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番外編【全8話】
Side:エリシア①
しおりを挟む唇を介して体温が溶け合い、互いの息が静かに混ざる。そのまま自然と唇が深く重なり、わずかに触れた舌先が触れ合った。
そして、長く絡ませた舌を、唇を、名残惜しくも離せば、思わず甘い吐息がこぼれた。
猫なで声みたいな酷く甘えた声だった。
それに自分でも、少し気恥しくなってエルンを見れば、彼もまた荒い息を吐いている。
「……少し熱くなりすぎただろうか」
「そんなことはありませんよ。私はまだ……離れたくはありません」
「そうか……。では」
そう言って、エルンは一瞬だけ私を見つめた。
その瞳に映るのは、迷いでも理性でもなく、ただ私への確かな想いだった。
荒くなった息もお構い無しにまたお互いに求め合う。今までの焦れったさやら抑えた想いやらを解消するように。
そして、また唇を重ねようとして——
刹那、月明かりがゆっくりと私たちを照らした。
それはスポットライトの灯りのように、私たちを見つけ、影で隠された秘密を露わにする。
夜風が触れそうになった私たちの唇の間を通り抜けた。
呆然としながら夜風を感じて、そして、お互いにハッと我に返る。
ここはベランダだ。それも、近くには大広間があって喧噪も人も近い。いくらここが人通りの少ない場所と言っても、こんな秘密を長く味わうのは難しい。
……どうやら、少し熱で浮かされしまっていたらしい。
その熱を取るようにパタパタと顔を手で仰ぎながら、起き上がる。ぐちゃぐちゃになった顔を拭いてエルンを見れば、彼も顔を赤くしていた。
そして、彼はゆっくりと起き上がり、上着を脱ぐ。私の涙やらなんやらで湿った上着を。
「……すみません。色々と……」
上手く言葉にできないまま、ただ身体は甘えるように、エルンの胸の方に寄せていた。速すぎる鼓動は相変わらずで、ずっと聞いていたいほど耳に心地よく響く。
エルンはその私のわがままを受け入れながら、頭を優しく撫でた。
「そろそろ戻るとするか」
その声に導かれるように、私はそっと顔を上げた。
月明かりはまだ私たちを照らし、大広間の喧噪は夜風に乗り、届く。そこにはたしかに現実が近くにあって、名残惜しくも現実へと戻る。
まだ二人だけの空間はお預けのまま——。
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