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第三章
5 遠見鏡と波の音
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振り向くと、癖のある赤い髪に赤い瞳、顔には深いシワが刻まれいる父が立っていた。
その視線はとがったナイフのように鋭く、俺を探るような表情だった。
「父さん………」
父さんが目尻にシワを作り、仕事上の笑顔を作った。
「やぁ、マティアス君。久しぶりだね。すっかり立派になって、見違えたよ」
マティアスも父にお辞儀をして、「公爵様、ご無沙汰しております」と言った。
父さんは俺の横に立ち、顔は笑顔のまま「何を話していた」と小声で言った。
俺は「近況報告だけです」とマティアスに聞こえないように言った。
「マティアス君、せっかく来てくれて悪いが、これから商談があってね。レオンハルトも、もうじき爵位を譲る関係で出席する必要がある」
「そうでしたか、それは失礼いたしました。それでは私はこれで………」マティアスはそう言って、来た道を帰っていった。
父さんはチラッと俺の顔を見て、さらに目を細めた。
余計なことはするなよと、釘をさすかのように………。
◇◇◇
「お嬢様、どうですか? 本当にあの女は家にいますか?」
「ええ、いるわね。あの女と叔母って人も。シルバーグレーの髪だから、間違いないわ」
「本当に、あの者たちに任せて大丈夫なのですか?」
「あんまり、多くの者と関わると、足が付くからいいのよ。それに、欲しいというものもあげたし、きっと働いてくれるわ」
私は隣国から取り寄せた、遠見鏡を下ろした。
あんないやらしい目で、私のことを見て、スカーフまで持っていったんだから、今回こそやってもらわないと。
「あ、あれって荒くれものたちですか? 良くは見えないのですが………」
私は再び、遠見鏡を目に当てた。
あの3人の荒くれものが、大きな凶器を持って、あの女の叔母の家の前に着いた。
さすがに、あの者たちも考えたのね。
始末していいって言ったから、あんな大きな凶器を持って。
私は口元に笑みがこぼれた。
「お嬢様………?」
「ふふふ。なんでもないわ。やっとだなと思ってね」
これで、やっとマティアス様と晴れて一緒になれるんだわ。
私は遠見鏡を胸に抱いた。
それはとてもひんやりとしていた。
さて、そろそろ片付いているかしら?
私はまた、遠見鏡を目にあてた。
「えっ! ど、どういうこと!?」
この遠見鏡壊れているのかしら?
私に幻覚を見せているの?
だって、そんなはず………。
私はのどを鳴らしながら、もう一度慎重に覗き込んだ。
あの女の叔母の家からは、あの3人が出てきていた。
──体に縄を巻かれて。
そして、家の周りは騎士団によって囲まれていて、凶器も没収されていた。
「………そんな」
そして、ひときわ大きな赤髪の男がまっすぐこちらを射抜いてきた。
わたくしは思わず、遠見鏡を下ろした。
心臓がたくさん走ったあとのように、ドクンドクンといっている。
思わず、胸を押さえた。
「お嬢様?」
「………して」
「今、なんと?」
「いいから、いそいで馬車を出してちょうだい! すぐに家に戻るわよ!」
「はっ、はい! かしこまりました!」
あの赤髪の男、知ってる。
マティアス様と仲のよい、鬼の騎士団長………。
──アストラ騎士団長………。
彼が動いているというの………?
