80 / 162
第四章 目指せ!フランチャイズで左団扇編

71.嫌な予感

しおりを挟む
 ここ何日かマールへ連絡していなかったのだが、フルルの店が一段落して余裕が出来たので報告を兼ねてメッセージを送る。ジスコは食べることに貪欲な人が多いから、カナイ村でしか作っていないようなものを考えて出荷すればきっと村の利益になるだろうと付け加えておく。

 マールからのメッセージには、リグマたちが到着し家を建てて無事に生活を始めたことも書かれていた。まずは狩りと果実採集、牧羊から始めるらしい。羊を大量に飼うことができるようになったら羊皮紙生産もできるようになるはずだし、分離機を持ちかえればチーズを初めとする乳製品も作れるだろう。移住は良い方向への変革をもたらしてくれそうで、カナイ村の今後が楽しみだ。

 マールとメッセージを交換して満足していたが、それより先にリグマからのメッセージがすでに来ていたことに気付く。そこには今朝カナイ村へ到着したこと、家を建てたこと、今後の生活について村長たちと相談したことが記されていた。みんなが快く迎え入れたおかげで不安もないと言ってくれていることが何よりうれしかった。

 というか、家建てるの早すぎじゃない? 一番気になるのはそこだった。まさか家ってテントかなにかなのだろうか。いずれちゃんとした家が建てられるように助力出来たらいいのだけど……

「ちょっとミーヤ! 手が止まってるわよ!
 もうすぐ開店なんだからしっかり焼きなさい!」

 まったくフルルは人使いが荒すぎる。もしかして商人長の館でこき使われていて、そのストレスをミーヤへぶつけてるのではなかろうか。とは言ってもチカマには優しい。

「そろそろ百枚くらいになるからいったん休憩するよ。
 茹で卵は剥き終わったの? ムラングもそろそろ焼き上がるんじゃない?
 チカマは今の内に朝ご飯食べちゃいなさいね」

「これ全部ボクの分?
 たべきれなそう」

「それは全員分だし、お昼の分もあるから食べ過ぎないでよ?
 棚にパンがあるからそっちも食べていいわよ。
 食べ終わったら番号札出しておいてね」

「はーい」

 今日の賄(まかない)は甘さを強くした肉の串焼きだ。醤油がないから再現はできなかったけど、何となく蒲焼風にはなった気がする。いつか醤油も手に入れたいし、できれば自分で作れるようになりたいものだ。

 たまにわからなくなるが、ミーヤは料理人ではなくどちらかと言うと冒険者を目指していた? いやいや思い出した、のんびり生活を目指してるんだった。田舎暮らしのスローライフ、なんて甘美な響き。

「また手が止まってるじゃないの!
 次はオムレツやっといてちょうだいよ?
 こっちは殻剥きで忙しいんだからね!」

「わかってるわよ、今やってしまえば後が楽だしね。
 もう少し頑張るわよ!」

 店の前にはすでに行列が出来ていて、開店を今か今かと待っている。しかしマナーがいいので大きな混乱がないのは助かる。雑多な野外食堂と違って、他に店も並んでいる東通りに面しているからかもしれない。

 そしていよいよ開店時間がやってきた。

「オムレツ四つ!」
「俺は目玉焼き二つだ!!」
「ちょっとこっちが先ででしょ! ムラングちょうだい!」
「押すんじゃないよ!!」
「そこ! 割り込んだだろ!!」

 始まってみればまあこうなるのだが…… 今日はレナージュが手伝いに来てくれて表で列の整理をしてくれているのだが、それでも混乱は収まらない。昨日までよりは大分ましだけど、これが続くなら整理券を配ってひとりいくつまでとか制限をかけた方がいいだろう。

「今日も終わったわね……
 十四時半かあ、オムレツが結構出たわりに早く終わったわ」

「やっぱりクレープは事前に焼いておいた方がいいわね。
 ほとんど待たせないで捌けたもの」

「意外に野菜が嫌いな人多いわよね。
 オムレツに興味があっても、中身を言うと顔をしかめて目玉焼きにする人がそこそこいたわ」

「贅沢なのよ、いいから黙って食べたらいいんだわ。
 そうすれば良さもわかるってものよ」

「今日もなにも残ってない。
 ボクお腹すいたよ?」

「私はお昼の串焼きで満足してるから平気よ。
 それじゃ予定通り細工屋へ行ってくるわ」

「助かったわ、レナージュ! ありがとう。
 細工屋よろしくね」

 クレープの種がまだ残っていたので数枚焼いてからベーコンを包み、それをチカマへ渡した。フルルは粘土板とにらめっこしながら帳面付けを始めている。ミーヤは洗い物係である。

 東通りには、道の真ん中にほぼ等間隔で共同井戸が有り、この店からも遠くは無い。それでも手元で水を出せるのだからそれを使わない手は無い。暇を見て水桶へ溜めておけば、いざと言う時にかなりの量が使えるので便利なのだ。

 それにしても連日売り切れで早じまいとは。いったいこのブームはいつまで続くのだろう。野外食堂では皿で提供していた目玉焼きを、こっちの店ではクレープに乗せて販売することで皿が不要になり効率が上がった。さらにメニューへオムレツを加えたことで卵の消費量が下がり販売数を増やせた。その差し引きでマヨネーズで使用する卵分を捻出し、余ってしまう卵白でムラングを作り無駄を出さず利益に上乗せできている。

 平均客単価は1000ゴードルくらいか? 数はおよそ二百二十くらいだと思うので、売り上げは…… フルルは一日も休む気がないようなのでそれがひと月分。そこから経費を引いた純利益が三割くらいはあるとして、そのうちの二割がミーヤに――

