14 / 18
縁談
しおりを挟む
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈カノン視点┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
卒業パーティでの騒動から、私は謹慎を言い渡されていた。謹慎、と言えば厳かに聞こえるが実際は出鱈目な噂が飛び交うのを防ぐための自衛であった。
けれど、マリエルのおかげで婚約破棄にならなかったので、私に関する批判は次第に収まってきているらしい。外に出ていないから分からないけれど、なんとなく雰囲気からもわかる。
外に出られないのは辛いが、あれから毎日マリエルが訪ねてきてくれるので退屈することはない。
「お嬢様、お客様がお見えです」
「通して」
今日はいつもより少し早いみたいだ。今回はどんな話をしてくれるのか…とわくわくしながら振り返ると、そこにはマリエルではなく知らない令息がいた。
はて。
私の困惑を気にもせず、目の前の令息は綺麗な緑色の髪をなびかせながら、はにかんだ。
「久しぶりだな、カノン」
「えーっと……?」
頭をフル回転させて考えても、名前はおろか家門すらわからない。見たところ同年代にも見えるが、学園にはいなかったと思う。
そんな私の様子を見た令息は眉をパッと上げ、
「あれ、俺の事忘れたのか?」
「も、申し訳ございません……名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「はは、いいよ。ウィリー侯爵家の長男、ニコラスだ。カノンの婚約が決まってからは会ってないし、久しぶりだな」
「ニコラス、ニコラス…………まさか、ラス兄!?」
「やっと思い出したか」
なぜ忘れていたんだろう、ラス兄と呼んで回っていた幼少期の自分の姿が思い起こされた。
「ごめんなさい、全然わからなくて……その、随分変わってたから」
オブラートに包んで言えば、記憶の中のラス兄はもっとこう……ふくよかな感じだった。ずんと身体が大きくて強い印象を持っていたのだ。
「ああ、家門を継ぐために勉強漬けになってたらいつの間にか痩せてたんだ。昔程食欲もなくなったしな」
ニカッと笑う彼の顔は、確かにラス兄と一緒だ。
「それにしても、もうラス兄はやめてくれよ。一応同い年なんだからな」
「同い年!?」
「あの頃はでかい図体のせいで、年上の奴からもラス兄って呼ばれてたが…今なら年相応に見えるだろう?」
「ええ、そうね…」
てっきり五つは年上だと思っていただけに、なんとなく罪悪感をおぼえて目をそらす。
「これからはニコラスと呼んでくれ。その…今後のこともあるし」
「今後?」
よくわからない言葉に首を傾げると、ラス兄…いや、ニコラスは、聞いてないのか、と意外そうに目を開いた。
「俺らの婚約の話だよ」
「婚約!?」
再開してから驚いてばかりだ。
今の私は王家と円満にお別れできたとはいえ、婚約なんてもう当分する気はなかったのだ。そもそもそんな話すら聞いていない。
ニコラスは続ける。
「カノンがいろいろあって大変だったのは聞いてるよ。なんとか幸せにしてやりたい、ってうちの方まで縁談の話が来たんだ。俺もそろそろ身を固めるべきだって思っていたし、両家の仲は良好。断る理由はないだろっていうことになって、今に至る」
というわけだ、と言われても…急すぎて頭が追いつかない。ふうっとため息をついた。
「それ、私に拒否権はないのかしら」
「もちろんあるだろうよ。そのための顔合わせなんだろ。顔合わせという名の、感動の再会」
「ふふ、なにそれ」
「返事を急かすつもりはないけど、前向きに検討してくれると助かる。俺だって、結婚するなら誰でも良いってわけじゃないってこと忘れるなよ」
「え?」
「そ、それじゃあな」
ニコラスはそれだけ言うと、少しだけ耳を赤らめてそそくさと帰って行った。
ぽつんと部屋に取り残され、少し考えてみる。
「確かに断る理由はないのよね。それに、さっきの言動……もしかして私の事を?」
ふと、アキレウス様の顔が浮かんだ。
ひどい仕打ちを受けたとはいえ、何年も愛したお方。やっぱり、まだ……。
卒業パーティでの騒動から、私は謹慎を言い渡されていた。謹慎、と言えば厳かに聞こえるが実際は出鱈目な噂が飛び交うのを防ぐための自衛であった。
けれど、マリエルのおかげで婚約破棄にならなかったので、私に関する批判は次第に収まってきているらしい。外に出ていないから分からないけれど、なんとなく雰囲気からもわかる。
外に出られないのは辛いが、あれから毎日マリエルが訪ねてきてくれるので退屈することはない。
「お嬢様、お客様がお見えです」
「通して」
今日はいつもより少し早いみたいだ。今回はどんな話をしてくれるのか…とわくわくしながら振り返ると、そこにはマリエルではなく知らない令息がいた。
はて。
私の困惑を気にもせず、目の前の令息は綺麗な緑色の髪をなびかせながら、はにかんだ。
「久しぶりだな、カノン」
「えーっと……?」
頭をフル回転させて考えても、名前はおろか家門すらわからない。見たところ同年代にも見えるが、学園にはいなかったと思う。
そんな私の様子を見た令息は眉をパッと上げ、
「あれ、俺の事忘れたのか?」
「も、申し訳ございません……名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「はは、いいよ。ウィリー侯爵家の長男、ニコラスだ。カノンの婚約が決まってからは会ってないし、久しぶりだな」
「ニコラス、ニコラス…………まさか、ラス兄!?」
「やっと思い出したか」
なぜ忘れていたんだろう、ラス兄と呼んで回っていた幼少期の自分の姿が思い起こされた。
「ごめんなさい、全然わからなくて……その、随分変わってたから」
オブラートに包んで言えば、記憶の中のラス兄はもっとこう……ふくよかな感じだった。ずんと身体が大きくて強い印象を持っていたのだ。
「ああ、家門を継ぐために勉強漬けになってたらいつの間にか痩せてたんだ。昔程食欲もなくなったしな」
