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第3章 フェルミとの決別
第38話 青い月の名物、温泉へようこそ!
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プレアデスの一行は、セーヤの計らいで青い月にある王族用の温泉地に来ている。
落差五百メートルある青い月最大の滝の滝壺に温泉が湧いている。
滝の冷たい水と地から吹き出る豊富な熱湯が混ざり、ちょうどよい湯加減となっている。
透き通った深い青色をした湯には、魔力と肉体の回復効果があると言われており、古来より王族はこの場所を聖地として来た。
温泉の治癒力は魔法とは違い、根本的な治癒を期待できる。さらに精神的な癒しの効果も大きい。
この世界では珍しく、ここは男女で浴場が別れている。
男女別の王族用の浴場の他に、民衆用の大浴場もあるのは、この青い月の王族が代々民を大事にしてきたからだ。
◇
女湯ではユカ、アルデ、サーシャ、アイラ、ユウナ、クローディアが入浴している。
アルデは肩から鼠径部にかけて大きな傷跡がある。過去の戦争時に受けた創傷の痕だ。
その傷についてアルデは名誉の負傷だと考えてはいるが、ユカの傷ひとつない体を見ると自分の体が恥ずかしく思えた。
「ユカはサトシと最近どうなんじゃ? シフトの関係で『ご無沙汰』じゃろう?」
唐突にアルデは興味半分、嫉妬半分で尋ねた。
自分でも意地が悪い質問だとは思ったが、つい口をついて出てしまった。
「アルデさん、それは失礼というものかと……」
サーシャがアルデをたしなめる。
「いいんです、本当の事なんで」
そう言うとユカは俯いた。
アルデは慌ててフォローする。
「いや、サトシもバカな男よのう。こんな可愛らしいおなごに寂しい思いをさせよってからに!」
フォローは空回り、アルデの乾いた笑いが滝の音にかき消される。
なお、アイラはユカの裸に釘付けだ。
アイラ自身、スタイルは悪くない。程よく大きな胸の先端にはやや赤みの強い突起があり、締まった腰に小振りな尻をしている。
ユカの体は全体的に筋肉は薄く、黄色人種らしく横に広めの乳房と濃い肌色の乳首だ。陰毛は自然のままの姿である。腰はわずかにくびれ、ふっくらとした尻の曲線が女性らしい。
何気無しに近くを通るときにそっと肌をさわってその感触を楽しんでいた。
◇
一方、男湯ではソウコウ、サトシ、ベリアル、西野、吉川、セーヤが寛いでいた。
西野は薄い壁一枚で隔たれた女湯が気になって仕方ないようだ。
吉川は湯を飲んでいる。この男は蘇って以来、行動に異常さが目立つ。
ソウコウ、サトシ、ベリアル、セーヤはのんびり浸かっている。
「この温泉は本当に気持ちがいいな。日本の温泉にもこんなにいい温泉はそうそう無い」
サトシは湯に満足だ。
湯を誉められてセーヤも誇らしい気持ちになる。
「『日本』ってのは、サトシの故郷だっけ?」
ソウコウが尋ねる。
「あぁ、そうだよ」
「どんな場所なんだ?」
「そうだな……、ヌージィガみたいに四季があって、ムーハみたいにビルが建ってて、うるさい場所だよ」
「帰りたくはないのか?」
「そうだな……帰りたくないと言えば嘘になる。でも俺はこの世界も気に入っているよ」
その時だ。
吉川は不穏な気配を察知した。
同時にソウコウ、ベリアル、セーヤも裸のまま構える。
「グルルルル……」
吉川が唸り声をあげる。
敵襲だ。浴場の入り口から乱入してきた敵は鈍く発光する銀色の鎧を着ている。
薄暗いため、敵の人数は不明だ。
「対魔法コーティングの鎧! 何者だっ!」
対魔法コーティングは、その名の通り魔法を無効化する金属加工で特有の鈍い発光がある。過去、ヌージィガと赤い月との戦争時に赤い月の兵が着用していたものだ。
しかし、今回の敵は体格からして赤い月の人間ではなさそうだ。赤い月星団の人間より一回り大きい。
「覚悟! 貴様らを殺せば反乱軍など恐るるに足りんわ!」
「その掠れ声、イグラック人だな」
ソウコウはすぐに敵の出身星を見抜いた。青い月占領軍の残党だろう。
「それが分かったところで貴様らにはどうにもできまい!」
イグラック人は浴槽にいるソウコウらに向けて銃を乱射する。
「闇防御魔法!」
べリアルがすかさず防御魔法を張る。しかし、銃弾も対魔法コーティングされていた。銃弾は防御魔法を貫通し、ソウコウの肩をかすめる。
「ちっ! 銃弾まで丁寧にっ!」
なおも乱射される銃弾に対し、身体強化魔法で反応速度を上げて避ける他ないソウコウ達。
その時、吉川が湯の中から高く飛び上がった。
敵の視線が吉川に一瞬集中する。
その隙をついて、べリアルが羽と爪を伸ばし、敵に襲い掛かり、一人の喉を掻っ捌いた。
男湯の異変に気付き、サーシャ、アイラ、クローディアも裸のまま駆けつける。
「サトシ様、西野さん、向こうの方に逃げていてください」
サーシャがサトシ達を女湯の方に逃がすとともに、身体強化魔法を発動、敵に蹴りを見舞う。
しかし、サーシャの蹴りではイグラック人に大したダメージを与えることができない。
◇
女湯に逃げ込んだサトシたち。アルデが小さな火を灯す。
アルデの魔力は低い。魔力増強の装置がなければ小さな火を熾すのが精いっぱいだ。
ぼぅっと、浮かび上がる裸体。ユカは反射的に胸を手で覆った。
アルデは男に裸を見られることにそこまでの抵抗はなかった。ユウナに至っては文化的に羞恥心自体持ち合わせていない。
仄かな光に照らされて、敵の姿が現れた。
「逃がすと思ったか! バカめ!」
サーシャは判断を誤った。
女湯に戦闘能力の低い者を集めてしまったのだ。
「しまった!」
「貴様ら、抵抗するなよ。抵抗すればこいつらを撃ち殺す」
女湯に侵入していたイグラック人はサトシたちに銃口を向ける。
人質となっているのは、サトシ、アルデ、ユカ、西野、ユウナの五人だ。
「おのれ、卑怯な……」
ソウコウが呻くように言う。
「卑怯? それがどうした? 勝つためならば何でもす……」
言いかけた敵の首がボチャンと音を立てて浴槽に落ちた。
「おい、手前ら。俺たちを舐めるなよ」
べリアルがその神速で敵の首を切り落としたのだった。
「ひっ……ひぃぃ……」
敵は怯む。丸腰だと思っていた相手に完全装備で負けそうなのだ。
「くそ! ではせめてこいつらだけでも!」
敵はサトシたちに銃口を向け、引き金を引いた。
しかし、その銃弾はサトシたちに触れることはなかった。
銃弾はサトシたちの体を大きく反れ、イグラック人に命中する。
「何ぃ!?」
空から突如大量の砂が降ってくる。
砂は「偶然」に壁のような形を成し、やがて巨大な建造物が出来上がった。
「なんだこれは?」
「幻楼、奇跡魔法の秘術よ」
クローディアが幻楼を発動したのだ。
幻楼の中ではすべての事象が「偶然」に術者の思い通りになる。
通常の魔法とは異なり、発生する事象自体は実体を伴うものなので、対魔法コーティングの干渉を受けない。
「人を痛めつけるのは好きじゃないんよ。じゃけぇ、すぐに逝かしちゃるけぇな」
そういうとクローディアは敵のいる空間を圧縮。一瞬で十数人の敵を圧殺した。
◇
翌日――。
プレアデスの発進準備は整った。
「どうも、とんだ休暇になってしまいましたね」
見送りに来たセーヤがソウコウに頭を下げる。
「とんでもない。温泉はよかったよ。邪魔は入ったけど」
「どうぞ、また青い月に立ち寄った際には声をかけてください」
「あぁ、そうさせてもらうぜ」
「で、次はどこへ?」
「そうだな、次はヌージィガに行こうと思う」
「そうですか、ご武運を」
「ああ、セーヤもな」
再びソウコウとセーヤは固く握手をした。
