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二人混ざり合う空間
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ようやく冷めてきた紅茶を飲みながら、僕と咲は体を寄せ合って座ったまま一言も言葉を交わさずにいた。
なぜだろう、あれこれと話す必要なんてなく、こうやって一緒にいるだけで十分だと感じる。会話がないとつまらないとか息苦しいとかそういう気もしない。
それでも僕はこの密着した状況に緊張しながら横目で咲を見た。すると咲もこちらを見て笑みを返してくれる。
なんて幸せな気分なんだろう。この安堵感はなにかに例えることも難しく、今まで感じたことのない心地よさだ。
微笑んだ咲が僕の目をずっと見つめ、僕はそれに吸い寄せられるように顔を近づけてしまう。心の中ではそんなことをしてはいけないと思いつつもお互いは、いや、僕は咲へ顔を寄せていく。
二人の距離がとうとうゼロになり、僕は咲の唇へ自分の唇を重ねた。おでこ同士が触れてしまうので顔を少しだけ傾けると、より密着しやすくなった唇は柔らかくてほんのりと紅茶の香りがした。
不慣れな僕が強く押し付けすぎて苦しくなったのか、咲は軽く口を開き息を吸いなおした。僕のすぐそばに存在していた空気を咲が吸って、その口から吐き出された吐息を僕がまた吸い込む。
「ん…… ん…… はぁ……」
息遣いが音に変わり、言葉にならない声が咲の口元から漏れ出てくる。その吐息が僕の顔に当たり、その温かさに頭が真っ白になりそうだ。
咲が僕の背中に両の手を回し引き寄せてきた。細い指が僕の背部へ食い込み、まるで蔦が這ってきたように絡みつく。
二人はお互いの体温を共有するように強く触れ合い、そして完全に密着した。咲の柔らかなふくらみが僕の胸板へ押し付けられる。
その感触に僕は戸惑った。もしかして…… この間学校の階段で同じような状況になった時とはだいぶ異なる初めての感触は、僕には刺激が強すぎてもうどうしていいかわからない。
目を閉じて唇と唇を重ね、数十秒に一度息継ぎをしていた僕は薄目を開けて咲を見た。と同時に細く目を開けた咲が顔を少しだけ離して口を開いた。
「女の子が苦手だという割には自分からキスしてくるなんて積極的なのね」
そう言われた瞬間、僕は頭から火を吹き出しそうなくらい恥ずかしくなり咲の呪縛を解こうとした。しかし咲の両手は僕をつかんで離さない。
いや、力では僕が勝るはずなのになぜか逃れることができないのだ。
「うふふ、からかってごめんなさい、でもキミからこうしてくれるのとても嬉しいわ。
でも少しにしておかないと明日の練習は散々になってしまうわよ」
「それって…… 精気がなくなるってこと?」
体に力が入らなくなっていた僕は、まるで小さな子供のように頼りなさげで情けない声で咲へ訊ねた。
「そうね、でもこれくらいならまだ大丈夫よ。
さあ、力を抜いて私に任せてちょうだい」
僕はもはや抵抗する気力もなく、言われるまま咲の両手が絡みついたままで背中をソファへつけた。
「怖がらないでいいのよ、キミが私のものであるように、私もキミのものでもあるの。
恐れず焦らず疑わず、私のすることを受け入れ身を任せてくれるだけでいいわ」
僕は幼い子供が言い聞かされるように咲の言葉を聞き、コクリと頷き返した。
咲は再び、今度は咲からだ、顔を寄せそのやわらかな唇を僕の唇へ重ねた。
軽く、いや、強くかもしれないが、もう何が何だかよくわからない。とにかく咲の唇が僕の唇とくっついたり離れたりしながら長い時間が過ぎているように感じる。
僕はたまらず口を大きめに開いて、咲と同じように言葉にならない声を吐息とともに吐き出し、そして咲の目の前の大気もろとも呼吸をすることで酸素を補充した。
二人の唇の間には二人にしかわからない空間が形成されているような感覚で、それはきっと二人だけのものだ。息を吸いなおすために離れた唇同士の間には時折唾液の糸が伸びる。
そして再び唇を寄せ合うときにはその糸がお互いの唇の間で混ざり合い、本来の持ち主がどちらだったのかなんて関係ない些細なことだと思わせる。
しばらく繰り返した後、咲は僕が窒息してしまうかと思うほど長い間唇をつけたままで僕の背中に回った手を強く絞り上げてきた。
不思議と痛さは感じない。むしろ幸福感さえ感じる僕は頭がおかしくなっているのかもしれない。
背中に回された咲の両手と前面に押し付けられる二つの柔らかなふくらみに挟まれたままで口をふさがれ続けた僕は、しばらくどこかを漂っているような感覚の後意識を失った。
どれくらいこうしていたのかわからないが、ポケットの中が震え、なにやら音が鳴っていることに気が付いて僕は目を覚ました。
意識を取り戻した場所は咲のひざまくらの上だった。だらしなく力の抜けた僕の手に重ねられた咲の手、そして反対の手は僕の頭を優しくなでていた。
「目を覚ましたかしら? 電話が鳴っているようよ」
「う、うん、この音はメッセージかな……」
僕は半分意識を取り戻しながらポケットのスマホを取り出した。しかし体はまだ咲に預けたままである。
表示されたメッセージは思った通り父さんからだった。会社を出てこれから帰ってくると書いてありどこかへ寄ってくる様子はなさそうだ。
「またお父様かしら? 仲が良いのね」
「そうだね、父さんは父親であると同時に野球仲間でもあるからね」
「どうする? もう少しこうしててもいいし、起きてもいいわよ。
今日は体が動かないほどではないはずだわ」
そういえば初めてこうした時にはもっと激しいキスをされて、その後しばらく動けなかったっけ。
「なんで僕寝ちゃったんだろう。
なんというかその…… ごめん」
「なんで謝るのよ、とても気持ちよかったわよ。
キミはどうだったかしら?」
そう言って優しく笑いかけてきた。学校では一日中無表情で何にも興味を示さないように見える咲が、他人には絶対に見せない笑顔だ。
その笑顔を独占している僕は嬉しくて幸せな気持ちになると同時に、彼女ができたって言いふらしたくなるヤツの気持ちがわかるような気がした。
「う、うん、あの、その、気持ちよかった……」
「ふふ、照れ屋さんね、そんなところがキミの可愛いところだわ」
可愛いと言われて喜ぶ男子は多くない。でも不思議と咲に言われると嬉しいのは恋している相手だからなのかもしれない。
起き上がろうかと体に力を入れた僕に、咲が手を貸すように首の下に手をまわしてくれた。そして顔を上げる途中で軽くキスをする。
「今紅茶を入れてくるわね」
そう言って立ち上がり、食後に飲んでいた紅茶のカップを両手に持ち部屋から出ていった。僕はその後ろ姿を見ながら自分の胸をさすり、先ほどの感触を思い出していた。
なぜだろう、あれこれと話す必要なんてなく、こうやって一緒にいるだけで十分だと感じる。会話がないとつまらないとか息苦しいとかそういう気もしない。
それでも僕はこの密着した状況に緊張しながら横目で咲を見た。すると咲もこちらを見て笑みを返してくれる。
なんて幸せな気分なんだろう。この安堵感はなにかに例えることも難しく、今まで感じたことのない心地よさだ。
微笑んだ咲が僕の目をずっと見つめ、僕はそれに吸い寄せられるように顔を近づけてしまう。心の中ではそんなことをしてはいけないと思いつつもお互いは、いや、僕は咲へ顔を寄せていく。
二人の距離がとうとうゼロになり、僕は咲の唇へ自分の唇を重ねた。おでこ同士が触れてしまうので顔を少しだけ傾けると、より密着しやすくなった唇は柔らかくてほんのりと紅茶の香りがした。
不慣れな僕が強く押し付けすぎて苦しくなったのか、咲は軽く口を開き息を吸いなおした。僕のすぐそばに存在していた空気を咲が吸って、その口から吐き出された吐息を僕がまた吸い込む。
「ん…… ん…… はぁ……」
息遣いが音に変わり、言葉にならない声が咲の口元から漏れ出てくる。その吐息が僕の顔に当たり、その温かさに頭が真っ白になりそうだ。
咲が僕の背中に両の手を回し引き寄せてきた。細い指が僕の背部へ食い込み、まるで蔦が這ってきたように絡みつく。
二人はお互いの体温を共有するように強く触れ合い、そして完全に密着した。咲の柔らかなふくらみが僕の胸板へ押し付けられる。
その感触に僕は戸惑った。もしかして…… この間学校の階段で同じような状況になった時とはだいぶ異なる初めての感触は、僕には刺激が強すぎてもうどうしていいかわからない。
目を閉じて唇と唇を重ね、数十秒に一度息継ぎをしていた僕は薄目を開けて咲を見た。と同時に細く目を開けた咲が顔を少しだけ離して口を開いた。
「女の子が苦手だという割には自分からキスしてくるなんて積極的なのね」
そう言われた瞬間、僕は頭から火を吹き出しそうなくらい恥ずかしくなり咲の呪縛を解こうとした。しかし咲の両手は僕をつかんで離さない。
いや、力では僕が勝るはずなのになぜか逃れることができないのだ。
「うふふ、からかってごめんなさい、でもキミからこうしてくれるのとても嬉しいわ。
でも少しにしておかないと明日の練習は散々になってしまうわよ」
「それって…… 精気がなくなるってこと?」
体に力が入らなくなっていた僕は、まるで小さな子供のように頼りなさげで情けない声で咲へ訊ねた。
「そうね、でもこれくらいならまだ大丈夫よ。
さあ、力を抜いて私に任せてちょうだい」
僕はもはや抵抗する気力もなく、言われるまま咲の両手が絡みついたままで背中をソファへつけた。
「怖がらないでいいのよ、キミが私のものであるように、私もキミのものでもあるの。
恐れず焦らず疑わず、私のすることを受け入れ身を任せてくれるだけでいいわ」
僕は幼い子供が言い聞かされるように咲の言葉を聞き、コクリと頷き返した。
咲は再び、今度は咲からだ、顔を寄せそのやわらかな唇を僕の唇へ重ねた。
軽く、いや、強くかもしれないが、もう何が何だかよくわからない。とにかく咲の唇が僕の唇とくっついたり離れたりしながら長い時間が過ぎているように感じる。
僕はたまらず口を大きめに開いて、咲と同じように言葉にならない声を吐息とともに吐き出し、そして咲の目の前の大気もろとも呼吸をすることで酸素を補充した。
二人の唇の間には二人にしかわからない空間が形成されているような感覚で、それはきっと二人だけのものだ。息を吸いなおすために離れた唇同士の間には時折唾液の糸が伸びる。
そして再び唇を寄せ合うときにはその糸がお互いの唇の間で混ざり合い、本来の持ち主がどちらだったのかなんて関係ない些細なことだと思わせる。
しばらく繰り返した後、咲は僕が窒息してしまうかと思うほど長い間唇をつけたままで僕の背中に回った手を強く絞り上げてきた。
不思議と痛さは感じない。むしろ幸福感さえ感じる僕は頭がおかしくなっているのかもしれない。
背中に回された咲の両手と前面に押し付けられる二つの柔らかなふくらみに挟まれたままで口をふさがれ続けた僕は、しばらくどこかを漂っているような感覚の後意識を失った。
どれくらいこうしていたのかわからないが、ポケットの中が震え、なにやら音が鳴っていることに気が付いて僕は目を覚ました。
意識を取り戻した場所は咲のひざまくらの上だった。だらしなく力の抜けた僕の手に重ねられた咲の手、そして反対の手は僕の頭を優しくなでていた。
「目を覚ましたかしら? 電話が鳴っているようよ」
「う、うん、この音はメッセージかな……」
僕は半分意識を取り戻しながらポケットのスマホを取り出した。しかし体はまだ咲に預けたままである。
表示されたメッセージは思った通り父さんからだった。会社を出てこれから帰ってくると書いてありどこかへ寄ってくる様子はなさそうだ。
「またお父様かしら? 仲が良いのね」
「そうだね、父さんは父親であると同時に野球仲間でもあるからね」
「どうする? もう少しこうしててもいいし、起きてもいいわよ。
今日は体が動かないほどではないはずだわ」
そういえば初めてこうした時にはもっと激しいキスをされて、その後しばらく動けなかったっけ。
「なんで僕寝ちゃったんだろう。
なんというかその…… ごめん」
「なんで謝るのよ、とても気持ちよかったわよ。
キミはどうだったかしら?」
そう言って優しく笑いかけてきた。学校では一日中無表情で何にも興味を示さないように見える咲が、他人には絶対に見せない笑顔だ。
その笑顔を独占している僕は嬉しくて幸せな気持ちになると同時に、彼女ができたって言いふらしたくなるヤツの気持ちがわかるような気がした。
「う、うん、あの、その、気持ちよかった……」
「ふふ、照れ屋さんね、そんなところがキミの可愛いところだわ」
可愛いと言われて喜ぶ男子は多くない。でも不思議と咲に言われると嬉しいのは恋している相手だからなのかもしれない。
起き上がろうかと体に力を入れた僕に、咲が手を貸すように首の下に手をまわしてくれた。そして顔を上げる途中で軽くキスをする。
「今紅茶を入れてくるわね」
そう言って立ち上がり、食後に飲んでいた紅茶のカップを両手に持ち部屋から出ていった。僕はその後ろ姿を見ながら自分の胸をさすり、先ほどの感触を思い出していた。
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