コーラを飲んだらゲップが出る、焼き芋食べたらおならが出る、そんなことから始まる恋があってもいいじゃない?

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
5 / 12

5.引っ越しとクリスマス

しおりを挟む
 学園祭は思ってもみない展開で終わりを告げた。なんと言っても突然美咲が倒れてしまったことで僕は告白どころじゃなくなってしまったのだ。でもそれを必ずしも残念だとは思っていない。

 もしあの時告白したとして、夢で見たように振られてしまっていたらどうだっただろうか。次の日から同じように友達に戻れた自信は無い。結果的にはどこかでホッとしている自分が情けないが、それが今の僕の立ち位置だとも言える。

 美咲の具合は、翌日には良くなっていたそうだ。女子が数人連れだって売れ残りの大学芋を差し入れに行き様子を見てきたと言っていた。もちろん僕もメッセージで聞いて知ってはいた。それでも実際に顔をあわせてきたクラスメートの報告は、なにより僕を安堵させてくれたのだ。

 学園祭休みが明けた次の日、美咲が欠席したこともあって、わざわざ僕に本人の様子を教えてくれた女子に感謝である。だけどなんでわざわざ聞いてもいないのに教えに来てくれるんだろう。それだけを不思議だと感じつつも、二人が実行委員だったから学園祭が終わってからも気を使ってくれたのだろうと捉えていた。


 欠席の次の日から美咲は再び元気な姿を見せてくれるようになった。すっかり良くなったみたいでなによりだ。二度とこんなことが起きないよう、今まで以上に様子に気を付けなければいけないと思ったが、あまり観察しすぎるのも、下手するとストーカーまがいな気がするので程々にと自分を諫める。

 そんなこんなで戻ってきた日常、今も僕と美咲の関係は何も変わっていない。つまり告白していないから進展も破局もないと言うことだ。良くも悪くも現状維持ってことで日々は緩やかに過ぎていった。

 だがある日の昼休みのこと――

「えーそうなの? でも田舎って言ったって色々じゃない。どの辺の予定とか決まってるわけ?」

「うんー、一応パパの仕事の関係で信州か北陸になりそうかな。こないだも倒れて迷惑かけちゃったしさ。空気のいいところがいいんだってお医者さんでも言われちゃったの」

「でもすぐってことは無いんでしょ? 夏休みとか来年末とかそれくらい?」

「どうだろう、早ければ年明けてすぐとか? 新学期に間に合うと丁度いいかもって行ってたから春休みくらいになるかもしれないかな」

「そんなに早いの!? なんか随分と急展開なんだね、焦ってるとか?」

「考えすぎだよ、夏休みなら遊びに誘えるから来てもらってもいいしね。きっとリゾート地だから夏なら楽しく過ごせるんじゃないかなー」

 いつも隣の席に集まって話し込んでいる、美咲と仲の良い女子グループの会話が今日も漏れ聞こえてくる。実はこれがなかなか役に立つ情報源なのだ。

 しかし今日の会話はそんなのんきに聞いていられるものではなかった。流れを追う限りどう聞いても美咲が引っ越す話じゃないか!?

 体のことを考えて空気の良い所へ引っ越す、これは理にかなっている。もちろん美咲の体のことを考えると正しい選択だとも思う。だからと言って高校在学中に引っ越すなんて……

 さらにショックだったのは、美咲の態度からは未練とか寂しさを感じなかったことだ。引っ越した先の高校には隣の席に僕はいない。それをショックだと思ってもらえない程度だと言うことなんだろうか。

 それならそれで構わないけど、だったら僕にだってやらなきゃいけないことがある。きちんと告白してきちんと振られ、きっぱりと諦めることだ。そうじゃないと引っ越してしまった後に、あの時告白だけでもしておけばよかったなんて後悔する未来が待っているんじゃないかと考えてしまった。

 幸いもうすぐクリスマス、誘ってみて断られたら完全に脈無しだから告白するまでも無いだろう。しかし二人きりで出かけることができたなら―― 覚悟を決めて告白するんだ、絶対に!


 そしてやってきたクリスマス一週間前のこと、僕は意を決して美咲を誘うことにした。タイミングは帰る直前に声をかけてみよう。そう決めていたのでためらうことなく美咲へ予定を聞くことができた。

「ねえ小野さん、来週の二十四か二十五日の予定って空いてるかな? もし予定が無かったら一緒にイルミネーションを見に行かないか?」

「もしかしてクリスマスに誘ってくれてるってこと!? どちらも一応予定はあるんだけど…… イルミネーションってことは夜でしょ?」

「いやいや、夜はもう寒いし夕方には帰るくらいでと考えてるんだ。また体調崩すとまずいだろ? 僕は一日中暇してるから時間は合わせられるよ。だから小野さんの都合次第ってことでどう?」

「うーん、二十六日からなら大丈夫なんだけど…… クリスマスイルミネーションにはもう遅いよね? 二十四、五日はどうしても外せない予定があるの」

「もしかして別の誰かに誘われてるとか? それならそれではっきり言ってもらえれば大丈夫、僕だって変にしつこくはしたくないんだ」

 僕はおもわずもうすでにしつこいだろ! と自分に突っ込みを入れたくなってしまったが、彼女はそんなことは気にせず優しく笑いながらその答えを返した。

「あのね、詳しくは言えないんだけど、小浦君が多分思っているようなことは無いから安心して。でもホント誘ってくれたことは嬉しいよ」

 美咲の笑顔はなぜか寂しそうだった。断るにしたって彼氏やデート以外に言いづらいなにか特別な理由でもあるのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...