[R18]異世界に売られた少年は甘い檻の中で溺愛される

harihari

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ご主人様と凪

部屋の外

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 サイドテーブルに置かれていた服を勝手に拝借し、袖を通す。シルクの柔らかな肌触りが心地よい。凪の人生において袖を通したこともないような上質な素材でできた服は、凪の身体に合わせて仕立てられたのか着心地が良かった。一体いつの間にと気になったが、それは富のなせる技なのだろうということで納得する。

 何はともあれ、一日ぶりに服を着ることができ、凪はほっと息を吐いた。

 首輪はつけられたままだったが、それ以外の拘束はされておらず、アステルも眠っている今は、逃げ出すには絶好の好奇だと思った。首輪は自力で外すことは叶わなかったが、奴隷契約による特別なもののような気がしたため諦めることにする。

 凪はアステルを起こさないように、そっとベッドから降りる。ベッドの軋む音が響いてどきりとするが、アステルが目を覚ます気配はなかった。

 凪は、そろりそろりと扉に近づき、扉に耳を当てて音を確認する。扉の外からは何も聞こえてこない。誰もいないようだ。ドアノブをゆっくりと回す。ガチャリと音を立てて、扉が開いた。

 凪は恐る恐る外の様子を覗いた。廊下は真っ暗で誰もいないようだ。本当に誰もいないかもう一度確認するが、物音ひとつしない。背後を振り返るが、アステルは眠ったままだった。部屋から出ようとして、一瞬躊躇する。この部屋から一歩でも外に出たら、きっと逃亡と見なされる。アステルは追ってくるだろう。捕まれば、また酷い目に遭うかもしれない。

 地の利もなく、この世界のことも何一つ知らない状態で今逃げることに勝算はあるのか。

 それに起きた時に自分がいなかったら、アステルは何を思うだろう。

 凪は、アステルの寝顔をもう一度見た。アステルは気持ち良さそうに寝ている。ほんの少し、罪悪感が湧いた。駄目だ、そんなことは考えるな。頭を振り、芽生えた感情をかき消す。

 そして意を決したように拳を握りしめると、音を立てずに扉を閉めて、部屋を離れた。

 ◆

 まずは建物の外に出ようと階段を探した。廊下は暗く、窓から差し込む月明かりだけが頼りだった。転ばないよう壁に手を当てながら歩いていくと、突き当たりに階段を見つけた。

 広い屋敷であったが、真っ直ぐな片廊下に面して部屋が配置されているだけのシンプルな内部構造だったため、階段さえ見つけてしまえばあとは迷うことなくエントランスホールまで出られた。誰とも遭遇することなく辿り着いたことに、凪はほっと胸を撫で下ろす。

 しかし安堵も束の間、扉に手をかけようとしたときだった。

「こんな時間にどちらへ行かれるのですか?」

 背後から声をかけられ、凪は思わず飛び上がった。びくりと肩を震わせて振り返ると、そこには執事服に身を包んだ男の姿があった。屋敷に連れてこられた時に、セバス、とアステルが呼んでいたのを思い出す。

 まるで蛇に睨まれた蛙のように身体が硬直して動かない。恐怖と緊張で心臓が早鐘を打つ。凪は身体を強張らせたまま、視線だけを彼に向ける。

 藍色の髪と瞳を持つ端正な顔立ちの青年だった。年齢は二十代後半くらいだろうか、すらりと伸びた手足に均整の取れた身体つきをしている。

「よ、夜の風に当たろうかなと」

 凪は、さすがに苦しすぎる言い訳を震える声で答えた。声が上擦り、ますます怪しいものになってしまう。そしてそれはセバスに一瞬で見抜かれてしまったようだ。

「夜の風、ですか。つまりご出立されるのですね」

「っ!」

 凪は慌ててドアを開こうとするが、セバスに腕を掴まれる。

「放せ!」

 凪はセバスの手を振り払おうとするが、ビクともしない。それどころかますます強く腕を握られてしまう。痛みのあまり顔をゆがめた凪を、セバスが感情の読めない目でじっと見つめると、声のトーンを落として再び問いかけてきた。

「お逃げになるのですか?」

「……っ」

 凪は言葉に詰まった。図星だったからだ。しかしそれを肯定するわけにはいかない。もし認めてしまったら、間違いなくアステルの元に連れ戻されてしまう。

「夜の風に当たりたいって言ってるだろう!」

「散歩がしたいということでしたら、敷地内といえど夜は危険ですので、私も同行しましょう」

 有無を言わさぬ迫力に、凪は押し黙った。セバスの言うことはもっともであったが、ここで頷けば逃亡の機会を逸することになる。

「いい、一人になりたいんだ」

「わかりました。では、散策は庭園の中のみでお願いします。私は玄関で待機しておりますので、お戻りの際にはお声がけください」

 凪の拒否をどのように受け取ったのか、セバスは頷き、にこりと微笑んだ。凪はその笑顔にどこか薄ら寒いものを感じ、思わず後ずさる。セバスはさらに追い討ちをかけてきた。

「もし庭園から出る素振りがあれば旦那様に報告しますので、ご承知おきを。旦那様は氷の魔術師と呼ばれるお方。世界中を氷漬けにしてでもあなた様を探すかもしれません」

「っ!」

 アステルなら本当に氷漬けにするかもしれない――背筋が凍りつくような想像をしてしまい、ぞっとした。
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