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第23話 やわらかな午後
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それから数日。クロノの変化は、あやかし荘の住人たちにも少しずつ伝わっていった。
最初に気づいたのは、カナエだった。
「クロノくん、朝ごはん一緒に食べよ!」
以前なら、呼ばれても影のように隠れていたクロノが、その日はそろりと食卓に顔を出した。膝を抱えて隅に座る姿は変わらなかったけれど、食卓のにぎやかな会話に耳を傾けている様子だった。
「……おや。ちゃんと来たんだ」
アサギがくすっと笑って、お椀を差し出す。
「ごはん、よそってもらえる?」
一瞬、クロノは戸惑ったが、湯気の立つごはん釜に近づき、おそるおそるしゃもじを手に取った。真剣な表情でよそったごはんは、少し形が崩れていたけれど、アサギは嬉しそうに受け取った。
「ありがとう。とっても上手だ」
「……うん」
ぽつりと返した声は小さかったが、その耳の先がほんのり赤く染まっていた。
その日の午後には、カナエに誘われて庭で日向ぼっこをしていた。日差しのぬくもりに目を細めるクロノの横顔に、もうかつての怯えた影はなかった。
そして夕方、縁側で本を読んでいた白澤がふと顔を上げると、庭の片隅で、クロノが澪に何かを話していた。楽しそうな声ではなかったけれど、それでも明らかに話すために口を開いている声だった。
「……あの子、変わったな」
白澤の言葉に、背後で茶を淹れていたアサギが微笑む。
「ええ。きっと、澪さんが最初に名乗ったからですね」
白澤は目を細めた。
「名を持つことは、存在を認められること。そして……存在を認める者に、心は応える」
縁側を照らす西日が、クロノの黒い髪にやわらかく光っていた。
最初に気づいたのは、カナエだった。
「クロノくん、朝ごはん一緒に食べよ!」
以前なら、呼ばれても影のように隠れていたクロノが、その日はそろりと食卓に顔を出した。膝を抱えて隅に座る姿は変わらなかったけれど、食卓のにぎやかな会話に耳を傾けている様子だった。
「……おや。ちゃんと来たんだ」
アサギがくすっと笑って、お椀を差し出す。
「ごはん、よそってもらえる?」
一瞬、クロノは戸惑ったが、湯気の立つごはん釜に近づき、おそるおそるしゃもじを手に取った。真剣な表情でよそったごはんは、少し形が崩れていたけれど、アサギは嬉しそうに受け取った。
「ありがとう。とっても上手だ」
「……うん」
ぽつりと返した声は小さかったが、その耳の先がほんのり赤く染まっていた。
その日の午後には、カナエに誘われて庭で日向ぼっこをしていた。日差しのぬくもりに目を細めるクロノの横顔に、もうかつての怯えた影はなかった。
そして夕方、縁側で本を読んでいた白澤がふと顔を上げると、庭の片隅で、クロノが澪に何かを話していた。楽しそうな声ではなかったけれど、それでも明らかに話すために口を開いている声だった。
「……あの子、変わったな」
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「ええ。きっと、澪さんが最初に名乗ったからですね」
白澤は目を細めた。
「名を持つことは、存在を認められること。そして……存在を認める者に、心は応える」
縁側を照らす西日が、クロノの黒い髪にやわらかく光っていた。
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