11 / 12
11.あだ名と軽トラック
しおりを挟む
見合っている二人は当然自分の顔を見ることができない。それでも僕は今、自分がどんな表情をしているのかわかっていた。恥ずかしくて真っ赤になった顔をしながらも、せめてもの抵抗のつもりでいらずらっ子の顔を真似しているのだ。
その効果があったのかどうかはわからないが、それとは別に、美咲に向かって小さい子供みたいと言ったことはあながち間違いでもないはず。それを証明するかのように美咲は、どうどうと開き直って言い返してきた。
「私はどうせ子供ですよーだ、でもいいの、そしたら『ゆうとおにいちゃん』に遊んでもらえるからね。そうでしょ? 悠斗君」
「えっ!? そうさ、もちろん、えっと…… 美咲ちゃん…… そうだ、嫌でなかったら僕も『みさきち』って呼んでもいい? あれカワイクて気になってたんだよね」
「えー、カワイイのかなあ。中学からの友達はそう呼ぶんだけど、男の子みたいでおかしくない?」
「全然そんなことないってば。めっちゃかわいいよ。あだ名つけられるってのはそれだけ仲いい子がいる証拠だし、名前を呼ばれる機会が多い人気者ってことでもあると思うんだよね」
「小浦君、悠斗君はあだ名で呼ばれたことないの? やっぱコーラ君になっちゃう?」美咲は痛いところを突いて来て、僕はそのまま頷いた。
「じゃあ悠斗君って呼ぶね。ちなみに私は小学生の頃『妹子』って呼ばれてたことあってちょっとヤだったなあ」ああ、これは小学生あるあるだ……
「確かにそれはちょっといやかもしれないなあ。小学生ってやつは全く…… そう言えば学校と言えば気になることがあって。誤解しないでほしいけど盗み聞きしたわけじゃないんだよ?」
「盗み聞きってなんのことだろう。きっと私のことなんだよね?」
「うん、実はさ、引っ越しのことなんだけど…… せっかく、その、付き合うことになったわけだし、僕は遠距離恋愛でも全然大丈夫さ。だから引っ越してからもずっと仲良くしてもらいたくて……」
「ええっ、悠斗君引っ越すの!? いつ? どこらへんに?」想像もしていなかった美咲の答えと驚きように、僕は驚き返すことができずぽかんと呆けてしまった。一体これはどういうことなんだろうか。
「いやいや、聞いちゃったって言ったよね? みさきちは引っ越しちゃうんでしょ? 信州かどっか、空気のいいところにさ?」
「ああー、あの話のこと! んとね、私って呼吸器系の持病があるから、連休とか夏休みには療養に行っているの。でもただ遊びに行くんじゃなんか良くないでしょ? だからパパのつてで養護施設があるところを選んでお手伝いさせてもらってたんだー」
「えっ!? まさかそれだけ? でもだったらなんで行き先を探してるの? 今までも療養には行ってたってことじゃない?」
「それは今まで行ってたとこは都心よりはマシだけど、それほど空気が綺麗な場所でもないからって。なかなか療養所と養護施設が近いところって言うのが見つからなくて、少し遠くまで探してくれててね。ようやくいくつか見つかったのよ」
「いろいろ大変なんだなあ、それなのにああやって働いてるわけじゃない? 偉すぎて眩しすぎて自分が情けなくなるよ。僕にも何かできそうなことってあるなら手伝いたいな。いきなりあれもこれもは出来ないだろうけど」
「そんな風に言ってくれたの悠斗君が初めてだよ! 大体は私の境遇聞いて引いちゃうし、そうじゃなかったら遠目から同情するのが当たり前だったもん。やっぱり優しいよね。子供たちも優しい人はちゃんと見分けつくんだから間違いないよ」
「優しい、かなあ。言われて嫌な気はしないけど、優しいだけの男はダメってよく女子が言ってるじゃない? なんだか複雑な気分だよ」これは僕の正直な気持ちだった。もしかしたら付き合ってる場合には当てはまらないのかもしれないけど、そんなこと僕がわかるはずもない。
「確かに良く聞くし自分で言っちゃうこともあるけどね。あれは優しい『だけ』ってことで、ようは取り柄がないってより、自分の好みじゃないって言いたいだけなんだよ。だって見た目が好みじゃないなんて断り方しにくいでしょ?」
「そういうもんなのかなぁ。ん? と言うことは、僕のことは――」そこまで言いかけたところでまたもや邪魔が入ってしまった。
『い~しや~き、いもー、や~きたて~えー、やーき、いも~、あっまくてやっきたってほっかほかー、いっしやっきーいもはーおいもっだよ~』
