49 / 49
番外編【全8話】
Side:カリス②
しおりを挟む
整備された交易路を行く商人たち、聖女の治療を求めて聖堂に集う人々。
新しい領の繁栄は、そんな光景となって目に見える形で広がっていた。
そして、リディアはその中心で微笑んでいて、何もかもが順調に思えた。
けれど、そうした繁栄は領の内側を静かに壊していた。
急に増えた商人で街がごった返し、領民の絆とか隣人愛とか、そういう今まで積み上げてきた大事なモノが別のモノに塗り替えられていたのだ。
その変化は私の周りにも忍び寄っていて、邸宅の廊下を歩けば、昨日まで見慣れた使用人の顔が一人、また一人と消えている。
その空白を埋めるように代わりに来たのは隣国の者たちだった。
身近な者が次々と居なくなって、塗り替えられていくのがどうしてか、怖かった。そればかりか、自分さえ彼らに塗り替えられそうで信用することは出来なかった。
「大丈夫だろうか」
窓の外を見つめながら、不安を滲ませた自分の声は酷く小さく、そして、震えていた。今の情勢はエリシアがいたときと、あまりにも違った。これを繁栄というのか、崩落というのか。私には分からなかった。
「また、エリシアのことを考えているのですか。私だけを見ていてくださいよ」
リディアが私の身体を胸に抱き寄せ、耳元で甘く囁く。彼女の口から、エリシアの名前を聞くたびに、胸の奥がぐちゃぐちゃになって、自分の存在すら分からなくなった。
確か、自分からエリシアに婚約破棄を告げて、聖女を選んだはずだ。それなのに、自分が選んだ道の結末がこれなのか?本当に、これが国の幸せなのか?
「分からないんだ。自分の選択が正しかったのかも、これが繁栄なのかも、何もかも」
言葉にして、彼女に吐いても、胸の奥は微塵も片付かなかった。そればかりか、自分すら霞むようで酷く感情的になってしまう。
「大丈夫ですよ、カリス様。私を信じてさえいれば」
リディアが微笑む。
その瞳には不思議な静けさがあり、見つめ返すほどに、自分の意志が溶けていく気がした。
差し出された茶器から、薬草のような苦い香りが立ちのぼる。
それに唇を湿らせれば、舌に残るのは慣れない独特な苦味だった。
それでも、彼女の匂いだけは甘く脳を支配して、頭の奥がじんと痺れ、思考が霞んでいく。領民も、使用人も、誰も信用出来ない今、その甘美な匂いが酷く自分の居場所を認めさせていた。——これが幸せというものなのだろう。やっと、辿り着けた気がした。ああ、やっと……。
新しい領の繁栄は、そんな光景となって目に見える形で広がっていた。
そして、リディアはその中心で微笑んでいて、何もかもが順調に思えた。
けれど、そうした繁栄は領の内側を静かに壊していた。
急に増えた商人で街がごった返し、領民の絆とか隣人愛とか、そういう今まで積み上げてきた大事なモノが別のモノに塗り替えられていたのだ。
その変化は私の周りにも忍び寄っていて、邸宅の廊下を歩けば、昨日まで見慣れた使用人の顔が一人、また一人と消えている。
その空白を埋めるように代わりに来たのは隣国の者たちだった。
身近な者が次々と居なくなって、塗り替えられていくのがどうしてか、怖かった。そればかりか、自分さえ彼らに塗り替えられそうで信用することは出来なかった。
「大丈夫だろうか」
窓の外を見つめながら、不安を滲ませた自分の声は酷く小さく、そして、震えていた。今の情勢はエリシアがいたときと、あまりにも違った。これを繁栄というのか、崩落というのか。私には分からなかった。
「また、エリシアのことを考えているのですか。私だけを見ていてくださいよ」
リディアが私の身体を胸に抱き寄せ、耳元で甘く囁く。彼女の口から、エリシアの名前を聞くたびに、胸の奥がぐちゃぐちゃになって、自分の存在すら分からなくなった。
確か、自分からエリシアに婚約破棄を告げて、聖女を選んだはずだ。それなのに、自分が選んだ道の結末がこれなのか?本当に、これが国の幸せなのか?
「分からないんだ。自分の選択が正しかったのかも、これが繁栄なのかも、何もかも」
言葉にして、彼女に吐いても、胸の奥は微塵も片付かなかった。そればかりか、自分すら霞むようで酷く感情的になってしまう。
「大丈夫ですよ、カリス様。私を信じてさえいれば」
リディアが微笑む。
その瞳には不思議な静けさがあり、見つめ返すほどに、自分の意志が溶けていく気がした。
差し出された茶器から、薬草のような苦い香りが立ちのぼる。
それに唇を湿らせれば、舌に残るのは慣れない独特な苦味だった。
それでも、彼女の匂いだけは甘く脳を支配して、頭の奥がじんと痺れ、思考が霞んでいく。領民も、使用人も、誰も信用出来ない今、その甘美な匂いが酷く自分の居場所を認めさせていた。——これが幸せというものなのだろう。やっと、辿り着けた気がした。ああ、やっと……。
11
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
聖女の証を持っていますが、転生前に聖女は断っていたようなので、国を救う事は出来ません
花見 有
恋愛
聖女の証を持って産まれたマデリーナはレチュベーテ王国で日々聖女としての鍛練を積んできた。だがある日、自身が転生前に聖女になる事を断っていた事を思い出す。聖女になれないマデリーナは国を救う事が出来るのか!?
婚約破棄ですか? では契約通りに――王太子も聖女も教会も、まとめて破綻させていただきます
ふわふわ
恋愛
内容紹介
「婚約破棄だ。聖女こそが、真に国を救う存在だ」
王立舞踏会の夜。
王太子カイルベルトは、公衆の面前で公爵令嬢エレシアとの婚約を一方的に破棄した。
隣には涙を浮かべる義妹ミリア。
神託を告げる聖女ルチア。
それを正当化する教会の司祭。
――すべては“神の意志”だと言う。
けれど、エレシアは動じない。
「では契約通りに」
その一言から、静かな崩壊が始まった。
王家と教会を支えていた資金・技術・物流は、すべて公爵家の支援によるもの。
婚約破棄と同時に、それらは正当に停止される。
奇跡は止まり、港は滞り、帳簿の穴が暴かれ、聖女の“奇跡”の正体が白日の下に晒されていく。
やがて明らかになるのは――
王太子の国庫私的流用。
聖女の偽装。
司祭の横領。
そして義妹の虚偽証言。
「俺は悪くない!」
叫びは虚しく、地位も名誉も王籍さえも剥奪される王太子。
聖女は投獄、司祭は労役、義妹は修道院幽閉。
救済はない。
赦しもない。
あるのは、選択の結果だけ。
これは、感情で怒鳴らない令嬢が、
契約と事実だけで王家と教会を崩壊させる物語。
静かで冷徹。
そして、徹底的に最強のざまぁ。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる