神様が創りし地〜勇者パーティーの回復魔法師、転生しても回復魔法を極める!〜

立花 黒

文字の大きさ
14 / 76
旅立ちとギルド

第14話、小鬼の追撃

しおりを挟む
 私は壁に張り付くと、小窓から民家の中に居座るモンスターたちの動向を伺う。
 しかしなんでこんなダンジョンから遠く離れた村なんかに、ゴブリンが複数体も居るのだ?

 書物で見たり使用人仲間たちから聞く限りでは、今世のモンスターの多くはダンジョンの中、もしくはその周辺にしか存在しないはず。

 ダンジョンから生み出される好戦的な奴らは、トドメをさすと魔石を落とす事がある。
 その魔石を使用して武器や防具を製作すると、それらに魔力加護や様々な補正を与えることが出来る優れものになる。そのため各国は自国にあるダンジョンを独占管理、またダンジョン活性化などで溢れてしまった時にモンスターから町々を防衛するため、ダンジョンへ出入り出来る箇所は必ず壁を建設している。つまり壁の外に、多くのモンスターが出る事は平時ではあり得ない。

 またどこかの壁が、モンスターにより突破されたと言う大事件も聞いていない。仮にダンジョンからここまでをモンスターが通って来たとしても、他の街に全く被害が出ていないと言うのもおかしな話だ。しかも私たちは数日前まで情報が集まる配達屋をしていたので、なにかあれば真っ先に情報が手に入るため情報漏れの可能性も低い。

 しかし実際にゴブリンたちが目の前にいる以上、私の考えが及ばない所で物事が進んでいる可能性がある。

 私は奴らに気がつかれないようスッと建物から離れると、物陰に隠れる二人と合流をしゴブリンがいる事を伝える。

 ゴブリン、奴らはそこそこ鼻が良いが、それは人と比べての話。接近を許さない限り、大丈夫なはず。
 風は西側に向かって吹いているが、奴らに気付かれにくい風下を進めたなら、このまま遭遇する事なく外へ出られるかもしれない。

 しかしすんなり話は進まなかった。
 先ほどの場所から暫く進むと、どの道を通ろうとしても小さな鬼たちの姿が見え隠れしていたのだ。ただ霧が深い事が幸いして、殺した人間に悪戯をしている奴らは私たちに全く気がついていない。

「アッ、アルドくん、来た道からだれかが近づいて来ています」

 その言葉を受け、その場に身を隠すと後方を確認する。すると二匹のゴブリンがこちらに向かって歩いて来ているのが見えた。奴らはキョロキョロしながら、通り過ぎる建物内に人がいないのかを探っているようだ。

「片付けてくる」

 私は小石を拾うと、放物線を描くようにして奴らに向かって投げる。
 暗闇の中、左右以外注意が散漫なゴブリンたちの後方に落ちた小石が、コッと音を立てた。
 反応して後方に向かい首を捻るゴブリンたち。

 ゴブリン相手なら第一段階シングルで十分!

 私は大地を踏みしめ蹴ると、一気に前方へ飛び出す。そして霧に包まれながらも僅かにある周囲の光を、その刀身に集める剣でそのまま振りかぶる!
 僅かな鈍い輝きに気がついたのか、後ろを振り向いていたゴブリンが目線だけをこちらに戻す。そこでやっと私に気付き、驚愕の表情を浮かべるゴブリンたちだが——

 気づくのが遅かったな。

 ゴブリンの瞳に青白い光が映り込む中、喉元を瞬時に斬り裂く。
 返す刃で私に斬りかかろうとしていたもう一匹の首も狙おうとするが——奴の剣が邪魔だ!
 急遽軌道変更で袈裟斬りに一刀両断。

「グギャェー」

 そして断末魔が上がってしまう。
 私とした事がしくじってしまった。
 血飛沫を撒き散らしながら倒れるゴブリンを背に、早足でリーヴェたちの元へ戻る。
 不思議な霧のため音がこもっているとは言え、先ほどの断末魔を上げさせてしまったのは完全に私のミスだ。
 早くこの場から離れないと。

 二人を連れ移動を再開させて程なく、近くしか索敵が出来ない全方位回復なのに、複数の敵の反応を感じとる。
 やはり先ほどの断末魔で、近くのゴブリンどもが集まってきてしまっている。
 二人が不安げな表情を浮かべる中、ゴブリンどもを避けて進んでいるため、中々村の西方面にも進めていない。
 そして焦りが募る中、突然エルに袖を引っ張られる。

「アルドさん、こっちです」

 エルが進行方向上から少し逸れた、民家の一つを指し示しながらに言った。

「どうした? 」

「この民家は使われていないんですけど、地下に隠し通路が。そこを通ったら、直接外に出れます! 」

「本当か!? 」

「はい、もう数カ所ありますけど、ここはその内の一つです! 」

 そして私たちは、その空き家に足を踏み入れる。一歩踏み出すたびに床がギシギシ音がする古い民家を、エルに続き早足で進んでいく。そして地下へと続く階段を降りると、物置部屋のような空間に出た。

 古びた家具や道具がある中、エルは観音開きタイプのタンスを開く。そして何も入っていないタンスの中、壁側である正面の板を取り除くと、人一人が四つん這いで通れるくらいの横穴が現れた。

 これが隠し通路か!

 とそこで、一階出入り口の扉が開く音が!
 ゴブリンどもが匂いを嗅ぎつけてきたか!?

「二人とも急ぐんだ! 」

 急かすとまずはエルが穴の中に入り、四つん這いになり進んでいく。

「リーヴェも早く! 」

「アルドくんは!? アルドくんもついてくるのですよね? 」

「あぁ、ただ片付けてからだ。このままだとこの抜け穴まで奴らが来てしまうからな。でも必ずいくから、安全なところで待っていてくれ」

「……わかりました。ただリーヴェは出口で、アルドくんが来るまでずっとずっと待ち続けますから! 」

 そこで上の階から、ギシギシ床をふみ鳴らす複数の音が!

「それは死ねないな……、さぁ早く! 」

 そうしてリーヴェを穴の中に押しやると、穴に板を嵌め込みタンスの扉を閉める。

 さてと、私の本職は回復なんだがな。
 解除魔法使いのあいつならば、回復魔法以外にも精霊魔法が使えるわけで——
 愚痴を言っても仕方がないか。

 階段を駆け上がり一階まで一気に行くと、民家の中には既に二匹のゴブリンの姿が。

「ギギャー」

 私を見つけるや否や、狭い廊下で剣を振り上げながら走り寄って来るゴブリンども。
 揃いも揃って、せっかちだな!
 接近してきた先頭の一匹が、私に向け剣を振り下ろす。私はそれを受ける形で剣を構え、衝突する直前で力の限り押し上げた。

『ギイィィン』

 そして私の剣により弾かれたゴブリンの剣は、手元からすっぽ抜けると勢いよくクルクル回転しながら天井に突き刺さる。
 そこで私は唖然とするゴブリンのガラ空きになっている胴体に向け、横薙ぎに剣を振るった。
 立ったまま血飛沫を上げ続けるゴブリン。
 私はその横をすり抜け、次に続いていたゴブリン目掛けて剣を真っ直ぐ下へと振り下ろす。
 ゴブリンは先ほどの私がしたように、それを剣で受けようとする。が私の力の前では無力。振り下ろされた私の剣が、ゴブリンの剣を押し退け脳天に突き刺さる。

『ドガンッ! 』

 一息つく間もなく、入り口の扉が蹴破られた。
 戦闘の音を聞きつけて来た新手か!
 そして奇声を上げながら、扉からゴブリンどもがなだれ込んで来る。

 くそっ、こんな場面、暗殺勇者でなければ音も立てずに仕留めるなんて無理がある!

 そいつらは先ほどのゴブリンのように、剣を振り上げながら走り寄って来ている!
 そこで私は、同じように剣で受け止めようとしたのだが——

『ギギイィン』

 なっ!?
 私の剣が折れた——

 そう、山賊から奪い使って来た剣の刀身が、あろうことかゴブリンの剣と激突させた衝撃で折れてしまっていたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏
ファンタジー
地味で不遇な風魔法──でも、使い方しだいで!? どこにでもいる男子高校生が、意識高い系お嬢様に巻き込まれ、毎日ダンジョン通いで魔法検証&お小遣い稼ぎ! 目指せ収入UP。 検証と実験で、風と火が火花を散らす!? 青春と魔法と通帳残高、ぜんぶ大事。 風魔法、実は“混ぜるな危険…

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...