もちろん僕たちの会話は中断され、ゆっくり走っている軽トラックに気持ちを持ってかれてしまった。
その効果があったのかどうかはわからないが、それとは別に、美咲に向かって小さい子供みたいと言ったことはあながち間違いでもないはず。それを証明するかのように美咲は、どうどうと開き直って言い返してきた。
「私はどうせ子供ですよーだ、でもいいの、そしたら『ゆうとおにいちゃん』に遊んでもらえるからね。そうでしょ? 悠斗君」
「えっ!? そうさ、もちろん、えっと…… 美咲ちゃん…… そうだ、嫌でなかったら僕も『みさきち』って呼んでもいい? あれカワイクて気になってたんだよね」
「えー、カワイイのかなあ。中学からの友達はそう呼ぶんだけど、男の子みたいでおかしくない?」
「全然そんなことないってば。めっちゃかわいいよ。あだ名つけられるってのはそれだけ仲いい子がいる証拠だし、名前を呼ばれる機会が多い人気者ってことでもあると思うんだよね」
「小浦君、悠斗君はあだ名で呼ばれたことないの? やっぱコーラ君になっちゃう?」美咲は痛いところを突いて来て、僕はそのまま頷いた。
「じゃあ悠斗君って呼ぶね。ちなみに私は小学生の頃『妹子』って呼ばれてたことあってちょっとヤだったなあ」ああ、これは小学生あるあるだ……
「確かにそれはちょっといやかもしれないなあ。小学生ってやつは全く…… そう言えば学校と言えば気になることがあって。誤解しないでほしいけど盗み聞きしたわけじゃないんだよ?」
「盗み聞きってなんのことだろう。きっと私のことなんだよね?」
「うん、実はさ、引っ越しのことなんだけど…… せっかく、その、付き合うことになったわけだし、僕は遠距離恋愛でも全然大丈夫さ。だから引っ越してからもずっと仲良くしてもらいたくて……」
「ええっ、悠斗君引っ越すの!? いつ? どこらへんに?」想像もしていなかった美咲の答えと驚きように、僕は驚き返すことができずぽかんと呆けてしまった。一体これはどういうことなんだろうか。
「いやいや、聞いちゃったって言ったよね? みさきちは引っ越しちゃうんでしょ? 信州かどっか、空気のいいところにさ?」
「ああー、あの話のこと! んとね、私って呼吸器系の持病があるから、連休とか夏休みには療養に行っているの。でもただ遊びに行くんじゃなんか良くないでしょ? だからパパのつてで養護施設があるところを選んでお手伝いさせてもらってたんだー」
「えっ!? まさかそれだけ? でもだったらなんで行き先を探してるの? 今までも療養には行ってたってことじゃない?」
「それは今まで行ってたとこは都心よりはマシだけど、それほど空気が綺麗な場所でもないからって。なかなか療養所と養護施設が近いところって言うのが見つからなくて、少し遠くまで探してくれててね。ようやくいくつか見つかったのよ」
「いろいろ大変なんだなあ、それなのにああやって働いてるわけじゃない? 偉すぎて眩しすぎて自分が情けなくなるよ。僕にも何かできそうなことってあるなら手伝いたいな。いきなりあれもこれもは出来ないだろうけど」
「そんな風に言ってくれたの悠斗君が初めてだよ! 大体は私の境遇聞いて引いちゃうし、そうじゃなかったら遠目から同情するのが当たり前だったもん。やっぱり優しいよね。子供たちも優しい人はちゃんと見分けつくんだから間違いないよ」
「優しい、かなあ。言われて嫌な気はしないけど、優しいだけの男はダメってよく女子が言ってるじゃない? なんだか複雑な気分だよ」これは僕の正直な気持ちだった。もしかしたら付き合ってる場合には当てはまらないのかもしれないけど、そんなこと僕がわかるはずもない。
「確かに良く聞くし自分で言っちゃうこともあるけどね。あれは優しい『だけ』ってことで、ようは取り柄がないってより、自分の好みじゃないって言いたいだけなんだよ。だって見た目が好みじゃないなんて断り方しにくいでしょ?」
「そういうもんなのかなぁ。ん? と言うことは、僕のことは――」そこまで言いかけたところでまたもや邪魔が入ってしまった。
『い~しや~き、いもー、や~きたて~えー、やーき、いも~、あっまくてやっきたってほっかほかー、いっしやっきーいもはーおいもっだよ~』
もちろん僕たちの会話は中断され、ゆっくり走っている軽トラックに気持ちを持ってかれてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる