僕が一目惚れした美少女転校生はもしかしてサキュバスじゃないのか!?

釈 余白(しやく)

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 今日の土曜は何も予定の無いはずだったが、早朝から木戸に呼び出されて学校まで来ていた。どうやら何か話があるらしく、メールや電話ではできないと言われてしぶしぶ出向いていた。休みの日とは言え誰かしらいるので、制服で来るしかないのが面倒だ。

 呼びだしておいて後からやってきた木戸は、なぜか練習用のユニフォームを着ていた。

「なんで自分だけユニフォームなんだよ。
 動くならそう言ってくれたらよかったのに。
 僕なんてランニングの後、わざわざジャージから制服に着替えてきたんだぞ?」

「別に制服でいいさ。
 俺はちょっと早朝野球の助っ人に行ってただけだからな。
 商店街のチームに頼まれると断れなくてつれえわ」

「付き合いも大切だもんな。
 それより今日はどうしたんだ?」

 今までこんなことはめったになかったので気にはなる。木戸が僕に言えない、言いづらいことも存在するとわかった今ではなおさらだ。

「まあ大したことじゃないんだけどよ。
 チョクから頼まれごとされたからお前にも手伝って欲しくてな
 野球部と関係なくは無いから頼むぜ」

「まあ予定は無かったからいいけどさ。
 でも先輩をあだ名で呼び捨ては良くないと思うわ」

 チョクと言うのは陸上部主将の直江先輩のことだ。木戸と同じ中学だったからか、学年差を気にしていないらしい。でもそれは木戸の図々しい性格のせいだと思っている。

 グラウンドへ出るとすでに陸上部が練習をしていた。土曜の早朝だと言うのにご苦労なことだ。あっちはあっちでインハイもあるし、夏はやっぱり勝負どころではあるのだろう。

「チョク! 来てやったぞ!」

 他の部員が沢山いる中でも構わず先輩を呼び付ける木戸を止めるすべは僕になく、申し訳程度に会釈をして共犯ではないことをアピールしておいた。

「よおシュウヘイ、来てもらって悪かったな。
 そっちはエース君だな、陸上部キャプテンの直江だ、よろしく!」

 指先を、これでもかと言わんばかりにピンと伸ばして垂直に掲げてニッコリと爽やかに笑うと、まるでマンガのように歯が光ってるようにも見えてくる。わかりやすく言うと、典型的なイケメンスポーツマンスタイルである。ただし顔はそれほど良くはない。

「ども、今日はなにがあるのかわからないで来てしまいました。
 さっき木戸に呼び出されたばかりなので……」

「いやいや、昨晩突然シュウヘイへ連絡したのは俺だからさ、気にしないでくれよ。
 実はうちの部に野球経験者がいてさ、どうやら野球やりたいみたいなんだよね」

「えっ? マジですか?
 随分珍しい人がいるんですね。
 今からだと夏の大会には出られないし、終わってもレギュラーなれるかわかりませんよ?」

「そこら辺のことはわからん。
 だからシュウヘイに来てもらったってわけだしな」

 大会に出るにはたしか入部後の日数規定みたいなのがあったはず。そうでないと直前に引き抜きしたり、助っ人的な参加を認めることになってしまうからだ。それに今のナナコー野球部でレギュラーを取ることの難しさ、それに練習の厳しさを考えるとこれから入部するなんてことおススメはできない。

「んじゃまあ俺が声かけに行ってくるわ。
 カズは部室行っててくれ」

「お、おう、了解」

 とりあえず何が起きてるのかよくわからないまま、僕は部室へ向かった。するとそこには丸山とチビベンも来ていた。

「あれ? 二人も木戸に呼び出されたのか?
 それともバレー部の用かなにかか?」

「よくわかんねえけど面白い事するから来いって言われてよ。
 バレー部はまだ関係ねえっての」

「まだってなんだよ。
 今日はバレー部の練習試合があるから、元々応援に行く予定だったんだよ。
 その前に時間あるなら来いって言われてここにいるってわけ。」

 どうやら二人とも詳しいことは知らない様子だ。そこへ木戸がやってきた。陸上部のユニフォームを着た誰かを連れている。

「三人とも、待たせたな!」

「げえっ、三田じゃねえか!
 お前陸上部に入ってたのかよ」

 見知った顔が確認できた途端、丸山がきつい物言いで話しかけた。僕も因縁がある相手だから、顔を合わせてみると正直微妙な気分ではある。

「コイツよ、陸上部の練習には参加してるけど入部はしてないんだとよ。
 そんで野球に未練たらたらで、たまにシャドーやってるとこチョクに知られてたらしい。
 だから野球部で何とかしろって言われたわけさ」

「おい三田、本当か?
 まだ野球部に籍があって戻りたいって言うのか?」

 僕は大歓迎とは言えないが、戻ってくるなら戦力になることは理解できる。チビベンはあんまり興味がなさそうというか、心ここにあらずと言ったところか。

「そんなことでよ、俺から提案だ。
 三田は、カズに負けたときに暴言吐いたことを謝れ。
 それが嫌ならここでもう一度勝負しろ」

 三田はうつむいて黙ったままだ。

「聞いてんのか、コノヤロー!
 またガキの頃の事繰り返すのかよ!」

「木戸と三田って付き合い長いのか?
 全然知らなかったな」

「少年野球で一緒だったんだよ。
 でも五年生だったかの時、試合で使ってもらえないのが続いて、監督へ突っかかって辞めた。
 我慢強さに欠けるんだよ、こいつはさ」

「短気な三田も悪いと思うけど、木戸、お前の言い方もどうかと思うぞ?
 僕は別に謝ってほしいなんて思ってないし、勝負したって僕が勝つさ」

「まあそうだろうな。
 だからそれを受け入れたうえで野球部へ戻って来いって言ってんだよ。
 野球やりたいわけじゃないなら、あんな遠いのにバッセンなんて行かねえだろ」

「なんだ、知ってたのか……
 お前もまだ通ってるのか?」

「いいや、最近は忙しいから遠出はしてないな。
 でもあそこの親父さんはうちの店の常連だから、お前が来てるって教えてくれたのさ。
 以前よく一緒に来てた坊主は来てるのにお前来てないな、なんて言われちゃってよ」

「それで勝負ってなにさせるつもりだ?
 誰と誰? 俺の出番あるのか?」

 黙っていることに我慢できなくなったのか、丸山がソワソワしながら話しだした。こいつも僕と三田の軋轢には興味無さそうだ。

「人数これだけだから野球盤もできないな。
 だからカズ、チビベンチームと、三田、マルマンチームの一騎打ちってとこか。
 お互い二人へ投げて抑えるか打たれるか、ただそんだけ
 勝負がつくまで続けて勝った方がエースな」

「おい、マジかよ。
 いくらカズでもマルマン相手だぞ?
 幽霊部員だからって、山下に簡単に打たれるとでも思ってるのかよ」

「自信あるならこの勝負受けて見ろよ。
 もちろんカズはやるよな? 本気で」

「ああ、受けてやろうじゃないか。
 三田に僕との力の差を見せてやるよ」

 はっきり言って投手としての実力だけなら負ける要素は無い。不安があるとすれば丸山を抑えられるかどうかだけだ。

 部室からネットやボールを出してきて、念のためユニフォームの下だけ履いてTシャツ姿でマウンドへ向かった。投球練習前に木戸がコソコソ言ってきてサインを決めたが、僕はその内容にいまいち納得がいかない。それでもキャッチャーとしての力量を信じられるので最後は頷いた。

 投球練習の後、見たがバッターボックスへ入る。木戸のサインはアウトハイ、振りかぶって全力投球すると、三田はピクリとも動かない。

 いったんボックスを外して二球目は真ん中高めに同じ球だ。これも同じように見送った。全く見えてなさそうなので、やはりブランクの影響は大きいのだろう。バッティングセンターのマシンと生きた球は全然違うものだし致し方ないだろう。

