心をなくした私と、あやかし荘の住人たち

ホロロン

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第12話 やさしさのカタチ・刃の記憶

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数日後、彼女は庭の柿の木の下で、ひとり小さな作業をしていた。

風に揺れる枝、散りかけた花びら。そんな静かな午後。

そこへ、バサッと音を立ててツヅラが現れる。

「何やってんだ?」

「……柿の枝が伸びすぎてたから、少しだけ切っておこうと思って」

「そんなん、俺に言やあ一瞬で済む」

彼はずかずかと寄ってくると、手にした小さな剪定バサミをひょいと奪い取った。

「ちょ、勝手に!」

「お前の手、ちょっと震えてんじゃねえか。無理すんな。俺がやる」

そう言うと、さっさと脚立に登り、器用に枝を切っていく。

「……ありがとう」

「礼はいい。どうせ手ぇ出すなら、ちゃんとやる方が落ち着く」

彼女は思わず見とれてしまった。長い腕、鋭い目。無駄のない動き。その姿が、なぜだか安心をくれる。

「……昔のこと思い出すな」

「え?」

「戦の時代さ。いつも血と怒号ばっかでよ。俺の刃で人が死ぬのが、当たり前の景色だった。……でも、ある武士がいた。そいつは、俺を人を守るためだけに抜いた」

静かに語るツヅラの声。

「そいつが言ったんだ。刃でも、誰かを助けられるなら、価値があるって。……俺、あの言葉が忘れられなくてさ」

脚立を降りたツヅラが、真っ直ぐ彼女を見る。

「……だから、お前みたいに、ボロボロの目をしてる奴が笑ってるの見ると、ちょっと安心すんだよ」

彼女の胸が、ぎゅっとなった。

「ツヅラさん……」

その時、背後から風が吹き抜け……

「……ずいぶん、仲良さそうだったな」

白澤だった。笑っているが、どこかその声が硬い。

「手伝ってただけだよ」

彼女が言うと、白澤はふっと息を吐いて彼女に近づく。

「……それなら」

静かに、彼女の手を取る。
ツヅラが目を細める。

「俺も、手伝っていいか?」

その声は、静かに優しく……けれど、確かに意志がこもっていた。

彼女の頬が、熱を持った。

「……ふたりとも、優しいなあ」

ぽつりとこぼしたその言葉に、ツヅラも白澤も、それぞれ表情を曇らせた。

「優しくなんかねえよ」

「……俺も、ずるいかもしれない」

言葉が交錯する中、彼女は思う。……私は、まだ誰も選べない。でも、こんなふうに大事にされている今を、大切にしたい。

風が庭を通り過ぎる。その瞬間、白澤とツヅラの間に、静かな火花が散っていた。

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