 なんと! 結構な額が黙っていても入ってくる計算になる、はずだったのに、黙ってるどころかこき使われている…… ただし、賃金を貰って働いている人を知らないので、適正賃金がいくらくらいなのかはさっぱりわからない。

 まあ今は手伝っているだけでも経験になると思って頑張ろう。フルルの助けにもなるし、商人長にも恩が売れると考えればトータルではプラスのはず。

「洗い物終ったよ。
 フルルも何か食べる? 串焼きはもちろんもうないけどね」

「そうねえ、甘いものが食べたいかしら。
 果物でもいいけどなにかある?」

「マヨネーズに使ってる酸っぱいのはあるけど、甘い果実は今ないなあ。
 でもこうすれば――」

 ミーヤはコップへ酸っぱい果実を絞ってから砂糖を加えた。そこへ水を注いてレモネード風にしてみる。最後にチカマから氷を貰ってフルルへ手渡した。

「んんー、酸っぱいけど甘い!
 頭がすっきりするわね!
 これってあの果実を絞っただけなの?」

「そうよ、もちろん砂糖は入れたから酸っぱいだけじゃないでしょ?
 頭が疲れて来た時にいいと思ったのよ」

「今までこの実は野菜を漬けるときに一緒に入れるくらいだと思ってたわ。
 いろいろ使えるのねえ」

「大きい水差しがあれば作り置きもできるし、お店で出せるわよね?
 冷やすのは限界があるけど、冷たい飲み物なんて普通はないし気にならないんじゃないかしら」

「明日から少しだけ出してみようかな。
 さっそくマーケットで買い出しよ!」

 ミーヤ自身で言いだしておいて今更だが、よくよく考えるとメニューを増やすのは自殺行為だった。これ以上忙しくしてどうするんだ、と自分へ言い聞かせフルルに諦めさせるよう誘導しなければ。

「でもメニュー増やしすぎてももう置くところがないわね。
 水差し一つじゃ六、七杯くらいしか入らないわ。
 次々に作ってたらまた手が足りなくなってしまわない?」

「そうねえ…… それじゃさ、別のお店にしたらいいんだわ!
 ミーヤレシピの三号店よ! それがいいわ!」

 そう言い切ったフルルは誰かにメッセージを送り始める。そう言えばレナージュはどうだっただろう。ミーヤもメッセージを確認すると、レナージュからは残念なお知らせが届いていた。

 それによると、分離機は一般で売られているものではあるが、ジスコにはあまり入ってきておらず、王都まで行かないと買えないだろうとのことだ。チカマの武器も必要だし、そろそろ王都まで足を延ばすことを検討すべきなのかもしれない。

 王都と言えば、銀の盾のサラヘイは街についてあまりいいことを言っていなかった。差別意識や階級意識のようなものがまかり通っている街のようなので、ミーヤはともかく、冒険者として考えればできれば行きたくない街ではある。

 色々と頭を悩ますことがあるなあなんて考えているとレナージュから追伸があった。分離機は買えなかったが、その代り足をつけて地面に置けるようにするシャワーとドライヤーの改良型は注文できたようだ。今はそれだけで十分だろう。ちなみに弓の弦は品切れで売っていなかったらしい。

 後はにやにやしながら誰かとメッセージをやり取りしているフルルに、その内容を確認しなければならない。嫌な予感は確実にあたるとわかっていても、だ……

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
あるところに、数百年周期で現れる魔王がいた。 人族から生まれ、闇に魅入られし者、妖魔を統べる魔王と呼ばれる存在。 度々現れては、人々を恐怖のどん底に貶めてきた。 此度、その魔王との戦いに終止符を打った男がいた。 名をシグルド卿といい、六十歳を迎えた老人の男だ。 元平民にも関わらず、爵位を得て史上初の将軍にまで上り詰めた英雄である。 しかし、魔王と一騎討ちの末に相打ちになった……と世間では言われていた。 当の本人は実は生きており、しかも若返っていた。 そして自分が生きていることが知られると、色々と面倒なことになると悟った。 それにどうせなら、自由の身になって世界を旅したいと。 これは役目を終えた英雄が旅をし、様々な人と出会い、美味い物を食べていく物語。

記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護
ファンタジー
11歳・小学5年生の唯は交通事故に遭い、気がついたら何処かの部屋にいて、目の前には黒留袖を着た女性-鈴がいた。ここが死後の世界と知りショックを受けるものの、現世に未練があることを訴えると、鈴から異世界へ転生することを薦められる。理由を知った唯は転生を承諾するも、手続き中に『記憶の覚醒が11歳の誕生日、その後すぐにとある事件に巻き込まれ、数日中に死亡する』という事実が発覚する。 異世界の神も気の毒に思い、死なないルートを探すも、事件後の覚醒となってしまい、その影響で記憶喪失、取得スキルと魔法の喪失、ステータス能力値がほぼゼロ、覚醒場所は樹海の中という最底辺からのスタート。これに同情した鈴と神は、唯に統括型スキル【料理道[極み]】と善行ポイントを与え、異世界へと送り出す。 持ち前の明るく前向きな性格の唯は、このスキルでフェンリルを救ったことをキッカケに、様々な人々と出会っていくが、皆は彼女の料理だけでなく、調理時のスキルの使い方に驚くばかり。この料理道で皆を振り回していくものの、次第に愛される存在になっていく。 これは、ちょっぴり恋に鈍感で天然な唯と、もふもふ従魔や仲間たちとの異世界のんびり物語。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ

蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。 とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。 どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。 など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。 そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか? 毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。

処理中です...