに寝返ろうとしている』

『それは物騒な話ですね……』

『ああ。そして、現時点でタルフの側についている勢力がどれくらいの規模なのかは不明だ。ロスワもギガンも非常に大きな力を持った文明だ。少なく見積もっても機構の半数の文明が彼らの側に付いていると私は見ている』

『そうですね。ギガン、ロスワが手を組んでいるとすれば、エンディア、チュニー、ティガシンハもそちらに付いていると見るのが妥当でしょうね』

『そこでソウコウ、お主に頼みたいことがある』

『タルフ、テマロックの暗殺……ですね?』

『……そうだ。君の艦にいるマァル。彼の力をまた借りたい』

『承知しました』

『では、首尾良く頼むぞ』


 そこで通信は途切れた。
 ユウナは普段通りの顔つきに戻っている。
 今のやり取りについてユウナも聞いてはいたが、能天気なユウナは特に何も思わなかった。





「サーシャ、フェルミ・セントラルに向かってくれ」

「承知いたしました」

「……フェルミ・セントラル……中央議会のあるステーションか。なぜそんなところに?」

 サトシは怪訝な顔でソウコウに理由を聞いた。
 しかし、ソウコウはサトシの質問には答えなかった。

 サトシは直感的に「人が死ぬ」ことを感じ取った。




 一方、その頃。
 ジェミのカテゴリ1、ティターンは赤い月に向けて自軍を率い出発していた。
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