僕が一目惚れした美少女転校生はもしかしてサキュバスじゃないのか!?

釈 余白(しやく)

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 練習試合の反省点を盛り込んだ練習が始まってから二週間ほどが過ぎた。追加の特別メニューがあるやつらは、毎日練習が終わると立ち上がれないくらいヘロヘロで、このまま予選までしごき続けるのか不安になるくらいだ。

 かといって、休んでいいと言っても喰らいついてくるのだからそのガッツは認めている。それにみんな週明けには元気を取り戻しているし、練習試合ももう組まないことにして土日は休みにしていることで、しっかり休めているのだろう。まあ疲れすぎて遊びにも行けてなさそうだとは思う。

 そんなきつい毎日だけどタフなやつはいるモノで、女子と初めていい感じの関係を持つことが出来た丸山は舞い上がるように遊びまわっている。とは言っても相手もバレー部員で練習があるので、部活帰りにファストフードへ行っているくらいらしい。

 同じバレー部の彼女がいるチビベンはぐったりしているのだが、二人で寄り道しようなんて未だ誘えない丸山に、いつもひきずられるようにして付き合わされている。このままチビベンは疲労と心労で倒れてしまうんじゃないか心配だ。

 意外と言うか、僕から見るといいコンビの倉片と由布は、たまに練習が終わってから近隣高校への偵察に出かけているようだ。まあ時間が遅くなるとよろしくないので、ボディーガードとしてついていけと倉片へ言ったのは木戸なんだが。おかげで由布が僕に対してしつこく付きまとうことは減ってきていてありがたい。

 ただしその反動で、昼休みにミーティング名目で集まることになってしまった。おかげで快適なフリースペースランチではなく、汗臭い部室飯の日々だ。

 僕はといえば相変わらずほぼ毎日を咲と過ごしている。もう父さんが冷やかすこともほぼ無くなっていて、すっかり家族の一員みたいなものである。というより、母さんにとっては息子の僕より、咲を本当の娘のようにかわいがってる節がある。今度一緒に義姉さんのところへ出向いてプールへ行く約束をしているのを聞いてしまったし……

 夏と言えば海やプールにキャンプ等が定番の遊びだけど、野球をやっている高校生にとってはそんな夏は三年で引退するまでやってこない。別にそれが嫌だとか羨ましいとかじゃないけど、咲とプールでもいいし、どこか遠出出来たら楽しいだろうな、とは考える。

『バカ! そうだよ、だから夏には兵庫県へ連れて行くんだ!』

 僕は浮ついたことを考えてばかりなのを反省するように、心の中で自分自身へゲキを飛ばした。でも浮ついてしまうのも仕方ない。あの日以来、暑くなってきたこともあって咲はよくワンピースを着てうちへやってくるのだが、今までのような黒一色はめっきり少なくなって、なんだか女の子らしい? 花柄とかチェックとか、そんなのを着ていることが多くなった。

 どうやら小町の影響もあるみたいだけど、咲本人もまんざらじゃないらしく、そしてそれがまた飛び切りかわいくて、僕はもう毎日が幸せの絶頂みたいに舞い上がっているのだ。

「こんばんは、あら? 玄関先でトレーニング?
 いつもご苦労様ね」

「うわ、急に開けないでよ、ビックリした。
 もうそんな時間かあ、あんまりお腹空いてないからもっと早い時間だと思ってた。
 塞いじゃってごめんね、さ、上がってよ」

「何してたの?
 帰りにつまみ食いしすぎたからダイエットでもしてたのかな?」

 咲がまたどきりとすることを言う。実は部活が終わりに近づいたころ、園子の親父さんぁら店中全部持って来たんじゃないかってくらい沢山パンの差し入れがあったのだ。どうやら進路相談で担任と面談するために来ていたらしい。そのついでに野球部へ寄って行ったのだ。

「いやあ、ダイエットじゃないけどさ、差し入れがあってつまみ食いしてきたのは当たってる。
 ちょっとビックリだよ、なんでわかったのさ」

「そんなの簡単、お腹空いてないなんて珍しいこと言うから適当に言っただけよ。
 でも毎日相当食べているのに全然太らないわよね。
 羨ましいけど、どこか体が悪いんじゃないかって心配になるわね」

「運動量が違うからね。
 いくら食べても動いてる間は太りはしないよ。
 咲だって別に太ってるなんてことないし、ダイエットなんて無縁じゃないの?」

 僕はそう言いながら咲のお腹の辺りを見てしまい、さらにそこから視線を上げてしまった。すると、口を膨らませた咲が人差し指で僕のおでこをチョンと突っつき文句を言った。

「こら、女の子にそんなこと言わないの。
 体型や体重の話題は男子が考えてる以上にセンシティブなんだから。
 そんなことじゃモテないよ?」

「いやいや、モテなくていいから!
 咲がいれば別に他の子なんて…………」

 玄関先でする話じゃないなと思って思わず声が小さくなってしまった。これじゃ照れてると白状しているのと同じだ。しかもその会話は台所の主にしっかりと聞かれていた。

「カズ~ 咲ちゃん帰って来たんでしょ?
 いつまでもいちゃついてないでこっち手伝いに来てちょうだいよ」

「はーい、ただいまカオリ、今行くわね。
 今日は甘いものが食べたくてプリン作ってて遅くなってしまったの」

 手提げ袋の正体はプリンか! これは夕飯後が楽しみだ。父さんは遅くなるらしいからまたごっさん亭で食べてくるだろう。ここ最近は週三くらいで寄っているらしい。木戸の学費が必要になる日が来るのかどうかはわからないが、商売がうまくいく助力になるのなら喜ばしいことだ。

 ただ、いつか僕と咲のことを話題に出してしまうんじゃないか、それが心配ではある。

「この土日も練習も試合もなし?
 あんたたちそれで平気なの?
 父さんたちの頃は休みなんて一日もなかったらしいから不安になるわね」

「昔と違って現代はスポーツ医学とかトレーニングが進んでるからね。
 きちんと体を休ませる時間を取った方が効率的で胡椒率が下がるとかあるんだよ。
 水泳だってそうじゃないの?」

「私は街の教室くらいしかコーチ経験ないし、協会とはケンカ別れだからねえ。
 大舞台に声がかかる事なんて一度もなかったわよ」

「カオリは水泳続けたくなかったの?
 ヨシヒコのお守りで辞めちゃうなんて思い切ったことしたわよね。
 私だったら、カズ君のためになにか自分の大切なこと辞められるかしら」

「ちょっと! 何言いだすんだよ!
 そういうこと言われたら恥ずかしいじゃん」

「カズったら、もう親公認なんだから気にしなくていいのに。
 でも正直言うと、水泳はあんまり好きじゃなかったのかもね。
 毎日タイムと勝負して仲間とも勝負して、勝ったら嬉しいけど、周りからは妬まられたり。
 その点チームスポーツはいいわよね、青春って感じするもの」

「スポーツに無縁な私にはわからない感覚だわ。
 打ちこめることを見つけられるのは幸せだと言うことはわかるけどね、カズ君」

「なんでそこでまた僕!?
 僕が咲の趣味ってこと!?」

 そう言った瞬間、これがもしかしてはたから見るとノロケってやつなのか? と思い、たまにチビベンを冷やかしていることを後悔していた。

「だって応援していたら旅行へ連れて行ってくれるんでしょ?
 関西だっけ?」

「あら、カズったら随分キザなこと言ったのね。
 まるでお父さんたちみたい」

「えっマジで!?
 江夏さんもそんなこと言ったの?」

「だって早苗さんは同級生だしね。
 私は部外者だったけど、インハイで知り合って付き合い初めのころかな。
 インハイへ誰かの応援に来てた父さんが、無関係のプールで声かけてきた時は警備員呼んだのよ?
 怪しい部外者が入ってきてます、ってね」

「その辺りの話はホント聞きたくない……
 聞いてるだけで落ち着かなくなるよ……」

「まああの人はかなり変わってたからね。
 その後も手癖悪くて大変だったなあ。
 一緒に相手の家まで謝りに行ったこともあるんだから」

「やめて、もうやめてくれええ
 僕にもその血が流れてると思うと恐くなるよ」

「あら? 情熱的で素敵じゃない?
 私は構わないわよ?」

 咲までなんてことを…… どう考えてもこれ、は僕を困らせて楽しんでる女子二人って絵面だ。まさか義姉さんのところでもこんな風にするつもりじゃないだろうな。兄さんはやや父さん似なところがあるから心配だ。

 ちょっと意地悪そうな笑みを浮かべる咲と、異常ににやにやしている母さんを見ていると、僕を冷やかしているときの父さんとあまり変わらないように感じ、背筋が凍る思いがするのだった。
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