【完結】薬学はお遊びだと言われたので、疫病の地でその価値を証明します!

きまま

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本編【全40話】

38.

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我に返って振り返れば、そこにはエルンとダイゼンが立っていて、まるで救世主の登場かのように思えた。

そして、声をかけたエルンは微笑んでいる。けれど、その瞳の奥には何かを咎めるように、冷たく侵しがたい雰囲気を保っていた。

「私の医師に用があるのなら、礼節を弁えてもらわなくては」

エルンの冷たい言葉にユリウスの手が静かに離れた。
手のひらには確かに痛みが残っていて、手が離されてもなお、ユリウスの乱暴さを現実に証明していた。
助けて貰ったせいか、痛みのせいか、目は涙で霞んでいる。
もう視界も感情も何もかもがぐちゃぐちゃだった。
そんな私を差し引いて、会話は続く。

「いやあ、昔の顔なじみと再会して少し舞い上がってしまいました。お騒がせしましたよ、エルン様」

「そうか。……なら、そろそろお引き取り願おうか。少々、彼女と話したいことがあるのでね」

「今晩の主役の願いなら確かに受け取りたいのですが……。あいにくこちらも、話したいことが山ほどあるのでね。すみません、エルン様」

飄々とした口調でユリウスは言う。その口先の謝罪の言葉とは裏腹に、ユリウスの表情には薄らとしたと笑みが残っていた。
その笑みの端は自分でも制御できない苛立ちのように、わずかに震えていた。
そのユリウスの様子に、ダイゼンは少し眉をひそめてため息をこぼす。場の雰囲気は、月明かりに深い影を落とすように、重くなっていた。

……なんだろうか。ユリウスの態度は挑発的というか、エルンの言葉を軽く受け流しているような、そんな不遜さがあった。
エルンもそれを感じ取ったようで、今度は私の方を向いて、優しく微笑む。

「エリシア、話は済んだだろうか」

「まだですよ、エルン様。それに、エルン様が来てから泣いてしまっている。……私が慰めてあげなくては」

私が頷きを返そうとすると、ユリウスがそれに割って入る。
その不遜な態度に胸の奥が嫌に疼いた。過去の嫌な記憶を無理に引っ張ってきたようなそんな気味悪さが燻る。
その態度も、私に有無を言わせない物言いも、何もかも。
彼はカリスと似ているみたいだ。
いや、ユリウスがありのままである分、逃げ場のあるカリスの方がよっぽどマシなのかもしれない。
とかく、彼の今の気味悪さはどうにも受け入れられなかった。

「私はエリシアに聞いたのだが?」

「エリシアも私と同じ気持ちだと思いますけどね」

言い合っては、エルンとエリシアの視線が交錯する。
エルンの瞳は穏やかでありながら、どこまでも鋭くユリウスを刺していた。
ユリウスの笑みは崩れないが、その口元にはわずかな苛立ちが滲んでいた。
互いの存在を測り合うような沈黙が長い刃のように場を支配して、どちらが先に言葉を発しても、この静寂は壊れてしまうような、そんな緊張感が漂っていた。

当事者なはずなのに、まるで蚊帳の外にいるみたいだった。
思えば、カリスのときもそうだ。
良いも悪いも言うことなく、リディアの良いように操られては、あくる日にあるようでない選択肢の上で、肯定を迫られていた。そして、後悔を募らせる。それはあのときも、今も。
誰かに流されているだけの自分に心底嫌気がさしてくる。
だから、もうそういう繰り返しは——

「嫌です」

と。
息を吸うことも許されないような静寂の中で、夜風に流れるように、月明かりに照らされるように、大粒の涙が一つ地面に零れた。
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