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陛下
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「話が違うではないか、アキレウス」
陛下はじわりと滲んだ冷や汗を拭うこともせずにそう仰った。
「父上?」
「すまない、順序からして次発言するのはカーチェスト公爵家であったな。続けてくれ」
「いえ、とんでもありません。是非お聞かせください。『話が違う』とは一体…?」
陛下はお父様から目を逸らし、たじろぐ。
「儂がアキレウスとカノン嬢との婚約破棄を認めたのは、もう既にカーチェスト家が認めていると思ったのが理由だ」
「何故そう思ったのです?」
お父様が詰め寄ると陛下は苦虫を噛み潰したように、
「アキレウスがそう言ったからだ」
と答えた。
なるほど、陛下はこの話が円満なものだと思っていたのね。だとしても、婚約破棄を認めるなんてどうかしてると思うけど。
「先日の話だ。アキレウスは儂にカノン嬢との関係を断ちたいと言ってきた」
陛下と王妃様が政略結婚ではなく恋愛結婚であったことは、国民全員が知っている。
どうやらアキレウスは「愛する人がいる。(カノンなんかの承認はいらないし)カーチェスト公爵家も認めている(に違いない)から婚約を破棄したい」と陛下に伝えていたらしい。息子も自分と同じように恋愛結婚をすることに喜び、カーチェスト公爵家も認めているならと、二つ返事で了承してしまったようだ。
「しかし蓋を開けてみればカーチェスト家は婚約破棄を認めていないどころか、話すら聞いていないと言うではないか。更には隣の教養のなっていない男爵令嬢を王妃にするなど…なんという戯言を」
「いけませんわ、陛下」
王妃様が陛下の言葉を遮った。非常にゆったりとした動きで立ち上がり、アキレウスの方へ1歩ずつ寄っていく。
「陛下がそんな戯言を信じて軽率に許可をお出しになったからこそ、騒ぎが起こりカノン嬢が傷つくことになったのですよ」
「い、いや…」
王妃様がアキレウスの前でピタリと止まる。
「勿論、陛下だけの責任ではありませんが」
――パンッ
「この…大馬鹿者!!!」
何事かと思えば、王妃様がアキレウスの左頬を平手打ちにしていた。
え、平手打ち!?!?
私だけでなく全員が息を飲んだが、アキレウスは綺麗なもみじ模様を擦りながら泣きそうな目になっている。
「は、母上……??」
「婚前の軽い遊びだろうと放置していた私にも責任があります。カーチェスト公爵夫妻、大切なご令嬢を傷つけてしまい、大変申し訳ありません」
「な……王妃様、いけません!頭をお上げください」
「いいえ、この馬鹿息子をきちんと止めていれば…」
「母上、何を…」
「お黙りなさい!お前がカノン嬢を蔑ろにしてその令嬢と遊び呆けていたことは知っているのですよ」
アキレウスは言葉も出ず、ただわなわなと震えるだけだ。ユーナもこの国の頂上に立つ王妃様の威厳にあてられて涙をうかべガタガタと震えている。あらまあ、お似合いですこと。
それにしても、王妃様がアキレウスの愚行に気付いているのは意外だった。なんだかんだ、王妃様も自分の息子には甘いイメージがあったから。
「たった一人のご令嬢に、本当に申し訳ないことをしました。私も陛下も反省しなければなりません」
「おやめください、王妃様。それよりも私たちはカノンのこれからについて考えなければならないのです」
「それは……」
そう、今のところカノンは『嫉妬心から令嬢を虐めて婚約破棄された傷物令嬢』なのだ。たとえ事実がどうであれ、卒業パーティであんな騒ぎを起こしてしまえばそうなってしまうのだ。
「……ええ、よくわかっています」
陛下はじわりと滲んだ冷や汗を拭うこともせずにそう仰った。
「父上?」
「すまない、順序からして次発言するのはカーチェスト公爵家であったな。続けてくれ」
「いえ、とんでもありません。是非お聞かせください。『話が違う』とは一体…?」
陛下はお父様から目を逸らし、たじろぐ。
「儂がアキレウスとカノン嬢との婚約破棄を認めたのは、もう既にカーチェスト家が認めていると思ったのが理由だ」
「何故そう思ったのです?」
お父様が詰め寄ると陛下は苦虫を噛み潰したように、
「アキレウスがそう言ったからだ」
と答えた。
なるほど、陛下はこの話が円満なものだと思っていたのね。だとしても、婚約破棄を認めるなんてどうかしてると思うけど。
「先日の話だ。アキレウスは儂にカノン嬢との関係を断ちたいと言ってきた」
陛下と王妃様が政略結婚ではなく恋愛結婚であったことは、国民全員が知っている。
どうやらアキレウスは「愛する人がいる。(カノンなんかの承認はいらないし)カーチェスト公爵家も認めている(に違いない)から婚約を破棄したい」と陛下に伝えていたらしい。息子も自分と同じように恋愛結婚をすることに喜び、カーチェスト公爵家も認めているならと、二つ返事で了承してしまったようだ。
「しかし蓋を開けてみればカーチェスト家は婚約破棄を認めていないどころか、話すら聞いていないと言うではないか。更には隣の教養のなっていない男爵令嬢を王妃にするなど…なんという戯言を」
「いけませんわ、陛下」
王妃様が陛下の言葉を遮った。非常にゆったりとした動きで立ち上がり、アキレウスの方へ1歩ずつ寄っていく。
「陛下がそんな戯言を信じて軽率に許可をお出しになったからこそ、騒ぎが起こりカノン嬢が傷つくことになったのですよ」
「い、いや…」
王妃様がアキレウスの前でピタリと止まる。
「勿論、陛下だけの責任ではありませんが」
――パンッ
「この…大馬鹿者!!!」
何事かと思えば、王妃様がアキレウスの左頬を平手打ちにしていた。
え、平手打ち!?!?
私だけでなく全員が息を飲んだが、アキレウスは綺麗なもみじ模様を擦りながら泣きそうな目になっている。
「は、母上……??」
「婚前の軽い遊びだろうと放置していた私にも責任があります。カーチェスト公爵夫妻、大切なご令嬢を傷つけてしまい、大変申し訳ありません」
「な……王妃様、いけません!頭をお上げください」
「いいえ、この馬鹿息子をきちんと止めていれば…」
「母上、何を…」
「お黙りなさい!お前がカノン嬢を蔑ろにしてその令嬢と遊び呆けていたことは知っているのですよ」
アキレウスは言葉も出ず、ただわなわなと震えるだけだ。ユーナもこの国の頂上に立つ王妃様の威厳にあてられて涙をうかべガタガタと震えている。あらまあ、お似合いですこと。
それにしても、王妃様がアキレウスの愚行に気付いているのは意外だった。なんだかんだ、王妃様も自分の息子には甘いイメージがあったから。
「たった一人のご令嬢に、本当に申し訳ないことをしました。私も陛下も反省しなければなりません」
「おやめください、王妃様。それよりも私たちはカノンのこれからについて考えなければならないのです」
「それは……」
そう、今のところカノンは『嫉妬心から令嬢を虐めて婚約破棄された傷物令嬢』なのだ。たとえ事実がどうであれ、卒業パーティであんな騒ぎを起こしてしまえばそうなってしまうのだ。
「……ええ、よくわかっています」
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