【完結】薬学はお遊びだと言われたので、疫病の地でその価値を証明します!

きまま

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本編【全40話】

37.

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「……ユリウスは私が王都を出た後、どうしていたのですか?」

ダイゼンが残した紅茶にはまだ、彼の気配が残されているような気がした。
その湯気の向こうには、懐かしい日々が重なって見え、それを辿るように私は口を開いた。

「私か?医師になるために色々していたよ」

少し笑って、肩を竦める。

「今の状況じゃ、医師が活躍できる場所なんてほとんどないから、ルナード領なら良いかもしれないって思っていたんだ」

彼はそこまで言うと、一息沈黙を落とした。そして、何かを思い出したかのように、ハッと声を上げる。

「そうだ、それでルナード領の医師会が無くなってることを聞いたんだ。–—エリシアは何か知っているだろうか」

疑念とか不安とか、そういう影を落とした彼の視線が私を捉える。
その瞳は随分と真剣でさっきみたいに曖昧な言葉を望んでいるようには見えなかった。むしろ、真相を知りたいような、そんな疑い深い視線だ。
話してもいいものだろうか、と一つ二つ三つと悩んで——
けれど、彼の問いを避け続けるわけにもいかないのも事実だった。

「少し場所を変えましょうか」

私の語りはここの華やかさには影を落としすぎてしまう気がして、そう提案した。彼もそれを快く受け取り、人通りの少ないベランダまで歩みを進める。
そして、月夜の明るさと夜風の心地良さに目を細めながら、雄弁に語る。

「実は——」

私は言葉を選びながら渋々とそういう滑り出しで、今までの事を話した。カリスとの婚約破棄からフォルセイン領で王命を果たした今までのことを。

「……そうか」

話し終えれば、ユリウスは一言だけ呟いた。それは貶すわけでも慰めるわけでもない、妙に納得したようなため息だった。
少し、重たい話をしすぎてしまっただろうか、と悩む彼の横顔を見ていると、不意に彼はこちらを見て口を開いた。

「フォルセイン領での暮らしは王都と比べてどうなんだ?楽しいのか、それとも寂しいのか」

親みたいな言葉選びだ。
ただ、その問いは単に私への興味に留まらず、なにかもっと、大事なことを探るような響きがあった。
嫌に向けられる感情に気づかない振りをして答える。

「薬草と一緒に生活するのは楽しいですよ。フォルセイン領の皆さんは優しい人も多いですし。でも、人手は足りませんけどね。ユリウスも一緒に来ませんか?あなたならきっと、すぐに馴染めると思いますよ」

「いや、行かない」

彼は強い感情で否定した。その一瞬、彼の笑顔がスっと消え、そして、鋭い目つきで私を見て、力強い手で私の手を握る。
どうしてとか痛いとか、そういう感情を思うよりも前に、彼の真っ直ぐな瞳が私を捉えた。それは友人として、医師としてというより、それ以上の関係を欲するような、そんな独占欲に満ちた目で。
私もエルンを欲するとき、こういう怖い瞳をしているのだろうか。
ふと、そう思えば、振り払おうとする手は嫌に力が入らなかった。

「それよりも君を——」

彼の声はやけに落ち着いているのに、握る手は彼の心の中を暴くように一層強くなっていく。

「——ユリウス」

それ以上の言葉を聞きたくなくて思わず、名を呼んだ。その声は驚くほど震えていて、掠れていて、人の名前を呟くにしては恐怖に支配されすぎているように思えた。
この乱暴さを振りまくのが彼で無いのなら、この胸の鼓動の痛みさえ心地よかったのだろうか。
そういう淡い気持ちがゆっくりと、痛みに解けていく。
そして、そうやって諦めかけたその刹那——

「……随分と無作法な真似をしているな」

その怒りが混じったような低く、優しい声は背後から静かに落ちた。
その声だけで安堵したのだろうか。振り返るよりも先に、胸の鼓動は酷く安心しきったように落ち着きを取り戻していた。
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