限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
268 / 376
第十章 睦月(一月)

264.一月十九日 午後 後始末

しおりを挟む
 交通規制は夜まで続くらしく、やってきた車を迂回させるために警官が苦労している様子だった。それほど交通量が多い場所であり、もしこのまま祠巡りを開始すれば訪れる人たちには危険な場所となりそうである。

 そんなことも含め話し合うとの名目で、立ち合いのために来ていた町長たちが一席設けるとの話になってしまった。八早月としてはさっさと帰って飛雄との時間を過ごしたかったのだが無責任に投げ出すこともできない。

 なんと言っても準備期間を作らせず創建を強行したのは、明らかに八早月の我がままなのだから。

「まずはお疲れさまでございました、私たちも素晴らしい体験ができました。
 ご紹介いたします、こちら郡史編纂をされております日部ひべ先生でございます。
 先生、こちらが八岐神社の神職をされている筆頭の櫛田様でございます」

「これはこれは、当代は可憐な少女と聞いてはおりましたがこれほどとは。
 私は日部新美あらたみと申します」

 そう言って名刺を差し出してきた。にこやかにほほ笑む優しげな雰囲気は、どこか玉枝にも似ている気がする。それにどこかで見たような、会ったことがあるような気がしていた。

「日部先生、失礼ですがどこかでお会いしたことはございませんか?
 記憶が確かではないのですが、お顔に見覚えがあるのです」

「ええっ!? 本当に覚えていらっしゃるのですか?
 実は十年ほど前に八畑村へ行っており、幼少時にお会いしているのです。
 その時はまだ歩くかどうかだったはずなのですけどね、いやはや驚きです」

「左様でございましたか、私も覚えているかと言われると自信はありません。
 ただなんとなく初めてでは無い気がしただけですから偶然でしょう。
 事情が有り当時筆頭だった父は隠居して私に代替わりしております」

「そうだったのですね、私は最後に訪れた後に股関節を悪くしてしまいまして。
 山歩きが難しくなり足が遠のいてしまったのです、申し訳ございませんでした」

「とんでもございません、なにも悪いことなどしていないではありませんか。
 あのような山奥、一度でも来ていただけただけで光栄と存じます」

 そんな思ってもみない再会、と言っても全く覚えていなくて当然の相手と話が弾んだのだが、いつまでも横にそれているわけにはいかない。まずは町長が話を切りだした。

「先ほどの儀式で、子供たちを中心に不思議なものを見たとの声がございました。
 私にはなにも見えなかったのですがなにかご存知ではないでしょうか。
 いえ、今後現地で混乱が起きてしまうことを想定すべきかと考えた次第です。
 本日は通行規制を行いましたが常にと言うわけにもいきませんものですから」

「詳しくは私もまだわからずこれから調べる予定なのです。
 判明しているのは、神事に伴い何らかの神が誘われあの祠を憑代にしようとしたと言うくらいでしょうか」

「なんと!? そんなことがあるのですなあ、いやあ驚きでございます。
 つまり久野町には他の神様もお住まいなのですね? これは喜ばしきこと!」

『まあ今も八早月ちゃんの頭の上に浮いてるんだけどね』

『綾乃さん、しっ! どうせ見えないのですから黙っていれば良いのです』

 それにしても町長の五本木は現代では珍しい信心深さである。ただ話を合わせているだけかもしれないが、それにしてはリアクションが仰々しい。それも政治家のなせる技なのだろうか。

 この後も交通規制や神所かんどころ巡りの安全性についての話し合いがもたれ、双尾弧神藻小祠そうびこしんみくずしょうし以外も含めて、案内の看板を多少離れても安全が確保できる場所へ設置することとなった。

 それにしてもこの力の入れよう、下手をすれば八畑村民よりも信心深いと言えなくもない。今まで久野町でこれほど神所を大切に扱った例は無く、正直戸惑いを隠せない八早月である。

 しかしこれには裏が有り、今回の観光振興策である神所巡りは、久野町出身で国内有数の歴史研究家、特に失われつつある道祖神研究の第一人者である日部新美の現役最後の仕事となるらしい。そして旧知の仲である町長もまた次回は出馬せず引退すると言うことで久野町を愛する二人による最後の大仕事と言うわけだ。

 八早月は宿に後から聞かされたためこの時はまだ知らず、なんと信心深いのかと感銘を受けていた。そうではなかったことを後ほど聞かされ残念がったのは言うまでもない。

 話し合いは順調に進み、諸問題にめどが付いたと言うことでようやくお開きである。土曜日で役場が休みのため町営図書館の会議室を借りたのだが、そのおかげで零愛たちも辛うじて暇つぶしができたらしい。

 そしてようやく本当に一段落し帰り道となったのだが、一緒に来ていた手繰は夢路の母たちと寒鳴家で二次会のようだ。もちろん美晴と夢路が選んだ着物を持って帰ってもらうので、ついでに着付けの勉強会を行うと言っている。

 そう言いつつまた黙って鰻でも食べたりすることの無いように、と八早月がくぎを刺す。先日は宿と二人で食べに行ったので、須佐乃が真宵へうっかり・・・・漏らしてしまい明らかとなったが今回は知るすべはない。


「それにしても思っていたよりも時間がかかったわね、少し疲れたわ。
 もしかしたらこれ・・のせいかもしれないけれど」

 そう言いながら八早月は頭上を指差した。例の光は相も変わらずぼんやりと光りながら八早月の頭をかず離れずふわふわと浮いていた。未だ正体がわからないのは不気味だが、幸いなことに悪気あくけは感じない。

「一体なんなのかね、儀式のときにはハルと夢にも見えてたんだろ?
 と言うことはすごい力があるとかそう言うことじゃないのか?」

「妖なら見えるから力が強いとも限らないし、その特性としか言えないわね。
 輝きが強くなると現世に漏れるだけと言うことかもしれないし。
 でも私はとても嫌な予感を感じているのよねえ」

「あーわかった、あれもなにかの神様で、また八早月ちゃんに憑りつくかも?
 それってフラグだよ、あるある過ぎて結果が見えてるような気がする!」

「相変わらず夢路さんの話は難解で、鵜呑みにすると恥をかくわ
 以前教えてもらった目盛の話も勘違いして覚えていたしね」

「あれは別に現実の話だなんて言ったこと無かったのにさー
 自分が失敗して恥ずかしいからって人のせいにしちゃダメだぞー?」

「くっ、なんだか飛雄さんと結納を交わしてから夢路さんが厳しくなったわ。
 もしかして――」

「ええっ!? 夢ったらまさかヤキモチ焼いてるの? 珍しいなー
 自分の恋愛には全く興味ありません、みたいに言ってるくせにさ」

「ちょっとハルったら勝手なこと言わないでよね、ヤキモチなんて焼かないよ。
 もうくっつける楽しみが無くなっちゃったからさ、今度は別の楽しみを探してんの」

 まったくはた迷惑な話である。そう感じているのは第一に綾乃、そしてまさか自分も標的なのかと心配する零愛だった。特に綾乃は学校内に相手もいるわけだし、わずかだが意識してしまっているしで油断できない。それにいつ自分が本気になるかもわからないと考えてしまうくらいには直臣に魅かれていた。

 ところが不思議なことに最近の夢路は綾乃と直臣のことを口に出さなくなっている。それが却って不気味だと感じる綾乃だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。 そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。 すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。 それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。 やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」 美人生徒会長の頼み、断れるわけがない! でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。 ※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。 ※他のサイトにも投稿しています。 イラスト:siroma様

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...