「よし、次はヌージィがを解放するぞ! サーシャ、ヌージィガに進路をとってくれ」
「承知いたしました」
「発進だ!」
落差五百メートルある青い月最大の滝の滝壺に温泉が湧いている。
滝の冷たい水と地から吹き出る豊富な熱湯が混ざり、ちょうどよい湯加減となっている。
透き通った深い青色をした湯には、魔力と肉体の回復効果があると言われており、古来より王族はこの場所を聖地として来た。
温泉の治癒力は魔法とは違い、根本的な治癒を期待できる。さらに精神的な癒しの効果も大きい。
この世界では珍しく、ここは男女で浴場が別れている。
男女別の王族用の浴場の他に、民衆用の大浴場もあるのは、この青い月の王族が代々民を大事にしてきたからだ。
◇
女湯ではユカ、アルデ、サーシャ、アイラ、ユウナ、クローディアが入浴している。
アルデは肩から鼠径部にかけて大きな傷跡がある。過去の戦争時に受けた創傷の痕だ。
その傷についてアルデは名誉の負傷だと考えてはいるが、ユカの傷ひとつない体を見ると自分の体が恥ずかしく思えた。
「ユカはサトシと最近どうなんじゃ? シフトの関係で『ご無沙汰』じゃろう?」
唐突にアルデは興味半分、嫉妬半分で尋ねた。
自分でも意地が悪い質問だとは思ったが、つい口をついて出てしまった。
「アルデさん、それは失礼というものかと……」
サーシャがアルデをたしなめる。
「いいんです、本当の事なんで」
そう言うとユカは俯いた。
アルデは慌ててフォローする。
「いや、サトシもバカな男よのう。こんな可愛らしいおなごに寂しい思いをさせよってからに!」
フォローは空回り、アルデの乾いた笑いが滝の音にかき消される。
なお、アイラはユカの裸に釘付けだ。
アイラ自身、スタイルは悪くない。程よく大きな胸の先端にはやや赤みの強い突起があり、締まった腰に小振りな尻をしている。
ユカの体は全体的に筋肉は薄く、黄色人種らしく横に広めの乳房と濃い肌色の乳首だ。陰毛は自然のままの姿である。腰はわずかにくびれ、ふっくらとした尻の曲線が女性らしい。
何気無しに近くを通るときにそっと肌をさわってその感触を楽しんでいた。
◇
一方、男湯ではソウコウ、サトシ、ベリアル、西野、吉川、セーヤが寛いでいた。
西野は薄い壁一枚で隔たれた女湯が気になって仕方ないようだ。
吉川は湯を飲んでいる。この男は蘇って以来、行動に異常さが目立つ。
ソウコウ、サトシ、ベリアル、セーヤはのんびり浸かっている。
「この温泉は本当に気持ちがいいな。日本の温泉にもこんなにいい温泉はそうそう無い」
サトシは湯に満足だ。
湯を誉められてセーヤも誇らしい気持ちになる。
「『日本』ってのは、サトシの故郷だっけ?」
ソウコウが尋ねる。
「あぁ、そうだよ」
「どんな場所なんだ?」
「そうだな……、ヌージィガみたいに四季があって、ムーハみたいにビルが建ってて、うるさい場所だよ」
「帰りたくはないのか?」
「そうだな……帰りたくないと言えば嘘になる。でも俺はこの世界も気に入っているよ」
その時だ。
吉川は不穏な気配を察知した。
同時にソウコウ、ベリアル、セーヤも裸のまま構える。
「グルルルル……」
吉川が唸り声をあげる。
敵襲だ。浴場の入り口から乱入してきた敵は鈍く発光する銀色の鎧を着ている。
薄暗いため、敵の人数は不明だ。
「対魔法コーティングの鎧! 何者だっ!」
対魔法コーティングは、その名の通り魔法を無効化する金属加工で特有の鈍い発光がある。過去、ヌージィガと赤い月との戦争時に赤い月の兵が着用していたものだ。
しかし、今回の敵は体格からして赤い月の人間ではなさそうだ。赤い月星団の人間より一回り大きい。
「覚悟! 貴様らを殺せば反乱軍など恐るるに足りんわ!」
「その掠れ声、イグラック人だな」
ソウコウはすぐに敵の出身星を見抜いた。青い月占領軍の残党だろう。
「それが分かったところで貴様らにはどうにもできまい!」
イグラック人は浴槽にいるソウコウらに向けて銃を乱射する。
「闇防御魔法!」
べリアルがすかさず防御魔法を張る。しかし、銃弾も対魔法コーティングされていた。銃弾は防御魔法を貫通し、ソウコウの肩をかすめる。
「ちっ! 銃弾まで丁寧にっ!」
なおも乱射される銃弾に対し、身体強化魔法で反応速度を上げて避ける他ないソウコウ達。
その時、吉川が湯の中から高く飛び上がった。
敵の視線が吉川に一瞬集中する。
その隙をついて、べリアルが羽と爪を伸ばし、敵に襲い掛かり、一人の喉を掻っ捌いた。
男湯の異変に気付き、サーシャ、アイラ、クローディアも裸のまま駆けつける。
「サトシ様、西野さん、向こうの方に逃げていてください」
サーシャがサトシ達を女湯の方に逃がすとともに、身体強化魔法を発動、敵に蹴りを見舞う。
しかし、サーシャの蹴りではイグラック人に大したダメージを与えることができない。
◇
女湯に逃げ込んだサトシたち。アルデが小さな火を灯す。
アルデの魔力は低い。魔力増強の装置がなければ小さな火を熾すのが精いっぱいだ。
ぼぅっと、浮かび上がる裸体。ユカは反射的に胸を手で覆った。
アルデは男に裸を見られることにそこまでの抵抗はなかった。ユウナに至っては文化的に羞恥心自体持ち合わせていない。
仄かな光に照らされて、敵の姿が現れた。
「逃がすと思ったか! バカめ!」
サーシャは判断を誤った。
女湯に戦闘能力の低い者を集めてしまったのだ。
「しまった!」
「貴様ら、抵抗するなよ。抵抗すればこいつらを撃ち殺す」
女湯に侵入していたイグラック人はサトシたちに銃口を向ける。
人質となっているのは、サトシ、アルデ、ユカ、西野、ユウナの五人だ。
「おのれ、卑怯な……」
ソウコウが呻くように言う。
「卑怯? それがどうした? 勝つためならば何でもす……」
言いかけた敵の首がボチャンと音を立てて浴槽に落ちた。
「おい、手前ら。俺たちを舐めるなよ」
べリアルがその神速で敵の首を切り落としたのだった。
「ひっ……ひぃぃ……」
敵は怯む。丸腰だと思っていた相手に完全装備で負けそうなのだ。
「くそ! ではせめてこいつらだけでも!」
敵はサトシたちに銃口を向け、引き金を引いた。
しかし、その銃弾はサトシたちに触れることはなかった。
銃弾はサトシたちの体を大きく反れ、イグラック人に命中する。
「何ぃ!?」
空から突如大量の砂が降ってくる。
砂は「偶然」に壁のような形を成し、やがて巨大な建造物が出来上がった。
「なんだこれは?」
「幻楼、奇跡魔法の秘術よ」
クローディアが幻楼を発動したのだ。
幻楼の中ではすべての事象が「偶然」に術者の思い通りになる。
通常の魔法とは異なり、発生する事象自体は実体を伴うものなので、対魔法コーティングの干渉を受けない。
「人を痛めつけるのは好きじゃないんよ。じゃけぇ、すぐに逝かしちゃるけぇな」
そういうとクローディアは敵のいる空間を圧縮。一瞬で十数人の敵を圧殺した。
◇
翌日――。
プレアデスの発進準備は整った。
「どうも、とんだ休暇になってしまいましたね」
見送りに来たセーヤがソウコウに頭を下げる。
「とんでもない。温泉はよかったよ。邪魔は入ったけど」
「どうぞ、また青い月に立ち寄った際には声をかけてください」
「あぁ、そうさせてもらうぜ」
「で、次はどこへ?」
「そうだな、次はヌージィガに行こうと思う」
「そうですか、ご武運を」
「ああ、セーヤもな」
再びソウコウとセーヤは固く握手をした。
「よし、次はヌージィがを解放するぞ! サーシャ、ヌージィガに進路をとってくれ」
「承知いたしました」
「発進だ!」
応援ありがとうございます!
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