[R18]異世界に売られた少年は甘い檻の中で溺愛される

harihari

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魔獣の森

甘い花の香りに運ばれて

「これはね、魔素を溶かしたただの水。経口摂取はもちろん、粘膜からも摂取できる優れものなんだ」

 凪の目の前で小瓶に入った液体がたぷんっと音を立てる。その音が妙に耳につく。

 腕の中に居たリンダは取り上げられ、身に着けていた衣服も剥ぎ取られた。リンダは凪の着ていた服とともに草地に放され、その周囲には黒い狼が控えている。リンダはいわゆる人質だ。

 そして裸に剝かれた凪はというと、木の幹に両手をついて、イースランに背を向ける形で立たされている。自ずと腰を突き出すような態勢を取らざるを得ず、羞恥に頬が熱くなる。

 イースランはそんな凪を後ろから抱きしめるように密着すると、凪の白い肌をすりすりと撫でながら、反対の手では見せびらかすように凪の目の前で小瓶を揺らした。

「異界人の血や肉、体液や分泌物には、空気中の魔素から生成された魔力が蓄えられていてね、それらを摂取することで僕らは強力な魔力を得ることができるんだ。そしてそれは、君たちの感情が昂れば昂るほどに、上質で美味しいものになる。じゃあ感情を昂らせるにはどうしたら良いか――そこで、この水の出番ってわけ」

 魔素。その単語に凪はびくりと肩を揺らす。頭がくらくらするような官能的な魔素酔いの感覚を思い出し、凪は無意識に身を硬くした。
 しかしそれ以上に、聞き捨てならない言葉があった。

「体液や分泌物?それって……」

 凪の尿を嬉々として飲んで見せたアステルの姿がイースランと重なって見え、凪は戦慄する。
 悪夢が蘇るようだ。

「君の身体から生み出されるもの全てだよ。涙や汗、尿――」

「冗談じゃない!誰がお前なんかに……ぁっ!?」

 予想通りすぎる返答に思わずイースランを遮って声を荒らげる。しかし、それも一瞬だった。毅然とした態度で拒絶の言葉を返した瞬間、不意に指先が胸の飾りを掠めたのだ。

 びりっと甘い電流のようなものが背筋を駆け抜け、身体に力が入る。突然のことに思わず漏れそうになった声を寸でのところで押し殺すと、凪はイースランを睨みつけた。しかしイースランはそんな反応すら楽しむように笑みを深くするばかりで全く意に介さない。

「それで、どっちの口から飲みたい?」

「どっちって……」

 イースランの聞かんとしていることは、状況や取らされている姿勢から凪にもわかった。わかりたくなかったがわかってしまう、そんな自分が悲しくなる。

(どっちを選んでも地獄だ)

 この窮地から脱する術が思いつかずに、凪は心の中で悪態をついた。
 どちらを選んだところで、酷い辱めを受けるのは目に見えている。それを自分から乞うなど言語道断、あり得ない。

 ――けれど、それを言ったら黒い狼に囲まれるリンダはどうなるか。

 選択肢は二つに一つ。自分のプライドとリンダの命、どちらを選ぶか。

 そんなの、答えはひとつしかない。けれどその言葉がどうしても口から出てこなくて、凪は唇を噛み締めた。

「それに答えたら……あんたは俺に何をする気だ」

「決まっているじゃないか。魔素でトロトロになった君を味見するんだ」

「味見……?」

 不穏な言葉に凪は眉を潜めて聞き返す。凪と身体を重ねる気満々のこの男は、一体自分に何をするつもりなのだろうか。薄々察してはいたが、それを言葉にされるのが怖くて、あえて考えないようにしていた。

 しかし、そんな凪の思いなどお構いなしに、イースランは凪の耳元で囁くように呟いた。

「僕と、セックスするんだよ」

 艶めかしい吐息交じりの言葉が鼓膜をくすぐる。
 勘違いであって欲しいと願った言葉はやはり現実のもので、凪は絶望的な気持ちになった。

(アステル以外の奴に身体を許すなんて絶対に嫌だ……!)

 ――なら、アステルなら良いのか?

 不意にそんな問いが頭に浮かんで、凪は慌てて淫らな考えを振り払うように首を振る。

「嫌だ……あんたなんかに抱かれたくない」

 これから行われるであろう行為は簡単に想像がついた。ぞっとしたものが背筋を駆け上がり、凪は小さく身体を震わせる。
 絞り出すように発せられた拒絶の言葉は、イースランに鼻で笑われただけだった。

「君に拒否権なんてないの、分かってる?」

 イースランは恐怖に震える凪を見下ろすと、にんまりと笑った。赤い獰猛な目が怯える小動物を見るかのように細められ、口からは尖った犬歯が覗く。

「ああ……良いねその顔。狼に狙われた野兎のようで唆られる。大丈夫、ちゃんと解して痛くしないから。だからそんなに震えないで。ナギ」

 イースランは怯えて揺れる凪の瞳を覗き込み、震える唇を親指でなぞってくる。その度にぴくり、と身体が反応してしまう。こんな男の指から伝わる微かな刺激さえ快感として拾い上げてしまう、そんな自分の身体が酷く浅ましい。
 屈辱を堪えるように凪はぎゅっと目を瞑った。

「ほら、口開けて。飲んで」

 イースランの手の中にあった小瓶の蓋が開けられ、硬直する凪の口元に当てがわれる。唇から硝子の冷たい感触が伝わり、甘い花の香りが嗅覚を刺激した。

(嫌だ)

 凪は必死に唇を噛み締めてそれを拒絶した。口を開けたら最後、得体の知れない液体を流し込まれるのは分かりきっている。しかし、イースランも引き下がらない。

「大丈夫、安心して。その首輪の約定により、君の生命は保証しないといけないから、痛いことは絶対にしない。今は快楽漬けにして、最高に甘くなったそれを美味しくいただくのが僕らの主流なんだ」

 まるで凪のことを食糧としか見ていないような言い草だ。凪は顔を背けると、嫌悪感を露わにしながら吐き捨てた。

「同意も無くそんなことするのか?最低のクズ野郎だな」

「同意?君は乳牛と同じだよ。身体を提供する代わりに餌と寝床を与えられる、ただの家畜だ。乳牛に搾乳の許可なんて取らないでしょ。あるのは利用価値だけだ」

 少し会話しているだけでその異常さが際立って見える。例えるなら、蝶の羽を興味本位でもいで遊ぶ子供のような、そんな悪意のない無自覚の残虐性をイースランから感じた。アステルも大概だったが、アステルはまだ自覚があった分マシに思えてくる。

 アステルは自らが綺麗ではないと言いながら、だからこそ一途に美しいものにこだわっていた。それに対してイースランの心はドス黒い狡猾さで真っ黒に染まりきっているのに、その自覚がまるでないのだ。その無邪気さが恐ろしいと凪は感じた。

 ――この男に心を許すのは、危険すぎる。

「あんたのことは嫌いだ」

「――へえ?」

 それまで愉快そうだった声音に瞬時に影が差した。まずいと思った時にはもう遅かった。

 突然、顎を掴まれて強引に上を向かされると、イースランの手にあった小瓶を口の中に押し込まれた。凪は拒絶しようともがくが、イースランに顎をがっちりと押さえられてしまい身動きができない。

 そのまま小瓶を傾けられると、どろりとした甘い液体が口腔内に流し込まれる。まるで花の蜜のような濃厚な香りと甘みが口内に広がった。

「せっかく優しくしてやったのに、ごちゃごちゃうるさい。黙って飲めよ。吐き出すことは許さない。そんなことしたらお仕置きだよ」

 その絶望的なまでの嫌悪感に吐き気を催すが、口を手のひらで乱雑に塞がれてしまう。流し込まれた液体は無情にも喉を伝い、胃へと流れこんでいった。

 イースランは凪を組み敷くと、まだ小さな凪の昂りにそっと指を這わせる。抵抗しようと暴れても、強い力で押さえつけられていて、思うように動かない。

「さあ、『知り合い』になろう。ナギ」

 まるで大きな獣が狩りをするかのようだ。イースランは目の前の獲物を見据えると、にやりと口の端を歪めた。

 ◆

 イースランは魔法で生み出した蔦で、凪を地面に縫いつけて大の字に拘束すると、何をするでもなくじっと凪を見下ろして笑みを深くする。薬液が効き始めた凪が自ら快楽を求め始めるのを待つかのように、指一本動かさずにただ凪を眺めていた。

 この状況を調理に例えるのなら、下味をつけて冷蔵庫で寝かせている肉のようなものだろうか。下味が魔素、肉が凪だ。魔素が浸透しきったら、刺激という強火で焼き上げて完成だ。

 息を吸って、吐いて。また息を吸って。ただ、それだけを繰り返す時間が過ぎていく。
 けれどタイムリミットは刻一刻と近づいていた。

 この熱が全身に回ったら、自分はきっと耐えられない。この男に『食べられて』しまうのだろう。

 まな板の鯉ような状況に思わず涙を浮かべると、イースランが嬉々としてその雫を舐めとって、恍惚とした表情を浮かべてくる。

 きっと、とても美味なのだろう。この男にとっては。
 イースランを睨みつけると、その背後に広がる青空が目に映った。

 その寒くないはずの空からは、いつの間にか淡い雪が降り始めていた。
 それに気づいて、この世界では気温が低くなくても雪が降るのか、なんてことを考える。

 淡雪は陽光を浴びてキラキラと輝いていて、場違いなほどに美しくて。
 アステルに見せたらきっと喜ぶだろうなと、そんなどうでもいいことを考える。

 だんだん、身体の奥からじわじわと熱が灯っていく。
 それと共に下腹部から体内にかけて炙られるような感覚が全身に広がっていくのが分かる。無理やり高められる官能に理性まで持っていかれそうになり、凪は必死に唇を噛んで耐え忍んだ。

 ――アステル………………。

 アステルは今、どうしているのだろうか。
 凪はぼんやりとした頭でそんなことを考える。

 自分から離れておいて、今さら彼のことが気になるなんて、あまりにも都合が良すぎて思わず嗤ってしまう。

 でも――――
 優しく撫でるしなやかな指先も、花弁のように柔らかな唇も、その温もりも、肌の匂いも、手に取るように思い出せて、もう全てが懐かしい。

 それはきっと、花の香りに唆されたが故の感情なのだ。
 甘い香りが運んでくる、一時的な感情なのだ。

 だから遥か上空に、風に吹かれてなびく銀色の髪が見えた気がしたけど、それはきっと気のせいなのだ。

 自分を呼ぶ声が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいなのだ。
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