15 / 18
諦め
しおりを挟む
「カノンさあ、まだあの馬鹿王子のこと好きなの?」
「……!ゴホッゴホッ」
突拍子も無い言葉に紅茶をむせてしまった。
今日もケーキを食べながら、マリエルから外の様子を聞いていたところなのだが……。
「気持ちはわからなくはないけどさ、あんな奴のどこがいいのよ」
侍女を下げているとはいえ、相変わらず不敬になりかねない発言をするマリエル。それだけで胃が痛くなってしまう。
「……ずっと好きだったのよ。そう簡単に嫌いになんかなれないわ」
確かに裏切られた気持ちはあるし、冷徹女とまで言われたのは悲しいことだった。あの場面を思い出すだけで、吐き気を催してしまうほど。
でも。十数年という長い年月もの間、彼の婚約者としてそして次期王妃として振舞ってきたのだ。急に憎めだとか許せだとか言われても、実感がわかないというか。
「そもそもね、私、アキレウス様がユーナに惚れたのだって何かの間違いなんかじゃないかって思い始めてるの。魔法のように急な話だったもの」
「…言い得て妙、ね」
「え?」
「な、なんでもない!それより、今日はそんなカノンのために持ってきたものがあるの」
「…なに?」
はぐらかされたようでムッとするが、マリエルが持ってきたものは気になるのでそのまま流した。
マリエルは小さな映写機をテーブルの上に置いた。
「カノンには言ってなかったよね、どうして円満に婚約が白紙になったのか」
「ええ、そうね」
私は、マリエルのおかげだということしか知らされていない。疲れていたのだろう、何故かと考えることもなかった。
「これは、話し合いをしたときの映像」
カチッという音とともに、天井にぼんやりと四角形が映し出される。
音声がくっきりと聞こえ、話し合いの様子が流れ始めた。
「………」
天井には、手を取りあって喜ぶアキレウス様とユーナ・ラッセル………いいえ、ユーナ・ウォルターの姿。
私には囁いたこともない愛の言葉を惜しげなく降り注ぐアキレウス様に、今更ながらショックを……というよりも、湧いてきたのは憤りだった。
ユーナには愛を、私へは恨み言を吐くアキレウス様。
私が一体何をしたと言うの?
「もういいじゃない、あんなやつ」
マリエルの暖かい手が、赤子を撫でるように私の背中をゆっくりとさする。
「…私、もっと悲しいのかと思ってたの」
「悲しい?」
「本当にアキレウス様が私ではなくユーナを愛してるって知って、なんだか悲しさよりも怒りの方が勝っているのよ」
だって、そうだ。私は皆が遊んでいる間王妃教育を受けてアキレウス様の隣に立てるように頑張ってきたのに、結果はこれ。
私はなぜかユーナを虐めた悪人のような扱いを受けているし、アキレウス様も周りの人もそう信じきっている。
「…カノンは、復讐したい?」
何気ない口調でそう聞かれ、私は少し悩んだ。
「全く気持ちがないといえば嘘になるわ。二人が結ばれるだけならまだしも、私が悪者になっているんだから。少しくらい痛い目にあってほしいと思うのは当然じゃない?」
「…そうね。カノンがそういう気持ちなら、私も頑張るよ」
「頑張る?何を?」
「復讐」
「……………え」
復讐、と言い放ったマリエルの瞳が余りにも鋭かったから、私は何も言えなかった。それは目を瞑っていてもわかるほどの憎悪だった。
しかしすぐにその目が細められて、
「なんてね、ちょっとした悪戯を考えてるだけよ。そんな怖い顔しないで」
と逆に私が諌められてしまった。
怖い顔をしていたのはマリエルじゃない、とは流石に言えなかった。
「……!ゴホッゴホッ」
突拍子も無い言葉に紅茶をむせてしまった。
今日もケーキを食べながら、マリエルから外の様子を聞いていたところなのだが……。
「気持ちはわからなくはないけどさ、あんな奴のどこがいいのよ」
侍女を下げているとはいえ、相変わらず不敬になりかねない発言をするマリエル。それだけで胃が痛くなってしまう。
「……ずっと好きだったのよ。そう簡単に嫌いになんかなれないわ」
確かに裏切られた気持ちはあるし、冷徹女とまで言われたのは悲しいことだった。あの場面を思い出すだけで、吐き気を催してしまうほど。
でも。十数年という長い年月もの間、彼の婚約者としてそして次期王妃として振舞ってきたのだ。急に憎めだとか許せだとか言われても、実感がわかないというか。
「そもそもね、私、アキレウス様がユーナに惚れたのだって何かの間違いなんかじゃないかって思い始めてるの。魔法のように急な話だったもの」
「…言い得て妙、ね」
「え?」
「な、なんでもない!それより、今日はそんなカノンのために持ってきたものがあるの」
「…なに?」
はぐらかされたようでムッとするが、マリエルが持ってきたものは気になるのでそのまま流した。
マリエルは小さな映写機をテーブルの上に置いた。
「カノンには言ってなかったよね、どうして円満に婚約が白紙になったのか」
「ええ、そうね」
私は、マリエルのおかげだということしか知らされていない。疲れていたのだろう、何故かと考えることもなかった。
「これは、話し合いをしたときの映像」
カチッという音とともに、天井にぼんやりと四角形が映し出される。
音声がくっきりと聞こえ、話し合いの様子が流れ始めた。
「………」
天井には、手を取りあって喜ぶアキレウス様とユーナ・ラッセル………いいえ、ユーナ・ウォルターの姿。
私には囁いたこともない愛の言葉を惜しげなく降り注ぐアキレウス様に、今更ながらショックを……というよりも、湧いてきたのは憤りだった。
