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第三章 明かされる秘密

14.遭遇

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 俺は絶対に叱られると覚悟を決めていたが、どうやらそうでもなかったようで、ジョアンナは俺に抱きつきながらへたり込んだ。

「もう心臓バクバクよ。
 お店の人が気分悪くして怒りだしたらどうしようかって思っちゃった。
 うみんちゅったらあんまり変なこと言いださないでよね。
 でも約束守ってこっそり話してくれたのに、あの店員さんすごく耳が良くておかしくなっちゃった」

「きっと遠聞(えんぶん)能力の保持者だろうな。
 ちなみに俺は剛体という強靭な肉体の能力を持っている。
 このおかげでちょっとやそっとじゃ怪我ひとつしないのだ」

「なにそのインチキ能力、すっご。
 てゆーかなんでそんな能力があるってわかるの?」

「そりゃこの固有能力章に載ってるからだろ。
 こうやってだな…… あれ? 出ないぞ?」

「なにしてんの?
 なにも起きないじゃない」

 俺は固有能力章を表示させようと左手の甲をさすってみたがなんの反応もない。もしかしたら世界が異なるために剥奪されてしまったのだろうか。ジョアンナが興味津々でこちらを見ていると言うのにカッコ悪いところを見せてしまった。

「どうやらこちらの世界では表示されないようだな。
 いつもならこうやってこすると個人ごとの能力が表示されるんだよ。
 あれだ、姫の持ってるスマホ? と似たようなものだな」

「へえ、アタシにもなにか特別な能力ないのかなぁ。
 食べても食べても太らない能力なんて持ってたらサイコー」

「あまり痩せていると食糧難になったら真っ先に死ぬことになるぞ?
 それに貧乏だと思われてしまうから程度問題だ。
 痩せている方が美しいとされる傾向があるのは承知してるがな」

 そんなことを話しているうちにバスとやらがやってきた。そしてその直後、俺は並走する多数の馬車につい興奮し、またジョアンナに叱られてしまった。

「よくそんなにはしゃぎ続けて疲れないわね。
 すぐ着くから大人しくしてなさいよ。
 でも出る前に地図を見てきたけど確かにそんなところに学校はないのよね。
 その住所には農業公園って言う区立の公園があるだけね」

 ほどなくしてその農業公園とやらについた俺たちは、何か手がかりのようなものがないかあちこちを見てまわることにした。農業と言うのは農耕と同意だということはすぐわかり、ここは色々な作物を育てて研究している施設とのことだった。

 しばらく見てまわって喉が渇いたころ、ジョアンナが敷地内で奇妙な設置物を見つけた。

「ねえこれじゃない?
 『国民学校高等小学校跡地記念碑』って彫ってあるもん。
 でもなんで石碑と一緒に祠(ほこら)があるのかな」

「この祠と言うのは宗教的な設置物か?
 何やら神聖な雰囲気を感じるが気のせいだろうか」

「うん、確かに神聖なものね。
 神様を祀っている場所なんだけど、日本には数えきれないくらいあるものよ。
 大きな建物がある神社やこうしたごく小さなものまで様々ね」

「なるほど、この大きさでも神殿と言うことなのか。
 それが全国無数にあるとはなぁ。
 この国には神が何人もいるということか?」

「神様の数かぁ……
 八百万(やおよろず)の神って言うくらいだから八百万人くらいいるのかもね」

「なんと! 凄い数だな。
 我らの王国民よりも多いかもしれない……
 念のため聞くのだが、この日本にはどれくらいの人が住んでいるのだ?」

「えっとね、一億何千万人くらいだった気がする。
 口に出してみるとすごい数よね」

「一億と言うのは千万の上ということなのか?
 すさまじい軍勢だな。
 さぞかし国力も強大なのだろうな。
 もしかして日本がこの地球と言う世界を治めているのか?」

「ぜーんぜん。
 世界にはもっと大きな国がいっぱいあるんだから。
 日本は小さな島にひしめき合って生きてる人種なの。
 まあ世界的に見れば裕福で恵まれてる国ではあるけどね」

 この国よりも栄えている国がまだあるとは本当に驚きだ。同じ世界だったならンダバーなんてひとたまりもなく滅ぼされてしまうに違いない。もし戦争になったら俺は生き残れただろうか。いや、生き残れる戦士がいたかどうかも疑わしい。それほど技術力に差があると感じる。

「いやあ、世界は広いな。
 まだまだ知らないことだらけでなんだか楽しくなってきたぞ」

「ホントポジティブよね、羨ましいくらい。
 それにしても喉が渇いたわね。
 どっかに自販機ないかなー」

「それなら川沿いに行ったあの建物にあるぞ」

「あ、そうなの? よく知ってるわね。
 ―― ってあなた誰!?」

「ん? 誰と話しているんだ?
 ―― ってお前は誰だ!?」

「二人そろって変な目で見るでないわ。
 ワシは神じゃよ、この世界ではなくンダバーの、だがな」

「ええええっ!? 神様!? 本物なの?」

 ジョアンナが相当驚いている。と言うことはきっと珍しいものなのだろう。八百万人もいると言うからそれほど珍しくないのかと思ったがそんなことはなく、こちらでもやはり神が人の前に出てくることはそうそう無いと見える。

「ンダバーの神がなぜこんなところにいるのだ。
 もしかして俺を連れ戻しに来たのか?
 ここは食い物に困ることがなさそうだし雇い主も見つかったので帰るつもりはないぞ?
 だが向こうに置いてある俺の財産と武具は返してくれ。
 無一文なだけでなく剣も鎧もないなんて心もとないんだ」

「お主随分と図々しいのう……
 ワシは神だぞ? もっと敬え」

「本当に神なのかどうかは知らんが、俺の国では神への信仰はなかっただろ。
 隣国はハニオリ信仰だったし神を信仰してた国はあったか?」

「バカ者! ちゃんとあったわい。
 確かに貴様のいた大陸とは別だったかもしれんがな」

 まあこいつが神なのかは正直どうでもいい。信仰なぞしていないのは本当だし元の世界に戻りたいわけでも無いからだ。だが所持品が何もないよりはあった方がいいに決まっている。神ならばそれくらい取り寄せてくれると踏んだのだ。

 しかし――

「お前の荷物を持ってくることはできん。
 異なる世界観で物の移動はできない決まりなのだ。
 決まりと言うよりは仕組みと言った方がいいか。
 そのため同じ肉体ではなく精神体のみが移動しこちらで実体化したと言うわけだ」

 それを聞いた俺は、今まで月日を積み重ね研鑽を積んできて得た成果物を全て失ったことに愕然とし、首をうなだれるしかなかった。
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