醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした

きまま

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やがて、夜会のざわめきが消え、静まり返るまでほんの数秒しかかからなかった。

「婚約破棄、ですって……?」

「まさか、今この場で?」

「まあ……やはり噂は本当だったのね」

しかし、今度は醜い囁きが瞬く間に増幅し、悪意を孕んだ波となってリリエルを包囲した。
彼女は俯いたまま、何も言わなかった。こんな沢山の人が見ている状況で言い返すのはそれこそ醜い行いように思えたから。

「リリエル・アルヴァリア」

名を呼ばれ、ようやく顔を上げる。仮面越しに見えるレオンハルトの瞳は冷え切っていて、そこに、かつて一度たりとも向けられたことのない、明確な軽蔑が宿っていた。

「君には感謝しているよ。公爵家の後ろ盾としては、十分役に立ってくれた」

十分役に立った。
それはまるで人ではなく、道具のような言い草だった。

「だが、これ以上は無理だ。仮面を外すことさえできない女を王妃として国民に示すなど、悪夢以外の何ものでもない」

嘲笑がはっきりと混じる。

「君も自覚しているだろう?自分がどれほど醜い存在なのかを」

その言葉に貴族たちは口元を扇で隠しながら、楽しげに目を輝かせた。
それはまるで見世物を見るような、悪者が断罪される愉快な余興を見るような雰囲気だった。

「そして、私の隣に立つのに相応しいのはこちらの令嬢だ」

その雰囲気に押されたのか、レオンハルトは意気揚々と手を差し出すと、華やかなドレスを纏った令嬢が一歩前へと出た。艶やかな金髪に整った顔立ち。そして、宝石のように美しい瞳。

「美しい……」

「さすが第一王子殿下」

「これぞ王妃に相応しいお方だわ」

まだ、名前も知らない彼女に称賛の声が惜しみなく注がれる。
リリエルは比較され、切り捨てられる自分を、どこか遠くから眺めているような感覚にただ立ち尽くしていた。

そのときだった。

「殿下」

低く、しかし、よく通る声が響く。
ざわめきが再び静まり、今度は声の主に視線が集まった。
少し離れた場所に立つのは青年——第二王子のフリンズ・アルセイフ。
端正な顔立ちに、冷静沈着に観察するような瞳。華やかさでは兄に及ばないが、その存在感は不思議と人を惹きつけるものがある。

「この場での婚約破棄は王家の品位を著しく損なう行為です」

フリンズはレオンハルトに近づきながら、淡々と告げる。感情を抑えた声音だからこそ、その言葉はやけに重く響く。

「しかも理由が容姿とは。……公爵家ひいては国への侮辱に等しい」

一瞬、レオンハルトの表情が歪む。

「口を慎め、フリンズ。これは私の問題だ」

「いいえ。王家の名を冠した婚約である以上、他人事ではありません」

兄弟の視線が鋭く交差する。
だが、レオンハルトはすぐに薄笑いを浮かべた。

「……相変わらず理屈っぽいな。だが安心しろ、国はより良い選択をしただけだ」

そう彼は言い放ち、再びリリエルを見下ろす。

「リリエル・アルヴァリア。君は自由だ。——これ以上、王家に関わる必要はない」

それは解放ではなく、追放だった。
リリエルは深く一礼した。完璧な貴族令嬢としての所作で。これが最後なのだろう、と。

「……承知いたしました」

声は震えていなかった。
少なくとも、そう見えただろう。……そう見えていてほしかった。

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