ユーナには愛を、私へは恨み言を吐くアキレウス様。
私が一体何をしたと言うの?
「もういいじゃない、あんなやつ」
マリエルの暖かい手が、赤子を撫でるように私の背中をゆっくりとさする。
「…私、もっと悲しいのかと思ってたの」
「悲しい?」
「本当にアキレウス様が私ではなくユーナを愛してるって知って、なんだか悲しさよりも怒りの方が勝っているのよ」
だって、そうだ。私は皆が遊んでいる間王妃教育を受けてアキレウス様の隣に立てるように頑張ってきたのに、結果はこれ。
私はなぜかユーナを虐めた悪人のような扱いを受けているし、アキレウス様も周りの人もそう信じきっている。
「…カノンは、復讐したい?」
何気ない口調でそう聞かれ、私は少し悩んだ。
「全く気持ちがないといえば嘘になるわ。二人が結ばれるだけならまだしも、私が悪者になっているんだから。少しくらい痛い目にあってほしいと思うのは当然じゃない?」
「…そうね。カノンがそういう気持ちなら、私も頑張るよ」
「頑張る?何を?」
「復讐」
「……………え」
復讐、と言い放ったマリエルの瞳が余りにも鋭かったから、私は何も言えなかった。それは目を瞑っていてもわかるほどの憎悪だった。
しかしすぐにその目が細められて、
「なんてね、ちょっとした悪戯を考えてるだけよ。そんな怖い顔しないで」
と逆に私が諌められてしまった。
怖い顔をしていたのはマリエルじゃない、とは流石に言えなかった。
0
あなたにおすすめの小説
「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです
ほーみ
恋愛
「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」
その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。
──王都の学園で、私は彼と出会った。
彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。
貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします
卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。
ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。
泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。
「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」
グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。
敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。
二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。
これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。
(ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中)
もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!
婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~
ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。
絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。
アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。
**氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。
婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。
【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる
櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。
彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。
だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。
私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。
またまた軽率に短編。
一話…マリエ視点
二話…婚約者視点
三話…子爵令嬢視点
四話…第二王子視点
五話…マリエ視点
六話…兄視点
※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。
スピンオフ始めました。
「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる