限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第九章 師走(十二月)

217.十二月十日 昼過ぎ 大厄災

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 誰が決めているのか知らないが、八早月にとっては大妖おおあやかしが大量発生するような大厄災と同じようなものである。いくら午前中しか無いとは言え四日間にも渡って続くのだからたまったものではない。

 問題の英語と数学は初日と最終日に分かれており気が抜けず、途中には赤点級ではないが十分苦手な理科や技術家庭、保健も並んでいる。幸い人名を覚えることは得意なので、音楽も美術も作者名を答える問いで点数を稼げる教科だった。

 教室は朝のホームルームが終わり、テスト時間を待つ生徒たちが最後の追い込みで騒ついている。しかし八早月は落ち着いているのか諦めたのか、教室最後部に貼りだされているテスト予定表を睨みつけているだけだ。

「八早月ちゃん、顔怖いよ? 一限は現国だから余裕でしょ? 問題は……」

「そう、問題は二時間目の英語ね、一限から時間を分けてくれないかしら。
 とは言っても出来る箇所が限られているから毎回時間は余るのだけれどね。
 それにしても美術の試験と言うのはおかしくないかしら、客観性や感受性はないがしろなのよ?」

「そんな大げさだよ、描かれた時代とかその時の社会情勢とかもあったでしょ。
 アタシは比較的点数取れてる教科だから無くなると困っちゃうけどなー」

「なるほど、確かにその考え方は有りね、平均点が夢路さんくらいあればねえ。
 中間試験では全ての教科で十位前後ですものね、貼りだしを見て驚いたわ。
 私は上位が二教科あったけれど赤点も二教科で大恥ものよ……」

「ほらほら二人ともそろそろ先生来るよ、一つ一つクリアして行こうね!」

「井口さんはいいこと言うわね、流石クラス委員長、成績も優秀で素晴らしいわ。
 きっと男子にも人気なのでしょうね」

「ええっ!? 櫛田さんってそういうこと言うキャラだったの!? 意外すぎてビックリだよ」

「ああ、真帆ちゃんごめんね、今少女漫画に凝っててね、気にしないでいいから。
 さ、八早月ちゃん席に行こうか―― ってまた夢路が睨んでるよ……
 だから席が遠いのはアタシのせいじゃないって言ってんのにさあ」

 クラス委員長の井口真帆がいつまでも席につかない八早月と美晴に声をかけたが、ただ諭すのではなく波風が立たないよう言葉を選んで声をかけるところが流石優等生である。美晴たちと同じ金井小出身なのだが、学業優秀で性格も容姿も良く誰からも好かれ信頼も厚い完璧女子らしい。

 もう一人の優等生、夢路は抜かりなくテスト前最後の復習を済ませ準備万全と言った様子だが、美晴に抜け駆けされていると勝手にひがむことが有り、今も心中穏やかではないようだ。だがきっとテストの結果にはそう言ったいつもの取り組み態度が反映されるものなのだろう。


「それで? 二人とも英語はどうだったわけ? まさか今の段階で赤点確定なんて言わないよね?」

「もちろんだよ、今回はバッチリできたはずだから安心してってば。
 厳しかったけどやっぱり綾ちゃんに教わっておいて良かったよ。」

「美晴さんの言う通りだわ、私も半分くらいは埋めたのよ? 単語も全部ね。
 それに言われていたように選択問題は最初に解いたし一つくらいマルよ!」

「解いたって言うか全部適当に選んだだけでしょ? でもやらないよりはマシか。
 でも感触が良かったなら赤点回避は問題なさそうってことでいいかな?」

「そんなことより、私はあの時綾乃さんが流した涙の美しさが気になるのよ。
 憑き物が取れたような笑顔が本当に美しくてもらい泣きしそうだったもの」

「そうやって人を出汁にして現実逃避しようとしてるんでしょ、ダメダメ。
 それはそれ、これはこれって八早月ちゃんが良く言ってることじゃないの。
 どうなの? また赤点だったら追試まで毎日小テスト作ってやらせるからね!」

 綾乃に攻め立てられて言い返せずにいる八早月と美晴だが、それでも今までの中では最高の出来だと自信を持っていた。かと言って赤点ではないと言いきれないところが、マル再マーク入りテストを積み重ねてきた二人に重くのしかかる苦手意識なのだろう。

「でも無事に初日が終わって良かったわ、これで木曜まではひと息つけるもの。
 今日は早めに寝ないと睡眠時間が足りていないわ」

「昨日もお役目があったの? 最近八早月ちゃんの当番の日に多い気がするね。
 年末だからとか関係あるのかな」

「そうかもしれないわ、これは私たちにも無関係ではないことだけれどね。
 この時期は大きな試験がある時期でしょう? それで進路の悩みも増えるわ。
 そうすると結果次第で短絡的な行動をする人も増えるのよね。
 一人一人は何気なく行ったことだとしても、集まると大きな力になるわけ」

「そう言えばその辺にお守りを棄てちゃう人がいるらしいもんねえ。
 アタシはそんなこと怖くてできないけどなあ」

「ハルって占いとか信じちゃう方だしね、でも霊感なんて存在しないじゃない。
 私はもう全然気にしなくなったよ、雑誌の占師が本物のわけないってね」

「それはある、八早月ちゃんでも出来ないのに未来がわかる人なんていないよ。
 ああいう嘘みたいなオカルトは悪意にはならないものなの?」

「聞いたことないわね、私もあまり詳しくないけれど、占いは結局学問なのよ。
 統計のように数学的であったり、人心掌握術のように心理学的であったり。
 そこからもっともらしい文章を作りだす語学力も必要でしょうね。
 だから悪意と言うほどの事にはならないのではないかしら」

「うーん、夢がない、そりゃいくらでも信じなくなっちゃうね。
 現実が一番不思議で満ち溢れてるってどっかで聞いたことのある小説みたい」

「それを言うなら『事実は小説よりも奇なり』でしょ? 意味も大分違うからね」

「ああ、綾ちゃんは現実に引き戻してくる、なんてね」

 テスト期間中は午前授業のため給食もない。と言うことはいつものようにお茶会をすることも許されずまっすぐ帰ることになる。つかの間の安堵感を分かち合った少女たちは、いつもよりだいぶ早い時間にそれぞれ帰宅していった。


 そんな帰り道、珍しく車内でテスト勉強について板倉と話をしていた。

「とにかく綾乃さんは厳しいの、有無も言わさず座らされて問題やらせるのよ?
 私たちのためにしてくれているのだと言うことは理解しているのだけれどね。
 もう少しでいいから休憩を入れるとか、優しい言葉をかけるとか――」

「どうしたんですか、お嬢? 急に黙っちまって、ちゃんと聞いてますぜ?
 まさか具合でも悪くなったとか? 車酔いならいったん止まりましょうか?」

「いいえ、なんでもないわ、今私がこぼしていた愚痴は自分宛てだと思ったの。
 私は直臣たちのことを同じどころかもっと厳しく指導していたのにね。
 まったく恥ずかしい限りだわ、自分がされるまで気が付かないなんてダメね」

「私は古い人間なんで厳しさに脆い世代Z世代緩い教育を受けた世代ゆとり世代を見てきました。
 それはそれでいいところもあったでしょうが、ぬる過ぎて人が育たないこともあったと感じますよ」

「お母さまに聞いたことがあります、生徒が強くて教師は奴隷のようだったと。
 適切な距離感と信頼関係が大切だと思うのですが、意外に極端なのですね」

「ええ、私らの爺婆ジジババ世代だとまた違っていて、子供は殴って言うことを聞かせるのが当たり前だったらしいですから、時代によって移り変わりがあるのでしょうな」

 そんな小難しい話をしながら車は走り続け、八早月は揺られながら自らをかえりみて反省するのだった。
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