しかも、わたくしが乗っている馬車の方をまっすぐ見てきた。
馬車は猛スピードで走り出し、移り行く車窓を見た。
──大丈夫。証拠なんてないんだから。
きっと、大丈夫………。
わたくしにはお父様がついているもの………。
わたしはなだめるように、胸をさすった。
◇◇◇
我が家は隣国との取引をしている関係で、海が近い。
夜になり、窓を開けていると波の音が耳まで届き、俺の心をなだめてくれる。
お前は良くなっているよと。
万年筆を置き、書類から目をそらした。
眉間を指で押さえる。
マティアスは父と俺のことをどう思っただろうか………。
引き出しを開けた。
花言葉は正義、誠実………。
──【あなたを信じる】
マティアスは何か思うところがあってきたのかもしれない。
まだ、俺を信じていると………。
エンブレムの下の板を上に開けた。
その中から、古びた鍵を取り出す。
──父から託されたこの鍵………。
俺はそれを持ち、ぎゅっと握り込んだ。
そして、椅子から立ち上がり、本棚の前に行った。
大きな本棚を一つ横に動かした。
すると、そこから大人一人がギリギリ通れる小さな扉が姿を現した。
俺は持っていた鍵で、扉の鍵を開けた。
ガチャン………と、古びた扉の鍵が開いた。
扉を開けると、下へと続く階段が伸びていた。
俺はその階段を慎重に一段一段降りていった。
その視線はとがったナイフのように鋭く、俺を探るような表情だった。
「父さん………」
父さんが目尻にシワを作り、仕事上の笑顔を作った。
「やぁ、マティアス君。久しぶりだね。すっかり立派になって、見違えたよ」
マティアスも父にお辞儀をして、「公爵様、ご無沙汰しております」と言った。
父さんは俺の横に立ち、顔は笑顔のまま「何を話していた」と小声で言った。
俺は「近況報告だけです」とマティアスに聞こえないように言った。
「マティアス君、せっかく来てくれて悪いが、これから商談があってね。レオンハルトも、もうじき爵位を譲る関係で出席する必要がある」
「そうでしたか、それは失礼いたしました。それでは私はこれで………」マティアスはそう言って、来た道を帰っていった。
父さんはチラッと俺の顔を見て、さらに目を細めた。
余計なことはするなよと、釘をさすかのように………。
◇◇◇
「お嬢様、どうですか? 本当にあの女は家にいますか?」
「ええ、いるわね。あの女と叔母って人も。シルバーグレーの髪だから、間違いないわ」
「本当に、あの者たちに任せて大丈夫なのですか?」
「あんまり、多くの者と関わると、足が付くからいいのよ。それに、欲しいというものもあげたし、きっと働いてくれるわ」
私は隣国から取り寄せた、遠見鏡を下ろした。
あんないやらしい目で、私のことを見て、スカーフまで持っていったんだから、今回こそやってもらわないと。
「あ、あれって荒くれものたちですか? 良くは見えないのですが………」
私は再び、遠見鏡を目に当てた。
あの3人の荒くれものが、大きな凶器を持って、あの女の叔母の家の前に着いた。
さすがに、あの者たちも考えたのね。
始末していいって言ったから、あんな大きな凶器を持って。
私は口元に笑みがこぼれた。
「お嬢様………?」
「ふふふ。なんでもないわ。やっとだなと思ってね」
これで、やっとマティアス様と晴れて一緒になれるんだわ。
私は遠見鏡を胸に抱いた。
それはとてもひんやりとしていた。
さて、そろそろ片付いているかしら?
私はまた、遠見鏡を目にあてた。
「えっ! ど、どういうこと!?」
この遠見鏡壊れているのかしら?
私に幻覚を見せているの?
だって、そんなはず………。
私はのどを鳴らしながら、もう一度慎重に覗き込んだ。
あの女の叔母の家からは、あの3人が出てきていた。
──体に縄を巻かれて。
そして、家の周りは騎士団によって囲まれていて、凶器も没収されていた。
「………そんな」
そして、ひときわ大きな赤髪の男がまっすぐこちらを射抜いてきた。
わたくしは思わず、遠見鏡を下ろした。
心臓がたくさん走ったあとのように、ドクンドクンといっている。
思わず、胸を押さえた。
「お嬢様?」
「………して」
「今、なんと?」
「いいから、いそいで馬車を出してちょうだい! すぐに家に戻るわよ!」
「はっ、はい! かしこまりました!」
あの赤髪の男、知ってる。
マティアス様と仲のよい、鬼の騎士団長………。
──アストラ騎士団長………。
彼が動いているというの………?
しかも、わたくしが乗っている馬車の方をまっすぐ見てきた。
馬車は猛スピードで走り出し、移り行く車窓を見た。
──大丈夫。証拠なんてないんだから。
きっと、大丈夫………。
わたくしにはお父様がついているもの………。
わたしはなだめるように、胸をさすった。
◇◇◇
我が家は隣国との取引をしている関係で、海が近い。
夜になり、窓を開けていると波の音が耳まで届き、俺の心をなだめてくれる。
お前は良くなっているよと。
万年筆を置き、書類から目をそらした。
眉間を指で押さえる。
マティアスは父と俺のことをどう思っただろうか………。
引き出しを開けた。
花言葉は正義、誠実………。
──【あなたを信じる】
マティアスは何か思うところがあってきたのかもしれない。
まだ、俺を信じていると………。
エンブレムの下の板を上に開けた。
その中から、古びた鍵を取り出す。
──父から託されたこの鍵………。
俺はそれを持ち、ぎゅっと握り込んだ。
そして、椅子から立ち上がり、本棚の前に行った。
大きな本棚を一つ横に動かした。
すると、そこから大人一人がギリギリ通れる小さな扉が姿を現した。
俺は持っていた鍵で、扉の鍵を開けた。
ガチャン………と、古びた扉の鍵が開いた。
扉を開けると、下へと続く階段が伸びていた。
俺はその階段を慎重に一段一段降りていった。
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