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番外編【全8話】
Side:カリス①
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治療、浄化、蘇生、救済——
そう語られた聖女の力は領民を救うには十分すぎるほど魅力的だった。
だからこそ、聖女を手に入れるのは私の最大の責務だと信じて疑わなかった。その力の甘美さに気づくのには、少し遅すぎたのかもしれない。
——その魅力に気付いたのはいつだったか。と、時折考える。そういう記憶の中にはいつもにこやかに笑うリディアがいて、そして、悲しそうなエリシアがいて。
ハッと目が覚めた。
寝起きの悪い朝だ。聖女と共に過ごすようになってから、こういう日々が続いている。
きっと、変わった環境に慣れていないんだ。そう自分に暗示しながら、外の景色に目をやった。
窓の外では風が庭木を揺らし、朝日が淡く街を照らしていた。
朝だと言うのに活気よく行き交う商人と馬車たちの姿も見える。あれはフォルセインよりも遠くから来た商隊だ。聖女との婚約に伴って交わされた、新しい領の繁栄の象徴。
けれど、不思議なことにその光景を眺めていても、心は少しも晴れなかった。
「あら、起きていらっしゃったのですね、カリス様!お茶をご用意したので、お飲みになってくださいね」
心のざわめきを探っていると、不意に軽やかな足音が近づいた。そして、部屋の扉からリディアの声が出てきて、彼女は一つのお茶を持って、寝起きの私を労わってくれるようだった。
お茶を飲み、その苦さに顔を歪める。毎朝これを飲まされているが、どうにもこの独特な苦味には慣れなかった。
そればかりか、エリシアの淹れた茶の味を懐かしんでしまう。彼女の茶は心のざわめきをすっと晴れさせるように優しく、いつも暖かな感情があった気がするのに、と妙に考えてしまう。
「そんな顔を見せて。また、あの忌々しいエリシアのことを思い出してしまったのですね。……大丈夫ですよ、カリス様の味方はここにいますからね」
リディアが私の身体を胸に抱き寄せ、甘い言葉を囁く。その香りは花蜜のように濃く、頭の奥が痺れるようだった。
朝日がリディアの髪に落ちて、金色の糸が指の間からこぼれた。
そうして彼女の髪を手ぐしで解せば、彼女は優しく笑んだ。
……そうだ。
エリシアの顔を思い出すのが、良くないのだ。今は——そう、今はこの聖女だけを見ていればいい。そちらの方が大事だ。
そう繰り返すうちに、胸の奥のざらつきが少しずつ鈍くなっていく。それが酷く心地よかった。
そう語られた聖女の力は領民を救うには十分すぎるほど魅力的だった。
だからこそ、聖女を手に入れるのは私の最大の責務だと信じて疑わなかった。その力の甘美さに気づくのには、少し遅すぎたのかもしれない。
——その魅力に気付いたのはいつだったか。と、時折考える。そういう記憶の中にはいつもにこやかに笑うリディアがいて、そして、悲しそうなエリシアがいて。
ハッと目が覚めた。
寝起きの悪い朝だ。聖女と共に過ごすようになってから、こういう日々が続いている。
きっと、変わった環境に慣れていないんだ。そう自分に暗示しながら、外の景色に目をやった。
窓の外では風が庭木を揺らし、朝日が淡く街を照らしていた。
朝だと言うのに活気よく行き交う商人と馬車たちの姿も見える。あれはフォルセインよりも遠くから来た商隊だ。聖女との婚約に伴って交わされた、新しい領の繁栄の象徴。
けれど、不思議なことにその光景を眺めていても、心は少しも晴れなかった。
「あら、起きていらっしゃったのですね、カリス様!お茶をご用意したので、お飲みになってくださいね」
心のざわめきを探っていると、不意に軽やかな足音が近づいた。そして、部屋の扉からリディアの声が出てきて、彼女は一つのお茶を持って、寝起きの私を労わってくれるようだった。
お茶を飲み、その苦さに顔を歪める。毎朝これを飲まされているが、どうにもこの独特な苦味には慣れなかった。
そればかりか、エリシアの淹れた茶の味を懐かしんでしまう。彼女の茶は心のざわめきをすっと晴れさせるように優しく、いつも暖かな感情があった気がするのに、と妙に考えてしまう。
「そんな顔を見せて。また、あの忌々しいエリシアのことを思い出してしまったのですね。……大丈夫ですよ、カリス様の味方はここにいますからね」
リディアが私の身体を胸に抱き寄せ、甘い言葉を囁く。その香りは花蜜のように濃く、頭の奥が痺れるようだった。
朝日がリディアの髪に落ちて、金色の糸が指の間からこぼれた。
そうして彼女の髪を手ぐしで解せば、彼女は優しく笑んだ。
……そうだ。
エリシアの顔を思い出すのが、良くないのだ。今は——そう、今はこの聖女だけを見ていればいい。そちらの方が大事だ。
そう繰り返すうちに、胸の奥のざらつきが少しずつ鈍くなっていく。それが酷く心地よかった。
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