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第七章 裏切りの夜
36.もう一人の弁護士
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俺は悩んでいた。今後のために知っておく必要がありそうだが、その知識をどうやって仕入れるべきなのか。下手に誰かに聞いてジョアンナの不機嫌が加速したり話がこじれても困る。
一応辞書を引いては見たのだが、焼くと餅と嫉妬の繋がりが理解できなかった。嫉妬と言うのは妬みだというのは言葉通りだが、ジョアンナが何に妬んでいるのかがわからない。餅を食ったのはさっきが初めてだし、パフェをご馳走になっていることは気にならないと言っていた。
『まさか、強がりを言っているだけで本当は自分も食いたかった!?』
しかしそれであれば焼き餅が出てくるのは不自然だ。どう考えてもパフェを焼くことはできないだろう。他にあるとすればやはりジョアンナに友人がいないことが関係しそうである。つまり友人宅へ遊びに行っている俺に対する妬みだ。
友人と言えば、そのことと直接結びつかないにしても関連はありそうなので、例の噂を流している奴をなんとか仕留めたいところだ。かといって主(あるじ)に無断で勝手な真似をするわけにもいかない。
なぜそんな噂を流すのかと聞いた際に、ジョアンナが妬まれていると言っていた。するとこれも焼き餅が関係してくるのだろう。いくつかの話を組み合わせた俺は一つの結論に達した。
妬みを食べ物に例えるのは前の世界にもあった。たとえば『隣の皿の肉は大きく見える』とか『人の花嫁と酒は上等に見える』などと言ったものだ。つまり餅という言葉自体に意味はないのだろう。
結局のところ、人は腹が減っていると機嫌が悪くなるものだ。わかってしまえばなんと簡単な事か。よし、今日はジョアンナの好きな野菜の料理にしてみよう。いつも俺に合わせて肉ばかりなのが気に食わなくて怒りっぽくなっているに違いない。好きなものを食べ、我がままばかりな俺を妬むのは当然だろう。
そんな簡単なことがわからないなんて、俺はなんとバカだったのだ。休み時間になると、すっかり扱いに慣れたスマホを使って晩飯を何にするか考えていた。だがそれはまったくの無駄に終わった。
「それでその子が連絡を貰っていた遠縁の?
中学生とは聞いていましたが、まさか男の子だとは思っていませんでしたよ」
「あれ? うまく伝わっていなかったでしょうか。
お伝えしたつもりでいました」
「ま、それは構いませんがね?
人が増えたから生活費を増やしたいと言われてもねえ。
失礼ですがその子の親御さんから仕送りは来ていないのですか?」
「いいえ、生活費は平気です。
ただアタシがアルバイト減らしたいのでもうちょっと増やして欲しいなと。
受験に備えたいですけど、女ですからどうしても、ね?」
「ふーむ、まあ成人まであと二年弱ですから構わないでしょう。
以前お話していた予備校はどうされますか?」
弁護士と聞いていたからあの八柱という男と会うのだと思いこんでおり、それならピザが食えると思っていた俺は、浦賀と言う見知らぬ弁護士の事務所で、退屈と落胆を抱えながら今にも椅子から転げ落ちそうに船をこいでいた。
しかしこの時ジョアンナの表情がやや曇り、一息ついてから会話を続けた。
「夏休みには夏期講習へ行きますからその成績次第で決めたいと思ってます。
ちなみに医学部へ行こうと思っているんですけど問題ありませんよね?」
「ええっ!? 医学部ですか?
そりゃまたどうして?」
「特別な理由はありませんが、おばあちゃんの夢をかなえたくて。
せっかく財産をたくさん残してくれたんですからね」
なぜかはわからないが急に部屋の空気が変わったように感じる。今の会話のどこにそんな要素があったのかはわからないが、金の話であることくらいは分かっている。どの世界、どの時代でも金の悶着は人の生き死にに直結するほど大きな問題だ。
「それとね、先生?
北口の繁華街でホストクラブを二軒経営してた会社がつぶれたらしいですね。
確か以前に先生が顧問やってらしたって伺いましたけど大丈夫ですか?」
「わ、私、そ、そんなこと言いましたかね?
多分人違いだと思いますよ?
ああいう世界のことは詳しくないので……」
「それなら八柱先生の勘違いかもしれませんね。
ところでアタシのママが今どこで何してるかご存知ですか?
もし知ってたら教えてほしいなぁって」
「いえいえ知りません、そもそも一度もお会いしたことが無いんです。
私が九条様と出会った時にはお嬢様はすでにお亡くなりになったと聞いてましたし」
「そっか、そうでした、それは残念です。
もしかしたら似た人でも知ってるかと思ったんですけどね」
話の流れがさっぱり理解できないが、この間カチコミに行った件とこの弁護士に何か関係がある? いや関係があるかどうか探ろうとしているようだ。それならそれではっきりと聞いてしまえば良いのだが、ジョアンナはなぜかそうしなかった。
そして浦賀弁護士事務所の帰り道――
「なあ、さっきの会話はどういうことなんだ?
弁護士と言うのは立派な職業と聞いていたが、やつはなにか悪事を働いているのだろ?
