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第三章:激しくも長き決戦
16.迎撃隊の結成
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魔界門を破壊する、これが当面の目標となった王国騎士団の士気は日を追うごとに高まっていった。なんといっても受け身だった方針が突然変わったのだからそれも当然だろう。
そのきっかけとなったのがシンデレラであることは間違いない。結局王子は一時的に婚姻についての手続きを停止し、彼女を中心に据えた迎撃隊を結成した。
騎士団から選抜された迎撃隊員たちは、シンデレラが王子救出に出向いた際に同行していた部隊から選ばれた精鋭ぞろいである。もちろん彼女の勇猛果敢な姿を目の当たりにしていたため文句ひとつ出ていない。
魔界門が実体化するであろう時期までおよそ半年との見立てが宮廷魔導士から出されたため、迎撃隊にはその時に備えての訓練が始まっていた。
とはいえ相手が未知の化け物であるため日々の訓練でできることは限られる。あくまで騎士としての熟練度を高めるのみだ。それでも皆の士気は高く、訓練は順調に進められていた。
それからおよそ五か月、同様にシンデレラも今は戦いに備えて王子との将来については頭の片隅へ追いやっていた、はずなのだが――
「調子はどうだいシンデレラ。キミが提案してくれた防空壕は間もなく七つ目が完成するよ。夕方視察へ行くのだが一緒に行かないかい?」
「殿下、お誘い感謝いたしますが、本日はご遠慮させていただけますか? 宮廷魔導士様へお願いしていた歩数計がようやく完成しましたので、今はその試用で頭がいっぱいなのです」
「なるほど、それがあればキミの強さが数値化できると言うわけだな? よくそんなものを思いつくものだ、感心するよ」
「はい、ですのできちんと動作するのかを早めに把握しておきたいのです。もちろん防空壕の出来も気になるのですが、そちらは本職の方々が頑張ってくれていますから信頼しております。なるべく多くの王国民を悪魔から遠ざけたいですからね」
王子はこうしてことあるごとにやってきてシンデレラを誘ってくる。そのたびにあれこれと理由をつけ断ってみたり、時にはほかの騎士を連れて行ったりと二人きりにならないようにしていた。
しかし当然そんなことは王子もわかっているため、強引に連れて行くことはない。その気になれば寝室へ押しかければいいわけなのだがそれもしないのだ。つまりこれは息抜きを兼ねた一種のゲームと言えよう。
だが決戦の時は刻一刻と近づいている。王子も自分が率いる騎士団の練度を高めるべく日々訓練しているのは同じこと。普通に考えれば相当に疲労がたまっていてもおかしくない。
そんな風に未知の脅威へ備えを進める中、幸いと言えたのは魔物の発生が減っていったことだ。宮廷魔導士の観測によると、どうやら魔界門の実体化が近づくと不浄の大気がその場にとどまりやすくなるとの見立てである。
その結果、周囲の獣たちへの悪影響は減っていると言うわけだ。しかしこれは朗報ではなくその時がかなり近いことが想定され、逆に緊張感は高まっていった。
さらに数日が経ったころ、とうとう王子が倒れてしまった。もちろん大きな要因は疲労なのだが、王族には不浄の大気が濃くなると、それを検知する能力が備わっているのだと、シンデレラは今さらながら聞かされたのだ。
「なぜそんな重要なことを黙っていたのですか!? 殿下の身に何かあっては防衛部隊は機能しないのですよ? そもそも最終決戦の場に殿下は参加できないと言うことではありませんか。それがわかっていながらなぜずっと無理を続けていたのです!? わたしに命じてくださればすべての部隊を見ることだってできたかもしれません」
「そうすると倒れていたのはキミだったかもしれないだろ? どうせ僕は最後に役立たずになるんだ。何かできるのは今のうちだけなんだよ。しかしキミは絶対に欠かせない。役割的に当然だが、それに加えて僕にとっても大切な人だからね」
「ですが…… わたしはまだ結果を出していません。ですので今はただの一兵卒にしか過ぎないのですよ? 全てが終わったとき、わたしは殿下の元を去るかもしれません。そんな女ひとりにかまけていては王国を守っていかれませんよ?」
「ふふ、随分と先のことまで心配をしてくれているようだが、それはつまり最後は僕を選び共に歩んでくれるつもりがあると言うことの裏返しではないかな? 少なくとも僕はそう考えているよ」
「そうやってお戯れを。とにかく今はゆっくりとお休みください。騎士団は団長と相談してお任せしておきますからご心配にはおよびません。文献によれば悪魔にも種類がいるのですから現在の振り分け方できっとうまくいくでしょう」
「そうだな。でもやはり未知のものとの対峙を考えると不安がぬぐえないね。最終的にはキミに任せきりになってしまうのだろうかと申し訳なくなってしまう。何とも情けない話だけれどね」
やけに弱気になっている王子の姿にシンデレラの中の灰賀は心を痛めていた。というよりその強い責任感と使命感に心を打たれたことを認めたくなくて、胸の痛みを別のことへ置き換えようとしていたのだ。
だが寝込んでいる王子と二人きりになっているせいなのか、シンデレラの人格が優勢になっていることまでは気づいていない。そのため彼は次に取った自分の行動を抑え込むことに間に合わなかった。
ベッドに向かって腰かけていたシンデレラは、突然王子の手を握り締めるとさっと顔を近づける。そしてそのまま覆いかぶさるように王子の唇へ自分の唇を重ねてしまったのだ。
「んんっ!? 突然どうしたんだい!? キミはまだどうするか決めていないとたった今言ったばかりではないか。それなのにこんなことをして、気の迷いだとは思うけど期待してしまうからあまり刺激しないでおくれよ?」
「少しは元気が出ましたか? 弱気な殿下のままだったら確実にお別れしてしまいますよ? すべてが終わったときに元気でいてくれないと、わたしの決断も伝えられませんから気をしっかり持って早く元気になってくださいませ」
そう言い残すと戸惑う王子を置き去りにして、シンデレラはピンク色に染まった頬を隠すようにしながら足早に病室を出て行った。
だが戸惑っていたのは王子だけではない。なにせ、一見すると二人きりだったこの場にはもう一人の男がいたのだから。
『バッカヤロウ、オレはなんで王子にキスするのを止めなかったんだよ! 男とあんなに顔を近づけたのは初めてで恥ずかしいにもほどがあるぜ……』
そのきっかけとなったのがシンデレラであることは間違いない。結局王子は一時的に婚姻についての手続きを停止し、彼女を中心に据えた迎撃隊を結成した。
騎士団から選抜された迎撃隊員たちは、シンデレラが王子救出に出向いた際に同行していた部隊から選ばれた精鋭ぞろいである。もちろん彼女の勇猛果敢な姿を目の当たりにしていたため文句ひとつ出ていない。
魔界門が実体化するであろう時期までおよそ半年との見立てが宮廷魔導士から出されたため、迎撃隊にはその時に備えての訓練が始まっていた。
とはいえ相手が未知の化け物であるため日々の訓練でできることは限られる。あくまで騎士としての熟練度を高めるのみだ。それでも皆の士気は高く、訓練は順調に進められていた。
それからおよそ五か月、同様にシンデレラも今は戦いに備えて王子との将来については頭の片隅へ追いやっていた、はずなのだが――
「調子はどうだいシンデレラ。キミが提案してくれた防空壕は間もなく七つ目が完成するよ。夕方視察へ行くのだが一緒に行かないかい?」
「殿下、お誘い感謝いたしますが、本日はご遠慮させていただけますか? 宮廷魔導士様へお願いしていた歩数計がようやく完成しましたので、今はその試用で頭がいっぱいなのです」
「なるほど、それがあればキミの強さが数値化できると言うわけだな? よくそんなものを思いつくものだ、感心するよ」
「はい、ですのできちんと動作するのかを早めに把握しておきたいのです。もちろん防空壕の出来も気になるのですが、そちらは本職の方々が頑張ってくれていますから信頼しております。なるべく多くの王国民を悪魔から遠ざけたいですからね」
王子はこうしてことあるごとにやってきてシンデレラを誘ってくる。そのたびにあれこれと理由をつけ断ってみたり、時にはほかの騎士を連れて行ったりと二人きりにならないようにしていた。
しかし当然そんなことは王子もわかっているため、強引に連れて行くことはない。その気になれば寝室へ押しかければいいわけなのだがそれもしないのだ。つまりこれは息抜きを兼ねた一種のゲームと言えよう。
だが決戦の時は刻一刻と近づいている。王子も自分が率いる騎士団の練度を高めるべく日々訓練しているのは同じこと。普通に考えれば相当に疲労がたまっていてもおかしくない。
そんな風に未知の脅威へ備えを進める中、幸いと言えたのは魔物の発生が減っていったことだ。宮廷魔導士の観測によると、どうやら魔界門の実体化が近づくと不浄の大気がその場にとどまりやすくなるとの見立てである。
その結果、周囲の獣たちへの悪影響は減っていると言うわけだ。しかしこれは朗報ではなくその時がかなり近いことが想定され、逆に緊張感は高まっていった。
さらに数日が経ったころ、とうとう王子が倒れてしまった。もちろん大きな要因は疲労なのだが、王族には不浄の大気が濃くなると、それを検知する能力が備わっているのだと、シンデレラは今さらながら聞かされたのだ。
「なぜそんな重要なことを黙っていたのですか!? 殿下の身に何かあっては防衛部隊は機能しないのですよ? そもそも最終決戦の場に殿下は参加できないと言うことではありませんか。それがわかっていながらなぜずっと無理を続けていたのです!? わたしに命じてくださればすべての部隊を見ることだってできたかもしれません」
「そうすると倒れていたのはキミだったかもしれないだろ? どうせ僕は最後に役立たずになるんだ。何かできるのは今のうちだけなんだよ。しかしキミは絶対に欠かせない。役割的に当然だが、それに加えて僕にとっても大切な人だからね」
「ですが…… わたしはまだ結果を出していません。ですので今はただの一兵卒にしか過ぎないのですよ? 全てが終わったとき、わたしは殿下の元を去るかもしれません。そんな女ひとりにかまけていては王国を守っていかれませんよ?」
「ふふ、随分と先のことまで心配をしてくれているようだが、それはつまり最後は僕を選び共に歩んでくれるつもりがあると言うことの裏返しではないかな? 少なくとも僕はそう考えているよ」
「そうやってお戯れを。とにかく今はゆっくりとお休みください。騎士団は団長と相談してお任せしておきますからご心配にはおよびません。文献によれば悪魔にも種類がいるのですから現在の振り分け方できっとうまくいくでしょう」
「そうだな。でもやはり未知のものとの対峙を考えると不安がぬぐえないね。最終的にはキミに任せきりになってしまうのだろうかと申し訳なくなってしまう。何とも情けない話だけれどね」
やけに弱気になっている王子の姿にシンデレラの中の灰賀は心を痛めていた。というよりその強い責任感と使命感に心を打たれたことを認めたくなくて、胸の痛みを別のことへ置き換えようとしていたのだ。
だが寝込んでいる王子と二人きりになっているせいなのか、シンデレラの人格が優勢になっていることまでは気づいていない。そのため彼は次に取った自分の行動を抑え込むことに間に合わなかった。
ベッドに向かって腰かけていたシンデレラは、突然王子の手を握り締めるとさっと顔を近づける。そしてそのまま覆いかぶさるように王子の唇へ自分の唇を重ねてしまったのだ。
「んんっ!? 突然どうしたんだい!? キミはまだどうするか決めていないとたった今言ったばかりではないか。それなのにこんなことをして、気の迷いだとは思うけど期待してしまうからあまり刺激しないでおくれよ?」
「少しは元気が出ましたか? 弱気な殿下のままだったら確実にお別れしてしまいますよ? すべてが終わったときに元気でいてくれないと、わたしの決断も伝えられませんから気をしっかり持って早く元気になってくださいませ」
そう言い残すと戸惑う王子を置き去りにして、シンデレラはピンク色に染まった頬を隠すようにしながら足早に病室を出て行った。
だが戸惑っていたのは王子だけではない。なにせ、一見すると二人きりだったこの場にはもう一人の男がいたのだから。
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