[R18]異世界に売られた少年は甘い檻の中で溺愛される

harihari

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魔獣の森

アステルが好きそうな場所

 リンダを追って凪は薄暗い森の中を進む。行く宛もこれからのプランも白紙だったが、それでも立ち止まるよりはマシだろう。ただその想いだけで凪は足を動かす。

 背丈くらいまで高く生い茂った草むらが、人間の立ち入りを拒むかのように行く手を阻む。立ち並ぶ木々は行く先を遮るように葉を生い茂らせていて、日の光も満足に届かない。

 しかし、そんな道なき道は、唐突に終わりを告げた。

(なんだ、ここ?)

 鬱蒼と生い茂る木々の隙間から小さな空き地が見えてきて、凪は足を止めた。目を凝らしてその場所をよく見る。

 無数の白い花が咲き誇り、その中心には大きな木がそびえ立っていた。まるで森の主のような存在感を醸し出す巨木は、天に向かって枝を広げ、青々とした葉を茂らせている。大地には大人が数人手を繫いでも届かないほどの太い根が地面から這い出し、悠然とそこに鎮座していた。

 直径二十メートルくらいはあるであろうその空き地は、人の手が加えられているかのように整然としていた。それまでの鬱蒼とした雰囲気とは打って変わって、気持ちの良さそうな木漏れ日が差し込んでいる。その光を受けて、草花がきらきらと光に照らされている様子は、目を奪われるほどに幻想的だった。

「アステルが好きそうな場所だな」

 ふと頭に浮かんだのは、魔法で作ったランタンを見つめながら楽しげに話すアステルの顔だった。綺麗なものを好む彼なら、この景色は気に入るのではないかと思った。

 今度教えてやろう――そう思ったが、それは叶わない願いであることを思い出す。リンダを探すのはルークたちから離れるための口実だった。例えリンダを見つけても、屋敷に戻るつもりはないのだから。

(……何であいつのことなんか考えているんだよ)

 ――軽いものなら食べられそうですね。果物でも準備しましょう。

 そう言って席を立ったアステルは、今頃きっと凪を探していることだろう。心配しているかもしれない。せめて書き置きくらい残してくればよかったと、そんな勝手極まりない後悔の念が今更ながら湧き上がってくる。しかし、それももう遅い。

 屋敷の外に出たのは成り行きだったが、その発端を作ったのは凪自身だ。元の世界に帰って、やらなければならないことがあるから。

「アステルには悪い事したけど……もう戻る気は無いんだ」

 罪悪感に蓋をしてそう呟くと、凪は巨木の根元に目を留め、顔を綻ばせる。そこには、一匹の白蛇が丸まっていた。リンダだ。

「見つけた。ほら、帰るぞ」

 リンダは首を垂らしたまま、凪を静かに見つめている。凪はリンダに歩み寄ると、その身体に手を伸ばす。滑らかで真っ白な鱗にそっと指先で触れ、すべすべとした肌の上をくすぐるように動かしてみるが、リンダが動く気配はなかった。

「何だよ……大人しいな」

 リンダの顔を覗き込んでみるが、つぶらな瞳はじっと一点を見据えたままだ。瞬きひとつなく、時が止まったかのように動かないのだ。

(そういえば蛇って寝る時も目を閉じないんだっけ)

 リンダの沈黙に、凪はふとそんなことを思い至る。

「お前、もしかして寝てる?」

 試しに声をかけてみるが白蛇の反応は無い。どうやら本当に寝ているようだった。

(まいったな……こいつをルークたちの近くで離したら、どさくさで逃げようと思ってたけど、これじゃ無理だな……)

 たぶん、眠るリンダを手渡したらその瞬間に凪も捕獲されてしまう。
 かといって、ここに放置するわけにもいかない。白変種は自然界では目立つから、天敵に見つかったらすぐに捕食されてしまうだろう。

「――とりあえず、こいつが起きるのを待つか」

 凪はリンダの傍に腰を下ろすと、幹に背中を預けて空を見上げた。周囲は拓けていて見通しも良いし、日はまだ高く日没までだいぶ時間がある。少しくらいのんびりしても問題は無いだろう。

 一時の安らぎを得ると、途端に腹の虫がぐう、と鳴いた。

「そういえば昨日から何も食べてないな……」

 一度空腹を思い出してしまうと、意識しないように努めていても空腹は酷くなっていく。何か食べたいが、周囲を見渡せど食べられそうなものは見当たらない。

 ちょっとした期待を込めて下衣のポケットに手を入れて見るが、当然の如く何も入っていなかった。
 着せられた服は、元々アステルの持ち物のはずだ。几帳面な彼が携帯食を入れたままにするはずもなく、思わずため息が溢れる。

「腹……減ったなぁ……」

 日本ではそこそこの都会なら道を歩けばコンビニがあるし、自宅の冷蔵庫を開ければ何か食べ物があった。生活は豊かとは言えなかったが、それでも生きるのに困ることのない国だった。
 しかし今は違う。アステルがいなければ食べ物を手に入れる術もない。

「アステルがいなければ、か。本当に飼われているみたいだ」

 膝を抱えて小さく丸まると、上衣の袖口が鼻先に当たる。ムスクの良い香りが鼻腔をくすぐった。アステルがいつも身に纏っていた香りだ。

「あいつ、良い匂いがするよな……」

 そう呟いて、凪はハッと我に返り頭を振る。

(な……なに言ってんだ俺は!)

 まるでアステルの残り香を嗅ぐように袖口を顔に近づけていたことに気がついて、慌てて上衣から顔を離した。顔が熱くなり、鼓動が早まる。その動悸を誤魔化すかのように、凪は頭をくしゃくしゃと掻きむしった。

「くそ……っ」

 羞恥に顔が火照り、頭を振ってみても抜けきらない陶酔感に意識が囚われていく。気にすると少し匂いが濃くなった気がした。甘いムスクの香りをより詳細に思い出すごとに、身体の芯が熱くなる。

 凪は頭を冷やそうと大きく深呼吸をした。しかし、その度に鼻腔に絡みつくムスクの香りを意識してしまって、余計に身体が熱を帯びる。心拍数が跳ね上がるのを止めることができない。

(なんで……)

 どくんどくんと心臓が高鳴る音がやけに耳につく。
 凪は自分の反応に戸惑いを隠せなかった。アステルの残り香がこんなにも気になるなんて、おかしいと自分でも思う。けれど、意識すればするほどその香りに心も身体も囚われてしまう。
 せっかくアステルから離れたというのに、これでは本末転倒ではないか。

「ほんとに何なんだよ……っ」

 気を抜くとアステルのことばかり考えてしまう自分が腹立たしい。そして何より、この場にいない人間に翻弄させられていることが悔しかった。

「ああもうっ!ぜんぶあいつのせいだ!」

 凪は虚空に向かって声を上げた。八つ当たりとわかっていても、そうせずにはいられなかった。凪の声は森の中に響き渡り、虚しく木霊した。

 ――かさ。

 草を踏み締める何かの足音が聞こえたのは、そんな時だった。
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