ニカッと笑う彼の顔は、確かにラス兄と一緒だ。
「それにしても、もうラス兄はやめてくれよ。一応同い年なんだからな」
「同い年!?」
「あの頃はでかい図体のせいで、年上の奴からもラス兄って呼ばれてたが…今なら年相応に見えるだろう?」
「ええ、そうね…」
てっきり五つは年上だと思っていただけに、なんとなく罪悪感をおぼえて目をそらす。
「これからはニコラスと呼んでくれ。その…今後のこともあるし」
「今後?」
よくわからない言葉に首を傾げると、ラス兄…いや、ニコラスは、聞いてないのか、と意外そうに目を開いた。
「俺らの婚約の話だよ」
「婚約!?」
再開してから驚いてばかりだ。
今の私は王家と円満にお別れできたとはいえ、婚約なんてもう当分する気はなかったのだ。そもそもそんな話すら聞いていない。
ニコラスは続ける。
「カノンがいろいろあって大変だったのは聞いてるよ。なんとか幸せにしてやりたい、ってうちの方まで縁談の話が来たんだ。俺もそろそろ身を固めるべきだって思っていたし、両家の仲は良好。断る理由はないだろっていうことになって、今に至る」
というわけだ、と言われても…急すぎて頭が追いつかない。ふうっとため息をついた。
「それ、私に拒否権はないのかしら」
「もちろんあるだろうよ。そのための顔合わせなんだろ。顔合わせという名の、感動の再会」
「ふふ、なにそれ」
「返事を急かすつもりはないけど、前向きに検討してくれると助かる。俺だって、結婚するなら誰でも良いってわけじゃないってこと忘れるなよ」
「え?」
「そ、それじゃあな」
ニコラスはそれだけ言うと、少しだけ耳を赤らめてそそくさと帰って行った。
ぽつんと部屋に取り残され、少し考えてみる。
「確かに断る理由はないのよね。それに、さっきの言動……もしかして私の事を?」
ふと、アキレウス様の顔が浮かんだ。
ひどい仕打ちを受けたとはいえ、何年も愛したお方。やっぱり、まだ……。
0
あなたにおすすめの小説
「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです
ほーみ
恋愛
「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」
その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。
──王都の学園で、私は彼と出会った。
彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。
貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします
卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。
ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。
泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。
「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」
グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。
敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。
二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。
これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。
(ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中)
もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!
婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~
ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。
絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。
アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。
**氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。
婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。
【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる
櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。
彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。
だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。
私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。
またまた軽率に短編。
一話…マリエ視点
二話…婚約者視点
三話…子爵令嬢視点
四話…第二王子視点
五話…マリエ視点
六話…兄視点
※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。
スピンオフ始めました。
「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる