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第四章:聖女はどこへ向かうのか
39.聖女の選択
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ケイラムとの勝負からすでに数日がたっている。だけどあの日以来、私と彼はいまだ一言もしゃべっていなかった。
土俵を降りた後の泣いている姿を見て、なんとなく気まずくて避けていると言うのもあるし、執拗にからまれなくなった。だからあえて自分から近寄る必要もない。
それに正面から組み合って完全勝利するという目的は無事に果たすことができたわけで、私的にはお互いの勝負は完結したと言える。
だがこれで完全に終わったわけじゃない。そう考えているものが一人いた。もちろんそれは私ではなくケイラムである。
彼はすべてが終わったと考えていた私に対し、校舎裏まで一人で来いとこっそり呼び出してきたのだ。
そんなことをするのはなぜか。可能性は二つある。
一つは当然リベンジだ。相撲では勝てなかったけどケンカなら負けない、と挑んでくるかもしれない。こっちの場合は逃げ回って回避してしまえばいいし、もしそうなら軽蔑するだけだ。
問題はもう一つの可能性だった場合である。すでに噂になっているようにケイラムは私に好意を抱いているらしい。
それが本当なら呼び出して二人きりになってどうするのかと言うと、これはもう告白しかないだろう。
どちらにせよ私に取れる対処方法は逃げることになりそうだ、などと考えながら校舎裏へと向かうと、ケイラムは先に来て待っていた。
「一体何の話? もう勝負はついたんだからおかしなことは言わないでよね?」
「うん、それはそうなんだけど、どうしても言いたいことがあって……」
なんだかいつになく大人し目でもじもじしているではないか。これはつまり予想していた二つのうち恥ずかしいほうのヤツに違いない。
はっきり言って私は色恋の話が好きだ。でもそれは他人の話を聞くのが好きなだけで誰かと付き合ったこともないし、告白なんてしようと思ったこともない。
数度くらいは告白されたことがあるけど、それもまずは友達からなんて定番のセリフですべてはぐらかしてきた。それくらい恋愛に対して奥手なのである。
この雰囲気だけですでに動悸が激しいし、きっと顔も赤くなっていることだろう。なんだか耳まで熱くなってきた。それくらい自分に降りかかる色恋ざたは苦手なのだ。
だけど勇気を振り絞って告白してくれるのだから、断るにしたってちゃんと正面から聞くのが礼儀だろう。まさに今ここは土俵の上と同じか、それ以上に緊迫した場になっているのだ。
「実はこれを渡したくてさ。ちょっと不恰好だけど僕が作ったんだ」
「これって――」
ケイラムは緊張した様子で両手を差し出した。それからゆっくり手を広げて握っていたものをこちらへと見せる。
その手に握られていたひとつは水滴の形に削ってあるきれいな石、そして反対の手に握られていたのは四角い金色のプレートに、やはり水滴のレリーフをほどこしたものだった。
確かに研磨や打痕はでこぼこしてていびつだし、あまりきれいに磨かれているわけでもないので輝きにムラもある。
それでもこの歳で手作りのプレゼントを用意するなんてすごいことだ。紐を通せるように穴をあけてあると言うことは、おそらくペンダントヘッドなのだろう。
それにしても手作りのペンダントを贈ろうとは驚いた。確かにつたない出来ではあるけどきっと苦労してここまで仕上げたに違いない。その二つを見ていると心がジーンと熱くなってくる。
だが微妙な疑問を感じるのも確かだ。なぜ二つ用意しているのか。不可解な点はいくつかあるが、まずはプレゼントに対する真意を確認するところから始めてみよう。
「ケイラム? アンタさ、こんなものを女子に贈るってどういう意味なのか分かってるわけ? それならそうと言葉もきちんと添えなさいよ」
「いや、うん、そうだけど、まあ、なんというか―― 先に受け取ってくれるのか受け取らないのか聞かせてくれよ……」
「はあ? それは順番が逆じゃない? 受け取ってからなにか言われたら、ウチが断りにくくなるじゃないの。それともそれが作戦なわけ?」
「断る? いや、そういうことじゃないんだけど…… わかったよ、ちゃんといえばいいんだろ? えっと――」
どうにも煮え切らない態度になんだかイライラしてくる。好きなら好きともっと男らしくズバッと直球勝負で来いって言いたくて、言葉が出るのを押さえるだけで精いっぱいである。
「じゃあ言うぞ? ―――― アキナって本当は聖女なんだろ? いや、別に神力を使われて負けたとは思ってないんだ。そうじゃないんだけど、僕のここ見てみてくれないか?」
ケイラムはそういって自分の耳辺りへ手を伸ばし、髪の毛をかきあげて私へと見せた。すると真っ青な髪の毛の下に一部だけ黒っぽく変色した部分が見える。
「まさか!? これがウチのせいだって言うの? なっ、なんの証拠があってそんなこと言うのよ。難癖もいいとこだわ!」
「そうだよな、そういわれると思ったからこれを用意してきたんだよ。だからどっちかを受け取ってくれ。こっちは川で拾った石で作ったやつ、こっちは外国の金貨をつぶして作ったやつなんだ」
なるほど、神力を持つ者なら金属製の装飾品を嫌うはずだから試そうと言うわけだろう。だがあいにく私には通用しない話だ。
「そんな高そうなもの理由なく貰っちゃっていいの? 後から返せとか条件出してきたりとかしないでしょうね?」
「…… しないさ。でももし金のペンダントを選ぶならもうひとつ聞いてほしいことがある。もちろん条件って意味じゃなく言わせてほしいってことだよ?」
私は何だかケイラムの匂わせが面白そうだと感じ、裏をかくように金のペンダントヘッドへ手をかけた。
土俵を降りた後の泣いている姿を見て、なんとなく気まずくて避けていると言うのもあるし、執拗にからまれなくなった。だからあえて自分から近寄る必要もない。
それに正面から組み合って完全勝利するという目的は無事に果たすことができたわけで、私的にはお互いの勝負は完結したと言える。
だがこれで完全に終わったわけじゃない。そう考えているものが一人いた。もちろんそれは私ではなくケイラムである。
彼はすべてが終わったと考えていた私に対し、校舎裏まで一人で来いとこっそり呼び出してきたのだ。
そんなことをするのはなぜか。可能性は二つある。
一つは当然リベンジだ。相撲では勝てなかったけどケンカなら負けない、と挑んでくるかもしれない。こっちの場合は逃げ回って回避してしまえばいいし、もしそうなら軽蔑するだけだ。
問題はもう一つの可能性だった場合である。すでに噂になっているようにケイラムは私に好意を抱いているらしい。
それが本当なら呼び出して二人きりになってどうするのかと言うと、これはもう告白しかないだろう。
どちらにせよ私に取れる対処方法は逃げることになりそうだ、などと考えながら校舎裏へと向かうと、ケイラムは先に来て待っていた。
「一体何の話? もう勝負はついたんだからおかしなことは言わないでよね?」
「うん、それはそうなんだけど、どうしても言いたいことがあって……」
なんだかいつになく大人し目でもじもじしているではないか。これはつまり予想していた二つのうち恥ずかしいほうのヤツに違いない。
はっきり言って私は色恋の話が好きだ。でもそれは他人の話を聞くのが好きなだけで誰かと付き合ったこともないし、告白なんてしようと思ったこともない。
数度くらいは告白されたことがあるけど、それもまずは友達からなんて定番のセリフですべてはぐらかしてきた。それくらい恋愛に対して奥手なのである。
この雰囲気だけですでに動悸が激しいし、きっと顔も赤くなっていることだろう。なんだか耳まで熱くなってきた。それくらい自分に降りかかる色恋ざたは苦手なのだ。
だけど勇気を振り絞って告白してくれるのだから、断るにしたってちゃんと正面から聞くのが礼儀だろう。まさに今ここは土俵の上と同じか、それ以上に緊迫した場になっているのだ。
「実はこれを渡したくてさ。ちょっと不恰好だけど僕が作ったんだ」
「これって――」
ケイラムは緊張した様子で両手を差し出した。それからゆっくり手を広げて握っていたものをこちらへと見せる。
その手に握られていたひとつは水滴の形に削ってあるきれいな石、そして反対の手に握られていたのは四角い金色のプレートに、やはり水滴のレリーフをほどこしたものだった。
確かに研磨や打痕はでこぼこしてていびつだし、あまりきれいに磨かれているわけでもないので輝きにムラもある。
それでもこの歳で手作りのプレゼントを用意するなんてすごいことだ。紐を通せるように穴をあけてあると言うことは、おそらくペンダントヘッドなのだろう。
それにしても手作りのペンダントを贈ろうとは驚いた。確かにつたない出来ではあるけどきっと苦労してここまで仕上げたに違いない。その二つを見ていると心がジーンと熱くなってくる。
だが微妙な疑問を感じるのも確かだ。なぜ二つ用意しているのか。不可解な点はいくつかあるが、まずはプレゼントに対する真意を確認するところから始めてみよう。
「ケイラム? アンタさ、こんなものを女子に贈るってどういう意味なのか分かってるわけ? それならそうと言葉もきちんと添えなさいよ」
「いや、うん、そうだけど、まあ、なんというか―― 先に受け取ってくれるのか受け取らないのか聞かせてくれよ……」
「はあ? それは順番が逆じゃない? 受け取ってからなにか言われたら、ウチが断りにくくなるじゃないの。それともそれが作戦なわけ?」
「断る? いや、そういうことじゃないんだけど…… わかったよ、ちゃんといえばいいんだろ? えっと――」
どうにも煮え切らない態度になんだかイライラしてくる。好きなら好きともっと男らしくズバッと直球勝負で来いって言いたくて、言葉が出るのを押さえるだけで精いっぱいである。
「じゃあ言うぞ? ―――― アキナって本当は聖女なんだろ? いや、別に神力を使われて負けたとは思ってないんだ。そうじゃないんだけど、僕のここ見てみてくれないか?」
ケイラムはそういって自分の耳辺りへ手を伸ばし、髪の毛をかきあげて私へと見せた。すると真っ青な髪の毛の下に一部だけ黒っぽく変色した部分が見える。
「まさか!? これがウチのせいだって言うの? なっ、なんの証拠があってそんなこと言うのよ。難癖もいいとこだわ!」
「そうだよな、そういわれると思ったからこれを用意してきたんだよ。だからどっちかを受け取ってくれ。こっちは川で拾った石で作ったやつ、こっちは外国の金貨をつぶして作ったやつなんだ」
なるほど、神力を持つ者なら金属製の装飾品を嫌うはずだから試そうと言うわけだろう。だがあいにく私には通用しない話だ。
「そんな高そうなもの理由なく貰っちゃっていいの? 後から返せとか条件出してきたりとかしないでしょうね?」
「…… しないさ。でももし金のペンダントを選ぶならもうひとつ聞いてほしいことがある。もちろん条件って意味じゃなく言わせてほしいってことだよ?」
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