 だが手を抜くつもりは無く、要求通りのインローへツーシームを投げ込むと、流石にバットは動いたが振り切ることができず三振となった。

「どうだ? 今のカズのボールヤベエだろ?
 俺もマルマンもここ最近はきれいに打ててねえんだよ。
 これがナナコーのエースさまだぜ?」

「お、おう、確かにスゴイな……
 でも次は打ってやるさ」

 三田と木戸が何やらしゃべった後、丸山が楽しそうにやってきた。

「カズ! 本気な、本気!」

 僕はマウンド上で両手の輪を作りOKだと伝えた。

 木戸からの最初のサインはインハイのツーシーム!? そんな危険球でいいのか? さっき言ってたのはこう言うことについてだった。現代野球だと高めは伸びる球、低めは沈む球がセオリーではあるが、それ以外も積極的に使っていくつもりらしい。特に低めのカットは使い手が多いので目が慣れている選手も大勢いる。確かに一理あるが、丸山相手に初球からそれで平気なのかやや不安だ。

 思い切って投げ込んだ初球は見送りでストライク、しかし丸山の動きではタイミングが合っている。木戸も当然それはわかった上での二球目は同じコースのストレート、今度は振ってきたが、真後ろへ飛んでファールだ。

 三球目はほぼ同じところ、少し中へ入れたフォーシームで例の球、二球目同様タイミングは合っていたしやや甘めに入ったように見えたのか、丸山は強振した。しかし結果はバットをカスってからミットへおさまり三球三振となった。

「くっはああ! えぐい、えぐすぎる。
 インハイ攻めで上下に揺らすとかきたねえわー」

「これがこの夏の新戦法よ。
 カズの上へ曲がる球はマジヤベエからな」

 まあ実際にボールが浮き上がるわけはないんだけど、スピン量だけを考えたあのボールは打者視点だと浮いて見えるらしい。もちろん江夏さんに教えてもらった僕の切り札で今やコントロールも万全と言える状態まで仕上がっていた。

 そして次は僕たちの攻撃に移る。最初は僕がボックスへ入ったが、カーブスライダーカーブストレートと緩急にやられて内野ゴロ、チビベンもフォークをひっかけて内野ゴロであっけなく凡退した。

 二順目の三田は初球のアウトローカーブをピッチャーゴロ、振ってくると思わなくて驚いたが、ストレートは打てないと踏んで変化球狙い、だと読んだ木戸の勝ちだ。

 丸山には二打席目もストレート勝負だった。四隅を使って視線を上下左右に揺さぶり、見送ったインローを自分でストライク判定して勝手にベンチへ戻った。確かにストライクだっただろうし、丸山のそういう清さは尊敬に値する。

 こんな風にしてお互い四十球程度投げても勝負はつかず、バレー部もやってきたので切り上げることになった。丸山は本気で悔しがっているが、チビベンはソワソワしていて、今すぐにでも体育館へ行きたそうにしている。

「三田、どうだった?
 野球はまだ楽しかったか?」

「あ、ああ、やっぱりいいな。
 木戸、カズ、今までわがまま言っていてすまなかった。
 また一緒にやらせてもらえるか?」

「嫌なこった、一緒にやるなんてゴメンだよ。
 投手同士なんだから仲良くじゃなくてライバルだろ?」

「ちえっ素直じゃねえなあ。
 ま、二人とも夏の大会へ向けて頑張っていこうぜ!」

 なんだかんだ言っても経験のある投手、しかも左腕は戦力的に大きい補充だ。甲子園を目指す事を考えたら去年の諍いにこだわる理由もない。さらに言えばどうやって戻らせるかも難しかったかもしれないのに、木戸もウマイ落としどころを見つけたもんだ。

 何より驚いたのは、あれほど怒り心頭で取りつく島もなしと言った態度だった木戸が、積極的に三田を野球部へ戻そうとしたことだ。まあ時間が経ったことで気が収まっていたのかもしれない。逆に僕の方がいつの間にか意固地になって三田のことを認められない気持ちになっていた。

 ともかく、休日の思いがけない名勝負に、僕は大満足したのだった。
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