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10.告白とココア
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人生はなかなか予定通りにも想定通りにもいかない。そんな当たり前のことをこの数時間でいくつも体験したことがなんだか楽しくなっていた僕だった。もちろんこの楽しさは、今こうして二人で歩いていることの影響が大きい。
「送ってくって言われてもさ、もう暗くなってるから小野さんが帰る時がかえって心配になっちゃうよ。それとも自宅はこっち方面なの?」
「うん、ちょっとだけ遠回りだけど駅から近いから心配いらないよ? 商店街の通りから一本入ったとこで帰り道はずっと人が多い道なの。気を使ってくれてありがとね。小浦君っていっつも優しくて、かゆいとこに手が届くっているかさ、よく気が付いてくれるよね」
「まあ僕にも取り柄が一つくらいはあるもんさ。父親にはもっとシャキッとしろって言われたりするけどね。女系家族だから仕方ないって姉さんは言ってる」
「お姉さんがいるんだね、だから女の子の扱いがうまいのかもしれないなあ」美咲はちょっと意地悪そうに目を細めて僕を眺めてきた。とは言え、どちらかと言うと彼女のほうが僕の扱いにたけているような気がするのは気のせいだろうか。
「そんなことないよ! クラスでも女子とはほとんど喋ってないし、今でも小野さんと話すときは緊張しっぱなしなんだから。でも――」
「でも?」
気が付いたらいつもの公園まで来ていた。恐らくは年末年始までは付けたままだろうイルミネーションは、下手すると商店街の街灯についているものよりも簡素かもしれない。でも近所の子供たちは喜んで見に来ているし、そんな僕たちもすでにもう数回訪れているんだから似たようなものだ。
いくら簡素なイルミネーションしかない公園でも、今の僕には砂漠のオアシスのようにありがたさを感じた。なぜなら、いざ告白するぞと考えれば考えるほど動悸が高まっていくからだ。こんなの受験の面接でも感じなかったというのに。
「でも、と言うか、ちょっと寒くない? なにか温かいものでも飲もうよ」僕にとって今年最大どころか人生で最大の山場がやって来る。微妙にこじつけっぽい誘い方だった気もするけど、公園でひと息ついたら今度こそ――
「そうだね、私ココア飲みたくなっちゃった。小浦君はまさかコーラじゃないよね? 今日もずっとコーラ飲んでたからあの時ビックリしちゃった」
「あああれね、僕もまさかと思って焦ったよ。チビちゃんがしたとは思えないほど立派なげっぷだったもんなあ。ちなみに僕はコーラが好きなわけじゃなかったんだけど、名前のせいで勝手にコーラが出てくることが多くてさ。いつの間にか好きになっちゃってた」
「あー、そういうのあるあるかもね。身近なものって自分が好きだなものとか、せめて嫌いじゃないものだからそばにあるものだし。例えば隣の席とか……」僕は自動販売機から出て来たココアを握りしめたまま立ちすくんでしまった。
二人の目が合って何秒くらい経ったんだろう。凄く長く感じたけど一瞬だったような気もする。でもとにかくそんな風に時間の感覚がわからなくなったことは確かだ。
頭が真っ白になって何も考えられなくなった僕は、自分でも信じられないくらい無意識に近い状態になっていた。そのまま口が勝手にパクパクと動きだす。
「好きです、ずっと前から好きでした。僕と付き合って下さい」
何か言うつもりなんて全然なかったのに、自然と口から洩れてしまった告白の言葉。アレコレ飾り立てるようなセリフを考えて、ちゃんと言えるように練習した台詞は全部置き去りで、必要最小限の言葉だけが勝手に出てしまった。
言われた美咲のほうは落ち着いている。まったく僕ってやつはなんて情けないんだろう。でも彼女の返答で僕のそんな嘆きは全て吹っ飛んだのだ。
「はい、喜んで。実は私も気が付いたら好きになってたの、ふふっ、今日は人生で最高のクリスマスになっちゃった」そう言いながら美咲は僕の手を包むように握ってきた。
「えっ!? な、なに? 今のってもしかして…… えっと、僕も今までで一番のクリスマスだよ。これからもよろしくお願いします」緊張すると敬語になるのもあるあるだ。
「うん、こちらこそよろしくね」ココアの缶と美咲の手に挟まれた僕の手は、きっとそれ以上に熱を帯びているだろう。そんな喜びを感じていたところで――
「あっつー! アッツいアヅい!」
「あははっ、温かい缶ってさ、振るとすごく熱くなるんだよ? 小浦君ってば知らなかったでしょ。わーい、引っかかった引っかかったー」そう言いながら僕の手からココアを奪って走って行ってしまった。
「もう! 小さい子供みたいなことしてー!」もちろん僕は追いかける。と言っても数メーター先で美咲は足を止めてこちらへ向き直っていて、十数歩追いかけただけですぐに追いついた。
目の前の美咲の顔はうっすらと紅潮していて今のが照れ隠しの行動だと言うのがバレバレだ。おそらく自分では見えないけど僕も似たようなものだろう。なんと言っても顔が熱くて仕方がない。
それはそうだろう。だってどちらにも恋人ができたステキなクリスマスの真っただ中なんだから。
「送ってくって言われてもさ、もう暗くなってるから小野さんが帰る時がかえって心配になっちゃうよ。それとも自宅はこっち方面なの?」
「うん、ちょっとだけ遠回りだけど駅から近いから心配いらないよ? 商店街の通りから一本入ったとこで帰り道はずっと人が多い道なの。気を使ってくれてありがとね。小浦君っていっつも優しくて、かゆいとこに手が届くっているかさ、よく気が付いてくれるよね」
「まあ僕にも取り柄が一つくらいはあるもんさ。父親にはもっとシャキッとしろって言われたりするけどね。女系家族だから仕方ないって姉さんは言ってる」
「お姉さんがいるんだね、だから女の子の扱いがうまいのかもしれないなあ」美咲はちょっと意地悪そうに目を細めて僕を眺めてきた。とは言え、どちらかと言うと彼女のほうが僕の扱いにたけているような気がするのは気のせいだろうか。
「そんなことないよ! クラスでも女子とはほとんど喋ってないし、今でも小野さんと話すときは緊張しっぱなしなんだから。でも――」
「でも?」
気が付いたらいつもの公園まで来ていた。恐らくは年末年始までは付けたままだろうイルミネーションは、下手すると商店街の街灯についているものよりも簡素かもしれない。でも近所の子供たちは喜んで見に来ているし、そんな僕たちもすでにもう数回訪れているんだから似たようなものだ。
いくら簡素なイルミネーションしかない公園でも、今の僕には砂漠のオアシスのようにありがたさを感じた。なぜなら、いざ告白するぞと考えれば考えるほど動悸が高まっていくからだ。こんなの受験の面接でも感じなかったというのに。
「でも、と言うか、ちょっと寒くない? なにか温かいものでも飲もうよ」僕にとって今年最大どころか人生で最大の山場がやって来る。微妙にこじつけっぽい誘い方だった気もするけど、公園でひと息ついたら今度こそ――
「そうだね、私ココア飲みたくなっちゃった。小浦君はまさかコーラじゃないよね? 今日もずっとコーラ飲んでたからあの時ビックリしちゃった」
「あああれね、僕もまさかと思って焦ったよ。チビちゃんがしたとは思えないほど立派なげっぷだったもんなあ。ちなみに僕はコーラが好きなわけじゃなかったんだけど、名前のせいで勝手にコーラが出てくることが多くてさ。いつの間にか好きになっちゃってた」
「あー、そういうのあるあるかもね。身近なものって自分が好きだなものとか、せめて嫌いじゃないものだからそばにあるものだし。例えば隣の席とか……」僕は自動販売機から出て来たココアを握りしめたまま立ちすくんでしまった。
二人の目が合って何秒くらい経ったんだろう。凄く長く感じたけど一瞬だったような気もする。でもとにかくそんな風に時間の感覚がわからなくなったことは確かだ。
頭が真っ白になって何も考えられなくなった僕は、自分でも信じられないくらい無意識に近い状態になっていた。そのまま口が勝手にパクパクと動きだす。
「好きです、ずっと前から好きでした。僕と付き合って下さい」
何か言うつもりなんて全然なかったのに、自然と口から洩れてしまった告白の言葉。アレコレ飾り立てるようなセリフを考えて、ちゃんと言えるように練習した台詞は全部置き去りで、必要最小限の言葉だけが勝手に出てしまった。
言われた美咲のほうは落ち着いている。まったく僕ってやつはなんて情けないんだろう。でも彼女の返答で僕のそんな嘆きは全て吹っ飛んだのだ。
「はい、喜んで。実は私も気が付いたら好きになってたの、ふふっ、今日は人生で最高のクリスマスになっちゃった」そう言いながら美咲は僕の手を包むように握ってきた。
「えっ!? な、なに? 今のってもしかして…… えっと、僕も今までで一番のクリスマスだよ。これからもよろしくお願いします」緊張すると敬語になるのもあるあるだ。
「うん、こちらこそよろしくね」ココアの缶と美咲の手に挟まれた僕の手は、きっとそれ以上に熱を帯びているだろう。そんな喜びを感じていたところで――
「あっつー! アッツいアヅい!」
「あははっ、温かい缶ってさ、振るとすごく熱くなるんだよ? 小浦君ってば知らなかったでしょ。わーい、引っかかった引っかかったー」そう言いながら僕の手からココアを奪って走って行ってしまった。
「もう! 小さい子供みたいなことしてー!」もちろん僕は追いかける。と言っても数メーター先で美咲は足を止めてこちらへ向き直っていて、十数歩追いかけただけですぐに追いついた。
目の前の美咲の顔はうっすらと紅潮していて今のが照れ隠しの行動だと言うのがバレバレだ。おそらく自分では見えないけど僕も似たようなものだろう。なんと言っても顔が熱くて仕方がない。
それはそうだろう。だってどちらにも恋人ができたステキなクリスマスの真っただ中なんだから。
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