なぜもっとはっきり聞かなかったんだ」
「うーん。
ねえうみんちゅ、ハンバーガー食べいこ!」
ジョアンナはそう言うと俺の手を掴んで走り出した。
一応辞書を引いては見たのだが、焼くと餅と嫉妬の繋がりが理解できなかった。嫉妬と言うのは妬みだというのは言葉通りだが、ジョアンナが何に妬んでいるのかがわからない。餅を食ったのはさっきが初めてだし、パフェをご馳走になっていることは気にならないと言っていた。
『まさか、強がりを言っているだけで本当は自分も食いたかった!?』
しかしそれであれば焼き餅が出てくるのは不自然だ。どう考えてもパフェを焼くことはできないだろう。他にあるとすればやはりジョアンナに友人がいないことが関係しそうである。つまり友人宅へ遊びに行っている俺に対する妬みだ。
友人と言えば、そのことと直接結びつかないにしても関連はありそうなので、例の噂を流している奴をなんとか仕留めたいところだ。かといって主(あるじ)に無断で勝手な真似をするわけにもいかない。
なぜそんな噂を流すのかと聞いた際に、ジョアンナが妬まれていると言っていた。するとこれも焼き餅が関係してくるのだろう。いくつかの話を組み合わせた俺は一つの結論に達した。
妬みを食べ物に例えるのは前の世界にもあった。たとえば『隣の皿の肉は大きく見える』とか『人の花嫁と酒は上等に見える』などと言ったものだ。つまり餅という言葉自体に意味はないのだろう。
結局のところ、人は腹が減っていると機嫌が悪くなるものだ。わかってしまえばなんと簡単な事か。よし、今日はジョアンナの好きな野菜の料理にしてみよう。いつも俺に合わせて肉ばかりなのが気に食わなくて怒りっぽくなっているに違いない。好きなものを食べ、我がままばかりな俺を妬むのは当然だろう。
そんな簡単なことがわからないなんて、俺はなんとバカだったのだ。休み時間になると、すっかり扱いに慣れたスマホを使って晩飯を何にするか考えていた。だがそれはまったくの無駄に終わった。
「それでその子が連絡を貰っていた遠縁の?
中学生とは聞いていましたが、まさか男の子だとは思っていませんでしたよ」
「あれ? うまく伝わっていなかったでしょうか。
お伝えしたつもりでいました」
「ま、それは構いませんがね?
人が増えたから生活費を増やしたいと言われてもねえ。
失礼ですがその子の親御さんから仕送りは来ていないのですか?」
「いいえ、生活費は平気です。
ただアタシがアルバイト減らしたいのでもうちょっと増やして欲しいなと。
受験に備えたいですけど、女ですからどうしても、ね?」
「ふーむ、まあ成人まであと二年弱ですから構わないでしょう。
以前お話していた予備校はどうされますか?」
弁護士と聞いていたからあの八柱という男と会うのだと思いこんでおり、それならピザが食えると思っていた俺は、浦賀と言う見知らぬ弁護士の事務所で、退屈と落胆を抱えながら今にも椅子から転げ落ちそうに船をこいでいた。
しかしこの時ジョアンナの表情がやや曇り、一息ついてから会話を続けた。
「夏休みには夏期講習へ行きますからその成績次第で決めたいと思ってます。
ちなみに医学部へ行こうと思っているんですけど問題ありませんよね?」
「ええっ!? 医学部ですか?
そりゃまたどうして?」
「特別な理由はありませんが、おばあちゃんの夢をかなえたくて。
せっかく財産をたくさん残してくれたんですからね」
なぜかはわからないが急に部屋の空気が変わったように感じる。今の会話のどこにそんな要素があったのかはわからないが、金の話であることくらいは分かっている。どの世界、どの時代でも金の悶着は人の生き死にに直結するほど大きな問題だ。
「それとね、先生?
北口の繁華街でホストクラブを二軒経営してた会社がつぶれたらしいですね。
確か以前に先生が顧問やってらしたって伺いましたけど大丈夫ですか?」
「わ、私、そ、そんなこと言いましたかね?
多分人違いだと思いますよ?
ああいう世界のことは詳しくないので……」
「それなら八柱先生の勘違いかもしれませんね。
ところでアタシのママが今どこで何してるかご存知ですか?
もし知ってたら教えてほしいなぁって」
「いえいえ知りません、そもそも一度もお会いしたことが無いんです。
私が九条様と出会った時にはお嬢様はすでにお亡くなりになったと聞いてましたし」
「そっか、そうでした、それは残念です。
もしかしたら似た人でも知ってるかと思ったんですけどね」
話の流れがさっぱり理解できないが、この間カチコミに行った件とこの弁護士に何か関係がある? いや関係があるかどうか探ろうとしているようだ。それならそれではっきりと聞いてしまえば良いのだが、ジョアンナはなぜかそうしなかった。
そして浦賀弁護士事務所の帰り道――
「なあ、さっきの会話はどういうことなんだ?
弁護士と言うのは立派な職業と聞いていたが、やつはなにか悪事を働いているのだろ?
なぜもっとはっきり聞かなかったんだ」
「うーん。
ねえうみんちゅ、ハンバーガー食べいこ!」
ジョアンナはそう言うと俺の手を掴んで走り出した。
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